凍結、終焉、そして……
【前回のあらすじ】
《オルフェウス》
俺はアイリスに剣を向けた。神聖な闘技場を汚し、人間に対し行った非業への報いを受けさせてやる。
アイリスの鎌をオルフェウスが両手剣で受け止めた瞬間、地面は抉れてかなり強い風圧が巻き上がった。
スペクターの大群とそれに応戦しているレン達にもその風圧は届いた。レンとレイは吹き飛ばされなかったが、満身創痍のセトにとってはその風圧がかなりきついようで、吹き飛ばされそうになった。
「おわーーーっ!?」
幸いな事に、レンがその手を掴んで飛ばされずに済んだ。
「大丈夫か!?セト!」
「死ぬかと思ったぜ……。俺はちょっとここらでお暇がいいかもしれねぇや」
「それもそうかも……。レイ、セトを連れて……」
と言いかけたが、卑劣なスペクターはその隙を見逃さない。レンの頭を後ろから掴んで、大きく振りかぶって地面に叩きつけた。当然、セトも弱っているところをひたすらにリンチにされた。
「畜生……!やっぱ3人はキチィな……!アレクシア!攻撃されそうになったらオレらで守ってやっから、お前もこのクソったれ共を潰して……」
レイはアレクシアにそう言ってアレクシアの方を向いた。しかし、アレクシアは先ほどの風圧で飛ばされ、闘技場の壁に強く身体をぶつけて気を失っていた。
「アレクシア……?おい!大丈夫かよ!!」
レイはアレクシアの元に駆け寄り、アレクシアの身体を起こした。アレクシアの身体には力が入っていない。
「アレクシア!!目ェ覚ませ!!お前まで死んじまったらハルになんて言やぁいいんだよ!!」
それでもレイは、ハルに申し訳なくなると思い、アレクシアを必死で揺すった。
ーーーーーーーーーー
時を同じくして、オルフェウスとアイリスは熾烈な戦いを繰り広げている。その戦いは上空に跳び上がっても激しさが絶えない。流石は魔王同士の戦いと言ったところか、地上からでも上空の戦いの激しさが伝わっていく。重い一撃同士がぶつかり合うたびに地面はかすかに揺れ、魔法の撃ち合いとなれば、オルフェウスが打ち消したアイリスの氷の欠片が地面に突き刺さってくる。
しかし、それでも変わらないのは、オルフェウスが自ら攻め込んで来ないことだ。アイリスは段々それに気づき、地上へと再び降り立ちこう問いかけた。
「オルフェウス……?君はふざけているのかい?何故君から攻めてこないのだ?」
オルフェウスはしばらく沈黙を貫いたが、再び口を開くと、次の言葉でアイリスを驚かせた。
「貴様など俺がわざわざ仕掛けに行くまでもない」
ここまで言われると、さすがのアイリスも怒りを覚えたのか、大きく舌打ちをした後、
「ムカつくね……。本ッッッ当にムカついてくるね!!」
と大声でオルフェウスに言った。
「いいでしょう!!ならば、この国もろとも君を葬ってあげようじゃないか!!」
アイリスは空へと跳び上がった。そしてアイリスは右手を右から左に切り払った。
次の瞬間、ネルケディラ王都全体を大寒波が包んだ。建物は雪に埋もれ、水は凍りつき、一瞬にしてネルケディラ王都は雪景色となった。しかし、魔王の起こす大寒波はそんな生易しいものじゃない。
「『嗢鉢羅』実行。この国全てを凍らせてあげようじゃないか……。建物も人間も鬼人族も、英雄もね」
この大寒波は、あのレンやオルフェウスでさえも耐えられないほどに寒いのだ。レンは立ち上がろうと手をつく事すらも、突き刺す程に冷たい突風でかじかんでいく。オルフェウスも身体の震えを我慢して立ち上がってはいるが、それでも我慢するのがやっとだ。無論、セトもその寒さに晒されているので無事ではない。むしろ、スペクターは平然としているので、尚更ピンチの状況である。
「フフッ、ボクの勝ちだ……!!そのまま凍え死ぬといい!!」
アイリスは勝ち誇った表情で地上に降り、数十体のスペクターに嬲られているレンに近づいた。同時に、スペクターの1人がレンの頭を掴み、アイリスの前に差し出した。
「残念だったね……、『君の師匠と違って』死ぬ前に苦しむ事になっちゃって……。フフッ、アッハハハハハハ!!」
アイリスは、嘲笑の意味合いも兼ねて大きな笑い声をあげた。レンは寒さで口が思うように動かず、ずっと嬲られ続けているせいで声をあげようにもあげられない。もうアイリスに罵声を浴びせる力もないのだ。
「はぁ……、こんなに笑ったのは何時ぶりだろ?もう好きにしちゃって」
そう言いながらアイリスは後ろを向いた。
それがアイリスの隙を生んだ。実はこの大寒波の中でも、辛うじて戦える者が1人いる。その1人によって、レンを嬲っているスペクターの大半を倒し、
「なっ……!?何が起こって……」
振り向いたアイリスを後ろから斬りつけ、アイリスの顔に傷をつけた。
「ヘヘッ……、楽しそうじゃねぇか……。アイリスさんよぉ……?」
辛うじて戦える者の1人、レイがアイリスの前に立っていた。
「……どういう事!?なんで君はこの『嗢鉢羅』の中で動けて……」
「オレは雪国出身なんだよ……!!こんな寒波なんざ慣れっこだぜ……!!」
「……クソッ!!」
とてもアイリスの口から出るようで出ない言葉がアイリスの口から出た後、レイの顔を鎌の柄の先端で強く殴りつけ、鎌で斬りつけると思わせて回し蹴りで蹴り飛ばした。レイは倒れているアレクシアの近くの壁に激突してしまった。
「ボクとした事が不覚を取ってしまった……。でも、長くは耐えられないだろう……」
そう呟いた次の瞬間、レイが壁に激突した衝撃でアレクシアは気がついた。しかし、謎に静かだ。
「……?今更起き上がって、ボクに何を……」
そう言いかけたが最後、アレクシアはアイリスを強く殴り飛ばし、壁を貫通して城壁にまで激突した。
「ぐふっ……!?しつこい子だねぇ……!!」
アイリスはすぐに闘技場へと戻った。目の前には俯いたまま動かないアレクシアがいる。すると、アレクシアの周りを段々と紫色の禍々しいオーラが包み始めた。
「……フーッ、フーッ……!フーッ……!!」
アレクシアはまるで獣のような息をあげ、獲物に牙を向けるかのように歯を食いしばった。
「レン・フリューゲルの青いオーラとは違う……。本当に何なんだいそれは……!?」
アイリスはアレクシアに問いかけた。
すると、アレクシアの目はアイリスを強く睨みつけた。その目の光は紅く染まり、すでに優しいアレクシアの表情は消え失せている。
次の瞬間、
「ヴオオオオアアアアァァァァァァァ!!!」
アレクシアの怒りは最高潮に達し、怒りに呑まれた獣のように力強く咆哮した。
【ちょっぴり用語解説】
〈『嗢鉢羅(うばら』〉
魔王アイリスのみ使える史上最悪の天候変更魔法。
普通の人間ではどれだけ着込んでいようが、室内で暖かくしようが凍死する。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
さて、次回はアレクシアが暴れまくります。(←おい)




