3-3 ミエリの初蘇生と種族の話
「貴方は……」
ビルセティは驚きつつも予想の範囲内といった表情で少年を見る、その目つきは些か厳しい。
「ビルセティ、この子あなたと同じ種族っぽいけど……どうしたの?」
沼地で狼耳の女の言葉を聞いていないミエリだけが状況についていけず素っ頓狂な声を出す。
「ビルセティ?ははっ!君は名を貰ったんだね、良い名じゃないか!」
少年の大袈裟な振る舞いにビルセティが顔をしかめる。
「ミエリ、この人と二人だけでお話をしたいので少しの間別行動をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「おやおや丁寧語と謙譲語が混ざってるぞ、言葉遣いのなってないメイドだねビルセティちゃんは」
「貴方は黙っていてください、まだミエリとの話が終わってませんので」
横から言葉を発する少年に対してビルセティが睨みをきかせる。他のメンバーもどこか少年を警戒しており張り詰めた空気がギルド内に流れる。
(な、なんだろう、みんなピリピリしてる……わたしがいない間に何かあったのかな……)
「わ、分かったよ、でも気をつけてね」
「ありがとうございます」
そう言って二人が奥に入って行った。
「アマユなんだあいつは、組合施設にあんな得体の知れないものを置いておくな」
「下っ端職員の私にそんなこと言われても困るわ、それに上の命令で仕方なくおいているだけで私たちもあの子が何者なのか知らないのよ」
「ギルドも訳分かんねえことしやがって……大体あいつらはどういう種族なんだよ」
「あの子たちはシルクレンビス、陶器人形の外形と蛸のような異形の中身を持っている新参種族よ」
「シルクレンビス……確かに聞いたことない種族名だね」
「人形部分が破壊されても内部の触手生物から再生するし、内部の触手生物が破壊されても人形部分から再生するから実質不死身ってことだけしか今は分かってないらしいわ」
「とんでもない生物だな……というかそんな性質があるって判明してるってことはアイツらとの交戦経験がギルドにあるってことか」
アフタレアが顎に手を当てて興味深そうに言う。
「いいえ、あの子がどっかのギルドに現れた時にセキュリティが攻撃したみたいでその時のデータから判明したらしいわね、でもってその際にギルドと何かしらの取り引きをしてこのギルドで管理する事になったらしいけど……それ以上は聞かされてないし聞きたくもないわ、面倒ごとに巻き込まれたくないし」
「ビルセティ……」
ミエリが心配そうに二人が消えた先を見て呟く。
「あのさ、あえて言わなかったけどあのメイド姿の子もシルクレンビスだったんでしょ?黙って送り出そうと思ったらあの子が突っかかってしまったけど」
「不真面目だなぁ……つうかあのガキのことも名前で呼んでやれよ」
「あの子は自分で名前がないと言っていたわ、だから私たちも「あの子」としか呼んでないの」
「というかそんなのと一緒にいたなら私たちも取り調べとか受けないとダメなんじゃないの?」
「別にいいわよ、どう考えても胡散くさい案件だし、あの子が勝手にやったことだから私が知らぬ存ぜぬってシラを切れば大丈夫でしょ」
「そんな大丈夫とは思えないが……お前はギルド職員なんだぞ?」
「素直に関係者ですって言っても大丈夫とは限らないし、ミエリとあの子を比べたらあの子の方が私の中で嫌い度が若干勝ってるからあなたたちに肩入れするだけよ、あとは単純にヤバイことに首を突っ込みたくないだけ」
「もう既に十分突っ込んでると思うけど、まあお言葉に甘えて退散しますか、もう疲れたし」
「え!?ほんとにこのまま宿に戻るの!?」
「ここにいても俺たちではどうしようもないのだから仕方ない」
「でも……」
「ビルセティのことは正直俺はまだ信用し切っていない、だがお前はあいつのことを信用しているんだろう?だったら待ってやるべきだ、どのみち余計な真似はできないんだからな」
「そうだぜミエリ、何も知らないアタシたちじゃ動いても逆効果だ」
「だから一旦戻ろう?あんたが一番身体を休めないといけない状態なんだから」
そう言ってシャラムがミエリの手を引っ張って出口に向かう、渋々ミエリもその動きに合わせて出て行き、イサオもそれについていく。
「おっと、そうだアマユちゃん、ちょっと調べて欲しい事があるんだけどさ」
メンバーと共に出口に向かっていたアフタレアがふと思い出したように踵を返すとアマユに耳打ちする。
「なに?あなたも面倒ごとに私を巻き込みたいの?」
「いやそんなんじゃなくて、ちょっと端末の通信状態のデータが欲しいんだよ、仲間内だったら開示できるんだろ?」
「……誰のデータが欲しいの?」
「ミエリとイサオだ、この二人だけダンジョン内で急に端末が壊れちまったんだ、イサオから聞いたんだがこの二人は別々の場所にいたのに同じように故障してたみてえでな、それが気になったんだ」
「急に?しかも同じパーティ内で二人も同じような端末のトラブルが起きるなんてそんなこと……」
「おかしな話だろ?未発見のグロブスタ、端末の故障、シルクレンビスの出現……これらはおそらく無関係じゃない、だから調べて欲しいんだよ」
「……ストレンジフィールドの謎を解くのはギルドの務め、データがまとまり次第提供するわ」
「感謝するぜ、もちろんアマユちゃんを危険な事には巻き込まないって約束する」
「別にそんなの関係ないわよ、私の判断で勝手にやってるだけだし、というわけでさっさと帰りなさい、仕事の邪魔よ」
「ありがとな、じゃあおつかれ」
そう言ってフェイクラムの解析に戻るアマユにアフタレアが軽く手を振りギルドから出て行った。
「やっぱりこの区域で何か異変が起こっている……最低限の事は調べた方が良さそうね」
そんなことをアマユが一人呟いた。
………………
「おっそうだミエリ、蘇生院に行かねえとな!」
夕方のコロニーの中を歩く三人にアフタレアが合流して開口一番にそう叫んだ。
「どこ行ってたのか知らないけど、最初に言う言葉がそれ?私もう宿で寝たいんだけど……」
「えーと、わたしは死体と一緒に夜を明かしたくないなー……」
ミエリが背負う荷物に縛り付けられる死体袋を見て控えめにシャラムの欲求を拒否する。
「え〜?別にいいじゃん気にしないでよ」
「ミエリ、コイツのベッドにその死体袋置いてやれ、どうやらそれと添い寝したいらしいぞ」
「……分かったわよ」
シャラムが不本意そうな声色で同意すると蘇生院の方へ足を運ぶ三人について行った。
………………
治療院の入り口を抜け、受付の前にミエリが緊張した面持ちで立つ。
受付にはミエリが回収した人物と同じ長い耳を持った女性が立っており、自然な笑顔で先客の対応をしていた。
「す、すみません!わたし蘇生したい人がいるんですが」
「こんばんは、蘇生の申請ですね、では身分証のご提示をお願いします」
「えっ、み、身分証……?あ、これ!」
ミエリの番になり緊張から全く解けていない口調で話しかける彼女に受付の女性はにこやかに対応する、その言葉を聞いてからミエリは焦りながら身分証を取り出しカウンターに出した。
「はい、確認しました、それではあなた様から見てカウンター左奥のエレベーターから上がって蘇生院の方へお入りください」
「は、はい!」
「いや、なんでそんなに緊張してんのさ」
「だ、だってこんな蘇生なんて一大イベント緊張しない方がおかしいですよ!」
「新参者のお前には未知の世界かもしれんが、俺たちにとっては最早日常なんだ、早く慣れた方がいい」
「というか、ミエリも既にトカゲ女と私の回収したフェアリーの蘇生を見てるでしょ?今更なんで緊張してるの?」
「そういや、ドラゴンちゃんの蘇生させたフェアリーってどうなってんだろうな、あれからなんも音沙汰がないけど」
「まだ一日しか経っていないんだ、このコロニーは人手不足な上フェアリーは見つけづらい、気長に待つしかないだろう」
そんな会話をしながらエレベーターに向かう一行。
エレベーターはミエリの予想を超えた物体だった、木製の扉のサイズが縦4m、幅10mと元の世界では大型の貨物でも運ぶ時にしか使われないようなサイズで、電力ではなく魔法で動いているのか石柱の様な操作盤は宙に浮いており、刻まれた紋様から緑色の光を放っている。
扉が開くとその空間の奥行きは幅とほぼ同じで空間の広さが灰色の壁と合わさって寒々しい雰囲気を出していた。
ミエリたちが入っても余剰スペースしかなく、このまま四人で寝泊まりできそうだとミエリは思いながら口を開く。
「色々言いたいことはあるけど……ひとつだけ言うならこのサイズ必要?」
「そりゃ必要だよ、ここでしか蘇生できないんだから大量の死体を一気に運ぶにはこれくらいの空間は無いと困るって」
「それにお前はジェインズたちと一緒にいたんだろう?だったら荷車に乗せられたあの大量の死体を見たはずだ、ああいう事もたまにあるし同時に何人も蘇生の申請があるからこの広さは無駄にならない」
それを聞いてミエリがほうほう、と大袈裟に頷く。
「お前……そんなふざけた返事でちゃんと理解してるのか?」
「もちろん、ただ真面目に考えるとそんなに人員が一気に減るとかどんな状況なのとか色々考えちゃうから頭空っぽにして納得してるだけ」
そんなやりとりをしていると、ふとジェインズたちが何故あんなに死体を荷車に乗せてたのかという疑問がミエリの中で膨らみはじめた。
(そういや、怒涛の展開で何も思わなかったけどジェインズさんたちはどこであれだけの死体を見つけたんだろう……?はっ!まさか!?)
ここまで考えてミエリがやっと思い出す、この背中の死体を回収した時、ビルセティが突然吸収したスライムから抽出したという死体を大量に放置していたことを……
(やっば〜!あんなところに死体の山作ってたのすっかり忘れてた……どう考えても不自然だったけど何か聞かれたら正直に答えた方がいいのかな……)
そう思いみんなの顔をチラ見するが、しばし考えて一人首を振る。
(いや、やめとこう……ビルセティのことをみんなにちゃんと紹介してないのにあんな無茶苦茶な能力見せたら危険生物だと思われちゃう……)
ビルセティの身を案じ、黙っておくことにしたミエリだが今度は別の疑問が浮かぶ。
(あれ?でもわたしが死んでしまったあとビルセティはみんなに自分のこと話さなかったのかな?ジェインズさんがわたしを運んでたんなら、イサオさんたちと合流してみんなあの死体の山を見てるだろうに……というかみんなはあの男の子のこと知ってるような態度だったし、なんか狼女がどうこうとも言ってた……もしかしてわたしが死んでる間にめちゃくちゃ重要なことが起きてたんじゃ……)
「おい、ついたぞミエリ」
「は、はいぃ!?」
不意にイサオから肩を叩かれ、長考をしていたミエリは仰天し、絶叫する。
「な、なんだ、どうしたんだ?」
「おいおい、どうしてビビってんだよ、大丈夫か?」
「なにを考えてたのか知らないけどもう着いたよ」
そう言われてミエリが首を勢いよく振って周りを確認すると既にエレベーターの扉が開き昨日見たあの荘厳な蘇生院の景色が広がっていた。
「あ……もう着いたんだ、ごめんぼーっとしてた……」
「全くなんなんだよ、色々あったのは分かるがシャキッとしろよ」
「そうだよ、ミエリが死体と一緒に宿帰りたくないって言ったんだから」
「ごめんごめん、パパッと終わらせて帰ろ!」
そう言って蘇生を行う台座に駆け寄ると荷物を下ろして死体袋を台に乗せて中身を取り出す。
「ほー、エルフか」
「随分と四肢が細いけど、細身のエルフ種特有の細長い顔じゃなくて顔はヒューマンみたいなんだよね、不思議だなぁ」
「え?それってどういう意味?」
シャラムの言葉にミエリが首を傾げる。
「ああ、説明してなかったな、この世界じゃいろんな世界から様々な種族が流れてくるって説明したよな?」
アフタレアの説明にミエリがうんうんと相槌を打つ。
「だから複数の世界で類似する種族が見つかるような場合は、ギルドが共通点に規格を設けて大体で規格にあった分類に分けるようにしているんだ、元の世界での種族名の呼ばれ方が似ていたならもう同一の種族として扱われる。」
「へ、へぇ〜確かにファンタジー作品ならエルフとか確実に出てきますし、やっぱりいろんな世界にいるんだね」
ミエリが自分が見てきた漫画やゲームの中でファンタジー系のものを思い出しながら頷く。
「まあ偉そうに説明したけど、実際のところはギルドの連中もなんで複数の世界に同じような種族がいるのか理由が分からないみたいなんだよね、だからざっくりとしか分類できないし、特定の種族がなんでこんなに複数の世界にいるのか解明するために専門の学問まで作られてる」
「まあどこの世界にもうじゃうじゃいるのは確かってことだよな、それはそれとしてアタシ的には細身で白い肌の森と共に育ち枯れるエルフよりヒューマン寄りの肉付きの良いエルフの方が好みだなぁ」
そんなことをエヘヘと口から漏らしながらアフタレアが言い、それを見てシャラムがため息をついた。
「ちなみにヒューマンはもっといろんな奴がいるよ、特殊な能力を持ってる奴もいるからヒューマンだからって声をかけるのは危険だから気をつけてね」
「なにそれ……そういうことは早く言ってよ」
ミエリが青ざめながらそう言い、今朝のことを思い出しながら心の中で、
(これからは迂闊に一人で出歩くのはよそう……)
と一人誓うのだった。
「で、このエルフは死霊のウーズにやられたといつになったらミエリに教えるんだ?」
イサオが死体の腕を掴んで調べながら気ままに話をする三人にそう言い放つ。
「え?なんで死霊のウーズに取りつかれてた人だと分かったの?」
「死霊のウーズは地面に潜んで真上を通った生物に取り付き、穴という穴から侵入して中身を消化してしまうんだよ、その言い方だとミエリも襲われたんだね」
「そして骨と皮だけになった死体を動かして別の獲物を探す……ビルセティがいなかったらお前も危なかっただろうな」
「うっ……」
「まあミエリが当たり前のように背負ってたから大体予想はついてたけどね、昨日基礎を学んだばかりの一般人が細身とはいえ人間ひとり背負ってこんなに歩けるはずないよ」
「めちゃくちゃ言うじゃない、わたしだってちゃんと訓練したんだから……」
「皆さんお静かに」
シャラムの言い方にミエリが反発していると聞き覚えのある厳格な声が二人会話に割って入る。
「昨日に続き今日までも、節度というものを持っていただきたいですね」
そう言いながらトユナエィンが階段を降りてくるすぐ側にはユーエインもいるがその表情はいつもより暗い。
「ユーエインさん……?大丈夫ですか?」
「え、あ、大丈夫です……ご心配なく……」
心配して声をかけるミエリにユーエインが笑顔を作って答える、その無理に作った笑顔がミエリには引っかかった。
「昨日も多くの人が救いを求めてこの蘇生院に来ましたが、今日はそれ以上ですね」
「ジェインズたちのことか」
「あのー、全員蘇生したんですか?」
「はい、ですが三名ほど失敗して……消滅してしまいました……」
ユーエインが暗く澱んだ表情で答える、ミエリはあの大量の死体全員に蘇生の術を施したことに驚いたが、三名消滅したと聞いて素直に感情を出すのは控えた。
(なるほど、だからユーエインさんの表情が暗いんだ……辛いだろうな……)
「これも私の力不足ゆえ……日々精進してもこのように救えぬ者がいるのです、だからこそこの地の人々には己の生に対し敬いの気持ちをもって生きて欲しいのです!」
そうトユナエィンが熱弁するがメンバーの態度は微妙だった。
「いやもちろん感謝してるよ、それより早く蘇生して、もう眠いの」
「辛気臭い話をしてもいいけどよ、このエルフの蘇生に失敗した時の言い訳にしないでくれよ」
「すまないがもう始めてくれ、俺たちも疲れてるんだ」
「分かりました、では」
そう言ってトユナエィンがいつもの手順で呪文を唱え始める。
青白く光る輝きが収まるとエルフが呼吸を始めて微かに動き目を開けた。
「うっ……ここは……?」
「おはよう、あんたは蘇生されたんだよ、このミエリに回収されてね」
そう言ってシャラムがミエリを指差す、エルフはしばしミエリを見つめていたが頭の整理がついたようで彼女に向き直り頭を下げた。
「ミエリと言ったな、助けてもらったこと感謝する」
「あれ?死霊のウーズに操られていた時とだいぶ印象が違うような……」
「所詮奴らは人間のような動きを模倣しているだけだ、元の人格を考慮なんてすることはない」
「死霊のウーズ……そうか私は沼地を歩いてて地面からヘドロのようなものが湧き出て私の体を足を伝って中に入ってきたんだ、それで……」
「中身を喰われて死んだってわけね、まあ助かってよかったじゃない、あとはこいつに回収費用を払ってくれればいいから、それじゃ戻ろうみんな」
そう言ってミエリの手を引いて出口に向かうシャラムにエルフの少女が叫ぶ。
「待ってくれ!」
「ん?まだ何かあるの?」
「その……私もパーティに入れてくれないか……?」




