新たな任務
瀬川と長谷部の対立により烏羽寮も険悪な雰囲気が流れたが、直後に朔也たちのユニットに東の都、緑珪へと派遣命令が下った。それぞれの寮で訓練を受けていたので、全員と顔を合わせるのは二週間ぶりだった。バスの前に集合した六人だったが、そこに不機嫌そうな鈴宮と困り顔の春田がやってきた。
「鈴宮司令、おはようございます!」
五十嵐が鈴宮に爽やかにかつ大きな声で挨拶したのをきっかけに他の五人もそれに続いた。それからこっそりとジョーが背後の春田に問いかける。
「なぁ、春田さん。鈴宮司令、なんであんなに機嫌悪いんだ?」
「聞こえてるわよ、天地譲!」
春田が口を開く前に、耳聡く聞き取った鈴宮の鋭い声が飛んできた。
「全く、なんで共同任務でアイツと組まなきゃいけないのよ!? 上層部に聞いても『学園長の采配』としか言わないし!」
「私だって貴方と組むのは不本意です」
ハイヒールで地団駄を踏んでいる鈴宮の後ろから、長い黒髪を結い上げた女性が冷たく言い返した。鈴宮がユニットを引き連れてきた飛鳥に向き合う。こうして見ると二人はとても対極的な存在だった。グラマラスで派手な容姿の鈴宮に対して飛鳥はスレンダーで理性的な印象の美女だった。
「あらあら、良い子ちゃんの飛鳥司令にしては上層部のご意向に歯向かうなんて珍しいわねぇ」
「ええ、貴方の様な不真面目な人間と組んでは、被害が広がるばかりでしょうから。大切な私のユニットの構成員に何かあったらと今から案じている所です」
「それは、ご心痛お察ししますわぁ。うちのユニットは既に三体の蛟を討伐しているけれど、そちらは戦績どうだったっけ? 足を引っ張ることだけはしないでもらえる?」
「あの黒玖の都での戦闘なら戦闘の様子とレポート読ませていただきました。現場に二時間も遅れて到着したそうですね。それって司令として役割を果たしていると言えるのでしょうか?」
「ハッ! こういう時こそ、ユニットメンバー各個人のレベルが知れるってものよ。アタシはそのために鍛えてきたの。あの戦闘全てが、アタシの指導の賜物だわ!」
そこでケンとジョーがこっそりと言葉を交わしていた。
「俺たち、死ぬほど走らされて、魔力使わされて、プールに叩き落された以外に何か鈴宮司令から教わったっけ?」
「さぁ?」
幸いその会話は二人の耳には届かなかったようである。
「悔しかったら、さっさと実績上げてから言いなさいよ! この屁理屈女!」
「なっ! 昔から貴方のそういう品の無い言動に嫌気が差していました。もっと、先達として範を示していただけませんか?」
「アタシというこの上ない指導者以外に、誰を手本とするって言うのよ?」
「反面教師という言葉をご存知です?」
二人は一歩も譲らず、口争を繰り広げていた。そこに春田がそっと鈴宮に声をかけた。
「鈴宮司令、出発のお時間です」
鈴宮はむっと一瞬黙った瞬間を狙って、飛鳥に近づいてくる小柄な女性がいた。
「飛鳥司令もそろそろ準備しないとですぅ。あ、春田先輩お久しぶりですぅ」
「胡桃か。そうか、君も指令補佐に任命されたんだったな」
「はい。研修時代はお世話になりましたぁ。またご一緒できるなんて運命ですねぇ」
胡桃と呼ばれた女性はボブカットで毛先だけ緩く内側に巻いて、清楚な服装だが小柄な体形に対してアンバランスなほどの巨乳であった。胡桃は春田に柔和な笑顔を向けて、春田の方にすり寄っていった。その様子を見て、鈴宮のこめかみがひくひくと痙攣した。
「全員乗車! 一秒でも遅れたやつは置いてくからね!」
鈴宮の号令を聞いたSユニットの面々は急ぎ足でバスに乗り込んだ。
「それでは、皆さんもバスに乗って下さい」
「ええー! アンタたちも同じバスで行くの?」
鈴宮の不満気な発言に、飛鳥はため息をつきながら眼鏡のフレームの位置をそっと直した。
「当然です。本件は『共同任務』です。作戦要綱にも載っていたでしょう」
「ふん、あんな旅のしおり、いちいち全部読んでなんかいないわよ。アンタ、取扱説明書も全部読むタイプ? 時間の無駄ね」
「作戦要綱を一体何だと思っているんです?! 貴方は作戦行動を軽視しています。本作戦においては私に従ってください」
「だーれが、アンタみたいな石頭の言うこと聞くと思ってるのよ? 実績さえ上げてれば上層部だって文句は言えないわ。司令試験での成績でも、アタシの方がアンタより上だったでしょ? いい加減負けを認めなさい!」
「たった三点差でしょう?! それに面接においては私の方が高評価でした」
「はぁー、イヤね。上に媚へつらうことだけ得意な人は。アタシはあくまで実力主義なの」
「……侮辱です。撤回を要求します」
「やぁよ――車内では話しかけないでよ。アンタの相手するくらいなら寝てた方がまし」
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