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ささやかな二人の時間

「真山くん、食堂に集合だそうだ」

「え? もう、そんな時間?」

「食事の後に、ユニットでミーティングをするらしいよ。天地くんたちにはもう伝えたから、鶴来さんに連絡してくれるかい? 僕は土屋さんの部屋に行くから」


 朔也は一瞬返事に詰まり、その間に、五十嵐はさっさと部屋を出ていってしまった。仕方なく朔也はみつきの部屋を訪ねた。震えそうになる手を抑えつつ、ドアを小さく二回ノックした。


「はい、どなたでしょうか?」


 みつきがドアを開けて出てきた。いつも通りの無表情だが、きょとんとした目が愛らしい。


「あ、えっと、真山です。食事の時間なので食堂に集合だそうです。その後、各ユニットでミーティングです」


 朔也は妙に緊張してしまい、語尾が全て「です」になってしまった。何しろ自分の恋心に気がついてから、二人で話すのはこれが初めてである。朔也はあまりの恥ずかしさに、顔から火が出るかと思った。


「そうですか。では、一緒に食堂に行きましょう」


 そんな朔也の気持ちも知らずに、みつきは自然に歩き出した。朔也の動揺はさらに激しくなった。


「さすが、森の都、緑珪ですね。ここに来るまでも紅葉が美しかったですが、竹林も見事です」

「そうだね。植物も建物も全然違うね。黒玖も独特だったけど」

「聖銃士になったら、ずっと御子神学園に閉じ込められるのかと思っていました。けれど案外、こうして旧王都の扶桑から出ることが多くて驚いています。そういえば、朔也君には謝らなくてはいけません。カラオケに行けずにすみませんでした」


 朔也はその言葉で心臓が大きく飛び跳ねた。


「え、いや、あれは半分冗談みたいなもので! その場の勢いというか、モチベーションを上げたかったというか!」

「そう、だったんですか? 私は久しぶりにファンの人の前で歌えることを楽しみにしていたのですが……」

「え?!」


 整ったみつきの顔にうっすらと憂いの色が浮かぶ。


「あの……まだ、あの約束が有効なら、お願いしても良いかな?」

「わかりました。扶桑に帰ったら、約束ですね」


 朔也は雲を踏むような心地で滑らかな板張りの廊下を歩んでいった。

 

 食堂は和室となっており、鈴宮と春田を始め、他のメンバー四人も揃っていた。


「遅い! なに、どこほっつき歩いてたの!?」

「すみません、ちょっと場所迷っちゃって……」

「鈴宮司令、もう少しで食事が出てきますから、落ち着いて下さい」

「春田っ! アタシを何だと思ってるの? 食事ごときで、この怒りが収まるとは思えないわ」


 そこでジョーがぼそりと呟いた。


「何だと思ってるかと聞かれたら『猛獣』としか言えないよな……」


 ヒートアップした鈴宮にはその言葉は届かなかったため、ジョーは生き長らえることができた。


「はいはーい。お待たせしました。緑珪特産の湯豆腐ですよー」


 そこに武越がゆったりとした足取りで入って来た。それから手際よく鍋を火にかけている。


「緑珪支部では豆腐と水と昆布だけで煮て、つけダレは醤油となっています。ぜひ、ご賞味くださいー」

「さあ、どうぞ。鈴宮司令。お召し上がりください」


 そう言いながら春田が甲斐甲斐しく鈴宮に湯豆腐を取り分けてやった。鈴宮は不満そうな顔をしていたが、食べ始めると大人しくなった。それを見て安心したユニットメンバーたちも食事を始めた。湯豆腐は熱く滑らかな舌触りにかすかに昆布の味がした。


「え、何なん? このお豆腐、めちゃうまなんですけど」

「カレン、こっちの小皿の湯葉も絶品です」


 男子たちにとっては少々物足りない食事だったが、女性陣にとっては好評のようだった。デザートに出てきたわらび餅を食べ終えると、鈴宮が重々しく告げた。


「全員、食べ終わったわね。それじゃあ、このまま簡単だけどミーティングを始めるわ」

「鈴宮司令、共同任務とは、一体どのような任務なのでしょうか?」


 お手本のようにきちんと正座した五十嵐が挙手して発言した。


「そうね……あー、あんまり言いたくないんだけど。上層部が新たなユニット編成を試したいと言い始めたの。現在、徐々に聖銃士の数が減少しつつあり、支部にまで十分な人員を割けないという理由から。そこで提案されたのが二ユニット三グループ制」

「えー、一体どういうことなんっすか? 鈴宮司令ぃ」

「土屋、ちょっと待ちなさい。今から説明するから。つまり、二つのユニットを足して、赤と青、緑と黄、白と黒の各四人の三グループを結成するというものよ」

「なるほど。少人数でも複数の蛟が発生した時に小回りが利く編成ということですね」

「その通りよ、鶴来。発色が確認された蛟に対して、相対する色のグループで対応する。それにより人員の有効活用を図るというもの。そこで選ばれたのが我がSユニットと飛鳥のところってわけ」


 そこで鈴宮が重たい溜息を吐いた。


「上層部を問い詰めても理由は『学園長の意向』としか言わないわ。正直、アタシ個人としては、この二ユニット三グループ制の運用に関しては懐疑的よ。でも、アタシもアンタたちも公僕の身。国のために働きなさい」


 ユニットのメンバーたちはばらばらに「はい」と答えた。


「そういえば、武越さんが言ってた『業火の魔女と冷徹の聖女』って何のことだったんですか?」


 ケンがそう鈴宮に尋ねると部屋の温度が急に下がったように、背筋に寒気が走った。


「あれは、ユニット時代の通り名よ。アタシが赤でアイツが青で二十年近くずっとバディーを組んでたの。何度も変えてくれって言ったんだけど、なまじアタシが優秀過ぎたせいで変えてもらえなかったわ。あの『冴島の悲劇』でも止めをさしたのはアタシ」

「さすが! 鈴宮司令です! あの事件の最大の功労者だったなんて」


 ケンの失言を取り戻そうとジョーが鈴宮を持ち上げた。かなり見え透いた世辞だったが、鈴宮の機嫌は上向いたらしい。


「まあ、過去のことはいいわ。それじゃあ、明日、飛鳥ユニット――言いづらいわね。Aユニットと呼ぼう。SはAの常に上の存在だしね。それじゃあ、今日は解散。明日は合同で二ユニット三グループ制についての戦略会議を行うから」


 それにて、夕食兼ミーティングはお開きとなった。


お読みいただきありがとうございます。


次回「作戦会議」をどうぞよろしくお願いいたします。

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