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自己紹介

「わたしね、ミコトだよ。山田美琴。思い出した?」

 少女――ミコトがこてんと首を傾げて言った。やはり聞いたことのある名前だと思う。でも思い出せない。山田という苗字はありふれていても、美琴という名前はそう多くなさそうだから、思い出せそうなものだが。

「おいミコト、なに馬鹿正直に自己紹介してんだ。こいつの冗談を信じてんのか」

 スポーツ刈りの少年が呆れたように言った。隣にいる大人しそうな少年が、まあまあ、といなす。

「いいじゃないか、自己紹介なんてなんだか新鮮でさ。僕はハルタ。田中陽太」

「ハルタ、お前まで……」

 スポーツ刈りの少年は面倒くさそうに頭をがしがしと掻いてから、分かったよ、とため息をついた。

「ユウ。倉本悠。まさかお前、自分の名前まで忘れたなんて言わねえだろうな」

 さすがにそれはない。自分の名前はちゃんと覚えている。

 橋田明宏、現実世界では二十八歳。ここではおそらく十代半ば。

 俺はアキと呼ばれているらしい。小さい頃は母親にそう呼ばれていた気がする。なんだか懐かしい。

「さすがにそれは覚えてる。で、ここどこ? 俺、何してたんだっけ?」

 ユウが呆れとも苛立ちともつかない表情で俺を睨む。

「本気でいかれちまったのか」

 さすがにこれ以上質問をしまくっていては時間の無駄かもしれない。せっかくの明晰夢なのである。無意味な質問で時間を浪費したくはない。

 それに夢ということは、この世界は俺の脳が作り出したものなのだ。ならば、すべての質問への答えは俺の中にあるはずである。

 俺はじっと考えてみた。すると意外なことに、答えはすぐに見つかった。

 というより、小屋の隅に放置されていたそれを見て記憶が蘇ったのだ。

「――人形劇か」

 小屋の隅に置かれていたのは、薄汚れた人形だった。腕に嵌める、人形劇用のパペットである。よほど使い込まれたのか、口のあたりが裂けて綿が出てしまっていた。あの不格好な感じは、既製品ではなさそうだ。おそらく手作りだろう。

「そうだよ、これね、わたしが作ったの。いっぱいいーっぱい練習したから、本番前に壊れちゃったけど」

「アキが無茶なことばっか言うからだよ。もっと派手にしろとかさ」

 そういえばそうだった。

 俺はこの劇団で、脚本と演出をやっている。

 劇団といっても、中学生の遊びだ。金を貰っているわけでもない。学校行事でちょっと演らせてもらったり、近所で小学生やお年寄り相手に演ったり。たまにチップの代わりにお菓子が貰えるんだ。

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