苦い幕切れ
【前回のあらすじ】
《レン》
アレクシアのあのエーテル……。確実にマズイものだ……。
もし僕らに牙を剥いてきたら……。うげっ、考えたくない。
そして、アレクシアは次から次へとスペクターを狩り尽くしていく。1体殺せばまた1体と、最早流れるように行われている。レイが倒そうとしているスペクターでさえも横取りする程だ。
「ちょっ……。今の奴オレの獲物なんだけど!?普通横取りするか!?」
そう訴えかけるレイの言葉も聞かずにアレクシアはスペクターを殺し続けている。
レンとオルフェウスはアレクシアの様子を見ながら会話をしている。
「なぁ、オルフェ。あんたはアレクシアのあの状態どう思う?」
「俺は、あまり良い状態とは言えないと思うな」
「だよねー……。僕もそう思ってた。あの力、確実にヤバいものだよね」
そんな会話を交わしつつも、襲いかかってくるスペクターをレンとオルフェウスはそれぞれ片手間で倒している。時々、アレクシアの猛攻に巻き込まれそうになるが。
そうしている内に、スペクターは全て倒され、闘技場の辺り一面はスペクターの血で覆い尽くされた。
「ガアアアァァァーーー!!!」
アレクシアはスペクターの死体の上に立って咆哮を上げている。レンとレイとオルフェウスはそれを傍目から見ていた。
「なんか、かなり暴れてたな……。あいつ」
「うん……。時々スペクターの身体の一部を噛み砕いてたから、ね……」
「どうあれ、俺もお前たちも彼女に助けられたな」
「そうだな。まさかあいつがあんだけ強えなんて思いもしなかったぜ」
「でも、これでこの事態は免れたかな。宿に戻ったら、アイリスの事を考えないと」
そう言って、レンはアレクシアに近づいた。すると、アレクシアの鋭い眼光がレンに向いた。
「ん?どうしたの?アレクシア」
レンが聞くと、アレクシアは唸り声を上げて歯を食いしばりながらレンにゆっくりと近づいた。
「お、おい……。なんか変だぜ……?もう倒し尽くしたんだろ?なんでアレクシアは臨戦態勢なんだよ?」
レイはレンに聞いた。すると、オルフェウスがレイの肩を叩き、こう言った。
「武器を収めるな。今はいつでも戦えるようにした方がいい」
レイはオルフェウスの言う通りに、斧を腰に収めずに持ったままでいた。
今のアレクシアはレンの事を敵だと捉えている。それどころか、怒りで暴走しているせいで全てが敵にしか見えなくなっている。レンはそれを即座に理解し、剣を構えた。
「はぁ……。僕の嫌な予感って、なんでこうも的中率が高いんだろう……?」
そんな呟きもしつつ、レンはアレクシアを警戒している。アレクシアの唸り声は段々と大きくなり、
「グルルルル……!!グアァッ!!」
ついにレンに跳びかかった。最初の攻撃は難なく受け止めた。が、直ぐ様アレクシアは次の攻撃に移った。アレクシアの攻撃は今まで受けた攻撃よりも重く、かつ鋭く速い。
そんな攻撃はレンにとっては既に慣れたものだが、問題は攻撃の頻度だ。攻撃と攻撃の間の時間が余りにも短く、それでいて威力と速さは変わらないため、いくらレンでも受け続ければただでは済まない。
「おい!?大丈夫か!?」
レイの問いに、レンはすぐに答えられなかったが、合間を突いてこう答えた。
「ちょっとキツい……」
(このままだと殺されるかも……。だけど、手を借りるのは今じゃない……!)
オルフェウスはそんなレンを見て不思議に感じた。
「レイ……と言ったな。何故、レンは助けを求めない?」
「へ?そりゃ……、何でだ?」
「今の彼女がレンをもってしても止められないことは十分承知の筈だろう。それなのに何故、彼はああやって戦いを延ばそうとしている?」
オルフェウスの言ってる事は、レイにはさっぱりだった。
「分かんね。オレに聞かねぇでくんな」
アレクシアのレンに対する猛攻は徐々に激しくなっていく。ついにレンは、とうとう守りに限界がしてしまい、剣を弾かれてしまった。
(まずい!剣が……!)
間髪入れずにアレクシアはレンの胸部を引き裂こうとした。
「アレクシア!ストップストップ!!」
レイはアレクシアを止めようと届かない声を上げる。
「くっ…!」
オルフェウスは自身の剣をアレクシアにめがけて投げた。剣はアレクシアの顔の前を掠め、案の定アレクシアはオルフェウスに標的を向けた。
「ガウウウゥゥ……!!」
アレクシアはオルフェウスを敵とみなして襲いかかろうと近づいていく。その隙をつくようにレンはアレクシアの首の後ろを叩いて気を失わせた。倒れてくるアレクシアを、レンは受け止めた。
「ふぅ……、助かったよオルフェ。もう少し戦ってから手を借りようと思ってたけど、ここまでとは思わなかった」
「礼はいい。だが……」
オルフェウスは、レンとレイの視線を闘技場に誘導した。闘技場は一面血に濡れ、審判とハルの死体が転がっている。
「……そうだね」
レンは自分の過ちを認めるように呟き、ハルの死体に近づいた。そしてハルを抱えると、オルフェウス達のもとに戻った。
「アレクシアが目を覚ましたら、ハルの葬儀の事を話そう。僕がハルに向けてできる償いは、それしかないさ」
そう言って、レンは先に闘技場を後にした。レンの背中を、オルフェウスとレイはしばらく黙って見ていたが、オルフェウスが口を開いた。
「アレクシアを抱えてレンの元に迎え」
「お前はどうすんだよ?クリシスとセトも心配だしよ……」
「あの2人の事なら問題ない。俺が安全な場所に移した。幸い、命に関わるほどの怪我はない」
そう言って、オルフェウスも闘技場の入場口に入っていった。
「あんがとな!魔王なのに、オレらに色々してくれて!」
去ろうとするオルフェウスにレイは大声で礼を伝えた。オルフェウスは、まるで礼はいらないと言わんばかりの手ぶりを返した。
「さてと……、オレも戻るとしますかね」
レイも、アレクシアを抱えて闘技場を後にした。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ようやく進める……。




