妖刀抜剣
【前回のあらすじ】
《オルフェウス》
無駄話をしたせいで彼女を苦しめてしまったが、準決勝は俺の勝ちに終わった。
あの技の反動も相まって、死んでいないといいのだが。
準決勝第2試合が終わり、気を失ったノエルは控室のベッドに運び込まれた。ベッドの周りには運び込んだネルケディラ兵士とクリシス、そしてアレクシアがいた。
「本当にオルフェウスという者は魔王と呼ばれていたのか?」
「はい。あまりよく聞こえませんでしたが、そう呼ばれていたような気がします」
「気がするじゃ曖昧じゃないか!本当に魔王と呼ばれていたらどうするつもりだ!?」
クリシスは兵士と話していた。アレクシアは救護班の兵士と一緒に、ベッドに横たわっているノエルの手当てをしていた。
「目立った外傷がない……。あれだけの戦いで傷一つもついていないなんて……。どうやらレン様以外にも、常人の域から逸脱している者がいるもんだね」
救護班の兵士がそう話しかけるも、アレクシアはノエルの状態を手探りで確認していた。すると、
(あれ?心臓の鼓動が早い……。呪いや病気ってわけでもなさそう……)
と思った。そしてすぐさま救護班の兵士にこう言った。
「ねぇ、兵士さん!疲労や呪い、病気以外で心臓の鼓動って早くなるんですか?」
「疲労、病気に呪い以外での鼓動の上がりねぇ……」
救護班の兵士はしばらく黙っていたが、考え込んだ後に口を開いた。
「分からないかな……。ネルケディラはトルネシアに比べて医療が発達してないから……」
「そうですか……。でもだったら何で……」
アレクシアが俯いて考えようとすると、
「技の反動だ」
という声がした。兵士たちやクリシス、アレクシアが声のした方を向くと、オルフェウスがいた。クリシスや兵士たちはそれぞれ槍とレイピアをオルフェウスに向けた。
「落ち着いてくれ。敵意はない」
オルフェウスはそう言って、ノエルの横たわっているベッドに近づいた。兵士たちは槍を下ろさなかったが、クリシスはレイピアを段々と下ろした。
「ノエル・ケンザキ・フリューグントは、身体にとてつもなく負担がかかる技を使ったのだ。そのせいで脈が安定しないんだ」
そう言いながら、オルフェウスはアレクシアの隣にしゃがんだ。
「オルフェウスさんは、その技が分かるんですか?」
「あぁ、技の名は[妖刀抜剣]。アマツク列島ツクヨノ地方に伝わる、禁断の技」
オルフェウスはアレクシアの方を向き、そう言った。
「妖刀抜剣……、ですか?」
「そうだ」
クリシスも、レイピアを納めてオルフェウスの話を聞いた。それを見た兵士たちも、槍を下ろした。
「タケゾウ・ケンザキなる者を知っているか?」
「タケゾウ……?誰ですかそれ?」
「タケゾウの名は聞いたことがある。確か、天照大神と月読尊なる神からそれぞれ、日輪太刀と月輪太刀を与えられ、アマツク列島を妖魔から救った伝説の剣豪……、だったはずだ」
クリシスの発言にオルフェウスは少し驚きを見せた。
「驚いたな……。ネルケディラの騎士団長が、アマツクの伝承を知っているとは……」
「小さい頃、母がよく読んでくれたからな」
「でも、そのタケゾウって剣豪と妖刀抜剣って技に何の関係があるんですか?」
アレクシアの問いに対してオルフェウスは小さく頷き、
「妖刀抜剣を生み出したのは、そのタケゾウ・ケンザキだからだ」
と言った。アレクシアはまだピンときていなかったが、クリシスは目を見開いた。
「伝承に名を残す程の剣豪が、禁断の技を生み出したと言うのか……!?」
「正確には、先ほど言ってくれたタケゾウの伝承の出来事よりも前の話だ。遡ること3000年前、時のタケゾウ・ケンザキは誰よりも強い力を手に入れる事にヤケになっていた。その時だ、妖魔の群れが彼を殺そうと襲いかかったのは」
その時、ノエルは辛そうにベッドから起き上がった。
「う……。ここは、何処だ……?」
「目が覚めたか。丁度いい、今からお前の先祖の話をするところだ」
オルフェウスの言葉に、アレクシアは驚きのあまり立ち上がった。
「タケゾウさんって、ノエルさんのご先祖様だったんですか!?」
「そうだ。タケゾウの名を出した時点で気づかなかったのか?」
そう言われて、アレクシアはしばらく考え込んだ。
「えーと……、確かノエルさんのフルネームが、ノエル・ケンザキ・フリューグントで、タケゾウさんのフルネームがタケゾウ・ケンザキ……。あっ!」
「気がついたみたいだな」
タケゾウがノエルの先祖だと言う事にピンときたアレクシアを尻目に、ノエルは腕を組んでオルフェウスを睨んでいた。
「今更、俺の先祖の話をして何になるんだ?それに貴様はレンとの戦いが残っているだろう」
「何か不服そうだな。何が言いたいのだ?」
「何も言う事はない」
そう言いながらノエルは、ベッドに再び寝込んだ。
「あのまま戦っていれば俺は勝っていた……」
そう呟きながら。
「して、何処まで話したか……。そうだ、タケゾウが妖魔に襲われたところからだ。数多くの妖魔が群れを成して、タケゾウに襲いかかったが、タケゾウの敵ではなかった。ただ1体を除いて」
「その1体って誰なんですか?」
「屍人からなる勢力[無間死者]の四天幹部の一人、榊。かの者の槍捌きはタケゾウを翻弄した。それだけではなく、奇妙な妖術も用いていた。それが妖刀抜剣の元の技だ」
オルフェウスの語りを遮るように、クリシスが口を挟んだ。
「つまり、タケゾウはその妖魔が扱っていた術を自分のものにしたは良いものの、元は妖術だからか、人間であるタケゾウ自身が使いこなせるわけがなく、その技をタブーにしたと言うことだな」
「ああ、まさにその通りだ。結果その技は妖刀抜剣と名付けられ、禁断の技として秘伝書と共に封印された。その事があったからか、タケゾウは妖魔を討ち滅ぼすという考えに至ったんだろう」
「だが、先ほどのお前の話を聞く限りでは、まるで自分が目の当たりにしたかのように聞こえたが……」
クリシスがそうオルフェウスに聞くと、オルフェウスは少しの間黙り込んだ後、こう言った。
「……直接タケゾウから聞いた話だからな」
そう言った後、オルフェウスは控室から出ていった。
【ちょっぴり用語解説】
《屍人》
アマツク列島出身の武士や侍が死んだ後に、第三者から妖気を流し込まれて無理やり生き返させられた妖魔。
他の大陸で言うところのアンデッド。
《無間死者》
構成員の殆どが屍人からなるアンチアマツク列島の勢力。
《四天幹部》
槍使いの榊と大太刀使いの本多と二刀使いの直政、そしてかつて剣聖であった境の4人の総称。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
また溜め込み作戦しますかね……。




