3-2 謎の少年
「ポーターのミエリ様、認証完了、危険物ナシ、お疲れ様です」
ゲートが開きカウンターへ向かうとこの間の猫耳の若い受付嬢が担当していた。
「お疲れ様です!ええと、ミエリさんでしたよね!」
「えーと確かユーマルさんでしたよね?お疲れ様です」
元気な声で挨拶するユーマルにミエリも挨拶を返す。
「今回の業務を担当いたします、ユーマルと申します。今回はどのような御用でしょうか?」
「ちょっと端末壊してしまって……お金ないんですけど、修理か交換できる制度とかないですかね?」
「端末ですか?それなら初回だけはお金はかからずに交換できますよ!」
そう言いながらユーマルがホログラムパネルをミエリの前に出した。
「えーと、新規解明者への保証として端末の初回交換は無料になります、申請書にサインをして端末を出していただくとその場で交換いたします」
(なんかケータイ会社みたいだなぁ……確かに携帯端末の話ではあるんだけど)
そんなことを考えながらミエリは渡されたペンでパネルに表示された申請書にサインをする。
「はい、ではこれから確認いたします、こちらの方でお待ちください」
そう言ってユーマルが端末を持って奥に引っ込むと、その間ミエリはカウンターに膝をついて物思いに耽りはじめた。
(解明者の資格がない……か、本当にそうなのかもしれない)
〈貴女の満足は旅をやめる理由にはならないわ〉
『グリザイユの貴婦人』の何気ない言葉がミエリの中でこだまになって全身に響く。
(わたしは周りの誰かの役に立とうと必死になっていた……)
「ふぅ〜疲れた、あ!ミエリ……無事に蘇生できたんだね」
(けどそれは誰かの役に立ってる自分に自己満足していただけだったんだ……勝手に盛り上がって「旅」を終えようとしていた……)
「おーい、聞こえてないのー?」
(これからみんなにどんな顔して会えばいいんだろ……わたしはこれからも解明者としてやっていけるのかな……)
「とうっ!」
「痛ぁ!?」
突如ミエリの脳天にチョップが炸裂し、痛みと驚きで絶叫する。
「何ぽわっとしてるの、声かけたのに返事もしないし」
「もしかして何かしらの後遺症があるのでは……?」
「あまりに刺激的な体験だったから夢見心地になってたんだろ?わかるぜ、アタシも好きな人と初めてヤった時は……」
「あんたは黙ってなさいよトカゲ女」
「ミエリ、無事生き返ったんだな」
「み、みんな……」
頭をさすりながら振り返るとそこには共に戦った先輩たちとビルセティが戦利品を担いで立っていた、そしてその姿を見てジェインズの言葉が脳裏に浮かぶ。
「あ、あの……その……ごめんなさい!」
頭を下げるミエリのその行動に四人が目を丸くして戸惑う。
「一体どうしたんだ?アタシたちは別に謝られるようなことはされてないぞ?」
ミエリが頭を下げたまま首を振る。
「あの時、わたしがみんなの身代わりなればそれでいいと思っていたの、でもそれだけじゃみんなをその場限りでしか守れない……なのにわたしは自己満足のためにあんな強引な事をしてしまった、本当にだめな解明者だったんだよ……迷惑をかけてごめんね」
頭を下げたミエリの表情は四人からは伺えないが、床にポタッポタッと落ちる水滴から彼女の目から涙が溢れているのが分かった。
「いきなり何を言い出すかと思えば……ジェインズたちに言われたのか?無謀な行動は残った俺たちを窮地に陥れるからやめろとでも」
「…………」
「なんだよそんなことかよ、確かに相手の行動を読んでたならアタシたちにも伝えとけとは思ったけどさ……別に謝ることじゃねえよ、どっちみち大変な状態だったんだし」
「ミエリ、貴方の行動は下手すれば犠牲ばかり出すものでした、ですが貴方の『守りたい』という意志まで否定したくありません」
そう言ってビルセティがミエリの前に立つ、その影を見たミエリが顔を上げる。
「貴方のおかげで私たちは助かったんです、本当にありがとう」
ビルセティがミエリの手を取って優しく微笑む。
「だからもっと自分を大事にしてください、私には貴方が必要なんです……」
「ビルセティ……」
「私も、馬鹿な真似してあなたの命懸けの行動に助けられた……先輩なのにさ、情けない話だよね」
シャラムが申し訳なさそうな顔で一歩前に出る。
「だから……次こそは私が護ってみせる、約束だよ」
シャラムがミエリを決意の宿った目で見る、その瞳に見つめられたミエリは自分の心の中が明るくなるのを感じていた。
「お前の指揮能力を俺たちは高く買っていたから指示に従ったんだ、お前は後衛らしく前衛に守られていろ、じゃないと俺たちが報酬泥棒になってしまうだろ?」
そう言ってイサオが今まで見せたことない軽く笑顔を作った。
「みんな……うん!わたし今度こそ最後までみんなを指揮してみせるよ!全員で生きて帰れるように!」
ミエリは涙を拭い、そう高らかに宣言した。
「お話は終わった?はい、新しい端末を用意したわよ」
「どうぇ!?アマユ!?なんでいるの!?」
いつのまにかカウンターにはアマユが立っており、既に新しい端末が用意されていた。
「ギルド職員がギルドにいて何が悪いのよ、この子が端末の交換に手こずってたから私が代わりにやっただけよ」
「すみません先輩……」
呆れる様子で腰に手を当てるアマユの後ろから、耳が寝てしまっているユーマルが現れてしょんぼりしながら謝った。
「全く新人は手がかかるわね、揃って私の仕事を増やすのが得意みたいで素敵だわ」
「すまないなアマユ、確かに蘇生情報の管理は面倒くさいかもしれんがこれからも世話になるだろう」
「確かに蘇生情報の管理は面倒くさいけど……なんで今その話?」
(!?……まずい!なんとか誤魔化さないと!)
「あ、あの!?その荷物の人も蘇生しないといけないのでは!?」
ミエリの蘇生が怪現象によるものだと知らないイサオとアマユの間で齟齬のある会話が繰り広げられ、慌てたミエリはすぐに話題を切り替えた。
「おおっと!そうだったな、ずっと嫌な臭いを出しながら歩くのもいい気分じゃねえしとりあえずこいつらの背負ってるグロブスタの解析をお願いするよ、ミエリも一人で死体の回収が出来たのは偉いぞ」
そう言って三人がフェイクラムの死骸を下ろしている間にアフタレアがミエリの頭を撫でる。
「そんなことで褒められても嬉しくないよ……」
「回収したグロブスタの解析ね、分かったわ」
アマユが検査用のホログラムパネルを出しながら死骸に近づき調べ始める、ユーマルもアマユについて行こうとしたがフェイクラムの姿を見てそのまま気絶してしまった。
「これは……私は見たことないわね、もしかしたら希少種や新種の可能性もある、そうだったら高く買い取らせてもらうわ」
「やっぱり未発見の個体だったか、俺たちが勝てたのは本当に運がよかった」
後ろでユーマルが気絶しているのも気にせず謎のグロブスタにアマユが興味深そうな感想を述べ、それを見たイサオが案の定といったため息をつく。
「こいつは昔マスターのパーティが打ち倒した大蛇の骨の中に潜り込んで暴れていたみたいでさ、まだ残骸が沼地に残ってるから回収依頼も出して欲しいんだけど」
「回収依頼ね、こういった未知の種はサンプルが多く欲しいから喜んで出すわ、じゃあ解析と鑑定が終わったら全員に分配で報酬を振り込んでおくわね、端数は誰に振り込めばいいの?」
「それはミエリに振り込んどいて、今回のMVPは彼女だったんだから当然だよ」
「文句ねえな、ミエリがいなかったら勝てなかったんだから」
「え……でも……」
「変に拒否せずにありがたく受け取れ、俺たちからの選別だ」
「……分かった、みんなありがとう」
「あなたって妙なところで謙遜するわね、もっと私に初めて話しかけてきた時みたいに図々しくしていなさい、変に謙虚でも面倒くさいだけだから」
アマユからの不器用な応援を受けてミエリが前向きな表情になり、端末をホールドにしまってメンバーの中に戻る。
「よし、じゃあ俺たちはもう出ていく、後のことは任せた」
「はいはい、お疲れ様でした」
「ちょっと待ってよ、まだそこのメイドちゃんに用があるんだ」
ミエリ一行がギルドを離れようとした時、どこからか声が響いた。
「え!?これって……」
「おい、誰だてめえは」
「あの狼女が言ってたのはこれのことだったんだね」
声のする方を向くとそこには、ビルセティと同じ陶器の質感をしたビルセティより幼い少年の姿があった。
「どーも、初めまして」
少年が不敵に笑った。




