「突撃」
この建物の作りは、外から見る限りただの正方形に見えた。恐らく三階まで、ほとんど同じ構造になっているのだろう。三階の部屋は全部で四つ。一部屋に詰め込めば二十人は入れそうだけど、あくまでここは廃工場で行われる秘密の会合だ。それに、三階の見張りが一人しかいなかったことも踏まえると、多く見積もっても二十人はいないと思う。
私はもう足音を立てないよう、静かに階段へ向かって歩き出した。下の階から微かに人の声が聞こえてくる。さすがに話の内容までは分からないけど、声の数なら把握できた。
三人だ。
幹部ではない。幹部なら、何かあったときにいつでも逃げられるよう、一階に集まっているはず。なら、行くなら今だ。
覚悟を決め、階段の踊り場から二階へ音もなく飛び降りる。腰のナイフを抜くと同時に、目の前に並んでいる三人の男たちへ向かって全力で走り出した。
暗いところは好き。
仕事が捗る。
「なんだ!?」
右端の男が、目の前まで迫った私に気づいた。けど、もう遅い。
右足を軸に身体を回転させ、左手に持ったナイフを振るう。男が反応するよりも早くその動きを封じ、私は回転の勢いを殺さないまま次の標的へと身体を向けた。
「てきしゅ……!」
真ん中の男が叫ぼうとする。けれど、叫ぶくらいなら撃つべきだった。
私は右側の壁を強く蹴り、身体を横へと飛ばした。
狭いところも好き。
仕事が捗る。
空中でナイフを右手へ持ち替え、身体をひねりながら真ん中の男へと迫る。男の声が途切れたときには、もう次の動きに移っていた。
二階に降りてきてから、三秒くらい経ったかな?
ようやく左端の男が、これまたコルト・パイソンを私に向けてきた。
ガァン! ガァン!
間髪入れずに二発か。
素人め。素早く動いているうえに、暗くてよく見えない相手に、同じ場所を狙って撃ったところで当たるわけがない。
私は着地と同時に大きく姿勢を低くし、床に身を伏せた。弾丸が頭上を通り過ぎ、遠くの壁に当たる音がする。それを確認してから男の懐へ踏み込み、足を払って床へ倒した。
すぐに銃声を聞きつけた仲間が集まってくるだろう。私は倒れた男の銃を拾い、残りの男たちからも使えそうな弾薬を集めると、最後の男を銃で撃った。
その直後、二階の奥の部屋から複数の足音が聞こえた。ほとんど同時に、階段を上がってくる音もする。
挟み撃ちは面倒くさい。
どちらを先に相手にするかが問題だ。二階なら敵の数は少ないけど、奥へ進めば逃げ道がなくなる。反対に階段側は敵の数が多く、全員が上がってくる前に対処しきれない可能性がある。
なら、どうしよう。
……考えている暇なんてないか。
私は再び階段を駆け上がり、三階へと戻った。ここなら階段から上がってくる敵だけに集中できる。少なくとも、背後から挟まれる心配はない。
銃を持つ手を握り直し、深く息を吸う。
緊張なんてしたことがないから、こんなことをしても意味があるのかは分からない。けれど、いつも仕事の前にはこうしている。決まりきったルーティンのようなものだ。
そう。戦場では、感情を表に出した人間から命を落とす。
私はそんなミスをしない。
ただのマリオネットだから。
「上だ!」
「階段以外に道はないのか!」
「しゃらくせえ!」
下の階から、カチッ、と小さな音が聞こえた。
何かの作動音。爆弾の可能性がある。
私は階段のすぐ近くに身を潜めていたが、すぐにそこを離れ、部屋の中央へと移動した。階段のそばにいたら、爆発に巻き込まれるかもしれない。
来るなら来な。
投げ込まれる爆弾にも、突撃してくる相手にも、対応することには慣れている。
「離れろ!」
ドカンッ!!!!
――ッ!?
けたたましい爆音とともに、私はわけも分からないまま身体を吹き飛ばされた。予想していたものとは、何かが違う。
すぐに体勢を立て直そうと後ろを振り向く。
砂煙が舞い上がる。その向こうから、銃弾がいくつも飛んできた。




