第4討伐隊とレン
【前回のあらすじ】
《セト》
魔王アイリスが、俺たちに宣戦布告してきた。レンとアレクシアはそれに乗ったが、俺は辞退した。多分、レイも俺と同じ理由で辞退したんだろうな。
そりゃそうだろ。目の前で一緒にいた(俺は短い間だけど)仲間が殺されたんだから、否が応でも次は自分だと思っちまう。
その逃げ切る事が出来た偵察兵は、槍を杖のように突き、片足を引きずりながら王都に戻ってきた。
人々が心配そうに見ている中、偵察兵は城門の手前で倒れてしまった。
「おい!どうした!何があったんだ!?」
門を守っていた兵士たちは、その偵察兵に駆け寄った。
「ま……魔王だ……。魔王アイリスが、俺たち偵察兵団を……」
「話は後で聞いてやる!おい!誰か軍医を呼べ!!早くこいつを治療室に連れて行くんだ!」
そう言いながら、兵士はその偵察兵を城に運び込んだ。
そして昼、レンは軍医を訪ねた。
「なんとか一命は取り留めていますよ。しかし、後数分治療が遅れていたら、どうなっていた事か……」
その軍医の言葉を信じて、レンはその偵察兵のいる病室を訪ねた。そこには、目を覚ましたばかりの偵察兵の姿がいた。軍医によると、当分は寝たきりの生活になるとの事。それでも、普通の人間が魔王と対峙して生きているだけでも奇跡だと思った方がいい。
「やはり、あの場は貴方が行かないとダメなようです……。私たちの事なんて眼中にないかのようでした」
「でも眼中にないなら、なんでアイリスはわざわざ偵察兵を殺したの?」
「あの者が言うには、『これ以上待たせるなら、君の身近な人がまた死んでもしらないよ?』との事です。それを伝えるためだけに、偵察兵団を襲ったのだと思いますね」
「……そっか。サンキュー」
そう呟いて、レンは病室を後にした。
その夜、レンは夕飯も食べずにガブリエル広場のベンチに座っていた。その表情はまるで自分の不甲斐無さに静かに怒っているようだ。
すると、レンの近くに誰かが寄ってきた。そこには自室で休養していたはずのクリシスがいた。
「少しいいか?話がある」
そう言うと、クリシスはレンを連れて、城のバルコニーに出た。
「話って何?」
レンはそう聞いたが、クリシスは中々話そうとしない。
「別に、この前の騒動でアイリスに首を絞められたせいで喋りづらいって言うなら喋らなくていいけど……」
そう言いながらレンはクリシスの顔を見た。クリシスはかなり悩んでいるようだ。しばらくクリシスは黙っていたが、ようやく口を開くと……。
「……ノエル・ケンザキ・フリューグントに助力を頼んだ」
そう言うと、レンは目を見開いた。今のノエルは強すぎる憎しみの矛先が魔王に向いている。そんなノエルがアイリスと対峙してしまえば、アイリスの挑発で逆上してしまい、闘技場の騒動以上の災害になりかねない。そうなってしまえば、レンはせっかくのライバルを失うことになる。レンとアレクシアの仇討ちも果たせなくなってしまう。
「……ノエちゃん何て?」
「ひと言も喋らずにどこかに行ってしまった。というか、そのあだ名は殺されるんじゃないか?」
「まあ、少なくとも今のノエルと戦ったら、致命傷は負いかねないかな」
クリシスは少し驚いた。レンが致命傷を負うかもしれないと言う事は、ノエルは相当に強くなっていると言うことだ。
「今のお前がそんな事を言うとは……」
「僕も予想外だったよ。まさかあんなに強くなってたなんてさ」
「なるほどな……。ところで、明日には行くのか?」
「うん。僕とアレクシアと討伐隊だけで。女王様、何番って言ってたっけ……?」
「第4討伐隊だ。多分、顔見知りばかりかもな」
「なんで?」
「第4討伐隊の大半はベスティア戦争を経験した兵士だ」
それを聞いても、レンは安心出来なかった。戦争を経験したと言っても、兵士達が戦ったのはレグルスではなく、レグルスが率いた軍の魔物達だからだ。今回はアイリスとの直接対決になる。そうなってくると、全滅もあり得る。
「でも、勝算はなさそうに感じるけど?」
「安心しろ。第4討伐隊の隊長は、ネルケディラ騎士団副団長の1人、ローザ・ヴェルメイルだ。ネルケディラ騎士団で、彼女以上の魔術師は見たことがない。超電撃を放つのも容易だ」
「……なるほど。そりゃ心強いかも」
そう言いながら、レンはバルコニーを出た。
「明日は早くに出発する。準備は十二分にしておけ」
クリシスはレンが去る時にそう言った。レンは手を振って応えた。そして、レンは宿に戻り、眠れなくなるまでしっかり寝た。
そして、ついに出発する時が来た。レンは城に向かい、アレクシアと合流した。どうやら、レイとセトは第4討伐隊と一緒に荷造りの手伝いをしているらしい。しかし、大半はレンの分の食料なので、実は第4討伐隊の荷物はそんなに無い。強いて言えば、〈魔矢〉か魔力回復薬くらいだろうか。
「レンさん。ボク達だけでアイリスを倒せるでしょうか……?」
アレクシアは心配そうにレンに聞いた。
「倒せるとまでは行かなくても、屈辱を与える事は出来るんじゃないかな。ああいった奴は屈辱的な状況に追い込まれるのが大嫌いだ、って相場が決まってるからね」
レンは笑顔でアレクシアにそう答えた。すると、2人の近くに魔導書を抱えた少女が近づいてきた。レンはその娘に見覚えがある。
「あ!君、昨日の……」
「あ、あの……。ローザ・ヴェルメイルです……。ネ…ネルケディラ騎士団の、ふ…副団長を務めています……。こ…今回は、宜しくお願いし…ます……」
ローザはかなりオドオドしている。
(この娘が本当にクリシスお墨付きの魔術師なのか?)
そう思ってしまうほどだ。レンがしばらく見つめていると、ローザは俯いていた顔を上げた。が、すぐにレンに気づき、魔導書で顔を隠してしまった。
「あ、あの……。ボク達、そんなに怖いのでしょうか?」
アレクシアはレンにそう聞いた。すると、近くにクリシスが寄ってきた。
「ローザはとても臆病なんだ。だから、あまり刺激しないようにしてやってくれ。『物理的』な意味でも」
「ふーん。でも、放つ魔法は凄まじいと……」
「ですが、その……。ハ…ハルトマン・アルターレ様のように、き…近距離での戦闘はあまり、得意じゃ…なくて……」
「そういう事なら心配ないよ。僕はこれでもベスティア戦争じゃ常に最前線だったから、君は後ろに回って援護してて」
「は……はい!」
すると、セトがレン達に近づいてきた。馬車に全て積み終わったようだ。だが、レイの姿はない。
「あれ?レイは?」
「腹痛くなってトイレだってよ」
その後、ついにレンとアレクシアが馬車に乗って出発する時が来た。セトとクリシスが見送りに残っている。
「レン。俺はダメな奴だな。アイリス討伐に命が惜しくて行けねぇなんてよ」
「別にいいよ。あんな事を目の当たりにしたんだもん。そうなって当然さ」
「……宥めてくれてどうも」
「じゃあ、ケリつけに行ってくる」
そう言ってレンは馬車に乗り込んだ。アレクシアもセトとクリシスにお辞儀をして、馬車に乗り込もうとした。その時、
「うっ……!」
急にアレクシアの胸が苦しくなった。と思いきや、すぐに治まった。アレクシアは不思議に思ったが、気には留めずに馬車に乗り込んだ。
そして、レンとアレクシアを乗せた第4討伐隊の馬車群は出発した。
【ちょっぴり用語解説】
〈魔矢〉
魔法の使えない弓兵の為に作られた魔法の力が込められた特別な矢。矢じりには魔結石と玉鋼を錬金した特別な金属を使っている。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
やっとこの章の終わり際です。




