始まりの時刻
自信満々に「絶対来る」と一方的な断言をされた栄清は、不満顔で港まで戻ってくる。
平助が何を根拠にそう言い放ったのか知らないが、どうにも鼻持ちならない。しかも、神様と言われる側から挑発的に「供物を持ってこい」と言うのだから、尚の事腹が立った。
「なんなんだアイツ」
始めこそ、見えてはならないものが見えてしまった、と恐怖心を抱いたが、話してみれば何ということは無い。「好奇心旺盛な図々しい何か」と言う枠に収まり、恐怖心などどこかへ行ってしまっていた。
港へ戻る道中、栄清は一度足を止めて平助のいる方へと振り返った。
「もう二度と来るか」
胸の憤りが、そのまま言葉となって溢れた。
栄清は船が来るまでの間、港で簡易的に作られたテントとパイプ椅子の待合所で、ぼんやりと空を見上げていた。
ここに座ってかれこれ一時間くらいにはなるだろうか。観光で来たわけではない為に、他に見ようと思うところも無く、早く港に戻って来すぎた。
ふと腕時計に目をやると、時間はもうじき十五時五〇分を指そうとしていた。
――もう少しか。
「もう少しで船、来ますね」
そう考えた矢先、同じ言葉で真後ろから声をかけられ、栄清は驚いて背後を振り返る。するとそこには、現代離れしたような格好の若いおさげの女の子が一人、座っていた。
「もう帰るんですか?」
人懐こそうな顔で訊ねられ、栄清は困惑しながらぎこちなく答える。
「あ……えぇ。そうですね……」
「……今日は、船、少し遅れるみたいですよ」
「そう、なんですか」
「少し先に、喫茶店があるんですけど、そこで待ってみてもいいかもしれません」
少女はそう言いながら、先ほど大楠から戻ってきた道の少し先を指さした。
栄清は誘われるようにその指の先へ視線を向け、そしてすぐに彼女へと戻すと、ビクッと体を震わせる。
「……え」
栄清が視線を戻した先に、少女はいなかった。
何の気配も感じられなかった。誰もいない静かなこの場所で、誰かが来たのなら足音一つしてもおかしくはない。しかも、地面は砂利だ。踏みしめる石の音がして当然だと言うのに、何もなかった。
栄清はごくり、と喉を鳴らす。
――いや。いやいや。きっと考え事に集中し過ぎて、単純に気付かなかっただけだ。それか、疲れてるんだ。
目の前で起こった、何とも言葉にし難い現象を、一度ならず二度も見てしまったことに、栄清はあくまで気の所為だと自分に言い聞かせる。
――今見た少女も気の所為だ。船も遅れて来ない。
意地でもそう言い聞かせ、船の到着時刻をその場で待った。
「……」
栄清は時計に目をやる。
時間は十六時五分を過ぎようとしていた。
――嘘だろ。
船の到着時刻は十五時五十五分のはず。
栄清は見間違えたかと、あらかじめ写真を撮っておいた時刻表を見るためにスマホのフォルダを開く。見れば、時刻表には確かに、十五時五十五分と書かれていた。




