娘の想い
男性とハナの後について坂を登った。
街灯もない暗い夜道を登る、唯一の頼りは先に登る男性の持つ懐中電灯の灯りのみ。
栄清も充電の残量を気にしながら、少しだけスマホで足元を照らし、周りを見ると、道の途中にある家々のほとんどはやはり廃墟。こんな寂れた場所で暮らしているのかと思うと、どこかゾッとしてしまう。そして、ハナがすでにこの世の人ではないと言う事実。
――もしかして、あの爺さんもそっち側なんじゃ……。
そう思うと、ますます背筋が寒くなる。
――まさか、冥府への水先案内人じゃないよな?
現実離れした話があまり好きではない栄清だが、この時ばかりはそう思ってしまう。
この島に来てから、理由も説明も上手くできそうにない出来事が、栄清をそうさせていた。
「こちらですよ」
男性が道の途中足を止めてこちらを振り返る。手にした灯りが、微笑む柔和な顔の下から照る様子を見て、栄清は無意識に息を飲んだ。
「おじさん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「……!」
気付くと真横から顔を覗かせてくるハナに、意図せず体が跳ねた。栄清のその様子に、ハナはおかしそうに笑う。
「心配しなくていいよ――お父ちゃんはまだ、こっち側じゃないから」
意味深に、しかし少し寂しそうな雰囲気を滲ませて笑いながらハナはそう言うと、栄清を家へ招き入れた。
部屋は、何と言うことはない。昔からある古民家で、天井は低く障子や襖、茶ばんだ畳と、ほんの少し埃のにおい。田舎のにおい、と言えばいいのだろうか。どこか懐かしさと安心感を感じる家だった。
「さあさあ、上がって下さい。狭いボロ屋ですけど」
男性がにこやかに呼び寄せるその隣に、ハナも座りにこにこと微笑んでいる。
「お邪魔、します……」
部屋に上がらせてもらうと、男性は「ちょっと待ってて下さいね」と一言断りを入れて立ち上がり、家の奥へと消えていく。
部屋に残された栄清は、体を崩す余裕もなく座っていると、それを見ていたハナはクスクスと笑う。
「ねぇおじさん、もしかして軍人さん?」
「……い、いや?」
「ふぅ〜ん。そうなんだ。凄くガチガチに固まってるから、軍人さんなのかと思った」
「……」
あまりに屈託なく、普通に笑うハナを見ていると、栄清は段々緊張感が解けてくる。同時に普通に会話がてきてしまう不思議に、栄清はだんだん緊張感が解けていった。
「……君は、本当に……」
そう言いかけて、栄清は言葉を飲み込む。
ハナはそれに気付き、言い淀む栄清の言葉を理解して微笑み、頷き返した。
「うん、そうだよ。私は戦争で死んじゃったの」
こともなげにそう言ったハナだが、すぐに表情を曇らせて僅かに顔を伏せる。
「……お父ちゃんに言えなかったこと、いっぱいあるんだ」
「……」
ハナは僅かに視線を外し、何かを言い出そうな目をしている。
栄清は、そんな彼女の顔を見て、なぜか娘の事を思い出した。娘は、ハナと同じくらいの年頃。もうすぐ十六になろうとしていたはずだった。
彼女の様子を見ていると、妙に親心が顔を出す。
「……言えなかったことが何か、俺が聞いてもいいか?」
無意識にそう尋ねると、ハナはパッと表情を明るくしてこちらを見た。そのあまりに純粋な表情に、栄清は面食らう。
「聞いてくれるの?」
「あ、あぁ、まあ、君がいいなら……」
「良かった〜! 私も、やっと行けるんだ」
「……」
――行ける?
その一言と、彼女の心底安堵した表情を見て、栄清は疑問を抱いた。




