優等生とサボり魔
翌日には寮に戻る許可が下りた朔也はそれまでとは違う視線を向けられることが増えた。食堂や廊下でも違う色の学生がちらりと朔也の方を一瞥してくる。落ち着かない様子で食事をとっている朔也を見かねて赤毛の男子学生がどさりと向かいの席に座った。
「そんなオロオロしてんじゃねぇよ」
「面影さん」
面影が座ると視線が恐る恐る散っていった。面影は構わずカレーうどんを食べ始める。意外にもポケットから紙エプロンを付けた。
「先週のお前がしでかしたことが噂になってんだよ。見世物パンダだな。まぁ半分やっかみも入ってるかもしれんが、気にすることなんて何にもねぇんだからどんと構えてりゃいい」
「僕はそれほど大したことはしてないんですけど……皆に助けられてばっかりで」
「そりゃ当然だろ。でも、そんな当然の事がすっげぇことなんだっていう認識がどうもお前は甘いな。新人がどでかいことすりゃ面白くないやつがいたって当然だろ」
「そう、なんですかね……」
「そうだ。公式には知られてないがお前は黒玖の都とそこに住む人の命を救ったんだ。本物の守護者だよ。胸を張れ」
ズルズルと音を立てながらすごい勢いで麺が無くなっていく。
「身体は良くなったみたいだな。さっさと食わないと午後の授業に遅れるぞ。じゃあな。あ、あとそのヘアー似合ってるぞ」
ぱちんと手を合わせてから、トレイを持って面影は去っていった。
それから一週間ほど朔也は時の人として、他の色の聖銃士から注目される羽目になった。久しぶりの御子神学園での黒のクラスメイトたちとの訓練で意外な人物と再会した。
「あ~、久しぶり。真山くん」
「あ! 瀬川さん。こんにちは」
白のブレザーに黒のチェックのスカートを着ているまではいいが、その下にさらにたぼたぼのジャージを履いている。そういえば、黒に発色したと噂では聞いていたが、寮でも訓練でも会うのはこれが初めてだった。
「瀬川さん、今までどうしてたの?」
「ん~、あたしかい? 発色してすぐ黒の聖銃士に欠員が出たユニットがあってね。超特急で防御魔法と治癒魔法の訓練して、ユニットを組んだんだ~。それで赤珱の都に飛ばされてた」
「あ……それ、おれのせいです」
消えるようなか細い声で幽谷が後ろから声をかけてきた。
「本当はおれにその指令が来てたんですけど……おれ、こんななので……今のバディー以外とは組めないって断ったから……瀬川さんにご迷惑を……」
「あ~、そういうことだったんですね~。まぁ、そういうわけでいつまでもサボり魔をやっているわけにはいかなくなっちゃったってこと。蛟と戦うなんていやなんだけどな~」
「そうか、瀬川。いまだにその考えを変えないなら、さっさと霊珠を捨てて出ていってくれないか。見るだけで不愉快だ」
長谷部が冷徹な言葉とともに射撃訓練場に入って来た。
「おや~、優等生の長谷部くんじゃないですか~。いつも通りの切れ味ですね。でも、そろそろ才能無いの、自覚したらどうですか? 必死で個人練習しても、そのレベルまでしか行かないわけですし。その個人主義、あ、違うか独断専行の方が合ってますね。直さないと、いつか痛い目を見ますよ~?」
「才能だけが実力だと思うな、瀬川。自主性を重んじることと、怠慢は別だ。最後の言葉はそのままお前に返す」
二人が舌戦を繰り広げていたところに鷹山がやってきた。長谷部は強い視線で瀬川を睨みつけ、瀬川はにやりと嘲笑うようにして二人は別れた。今日の参加者は瀬川と長谷部、幽谷、面影、朔也の五人だけだった。朔也は瀬川の射撃の様子を久しぶりに見た。瀬川はだらりと左手を垂らし、右手だけで聖石銃を構え、息つく暇もないほどのスピードで連射していた。その精度は凄まじく、全て的の中心に集中している。
「ふ~。やっぱり、訓練ってめんどくさいね。真山くんもサボリ?」
「いや、瀬川さんの射撃、すごいなぁって……」
「前にも言ったけど、こんなこと難しいことじゃないよ。それに模擬銃からこの銃に持ち替えて楽になったしね。軽くて楽ちん」
そういうと瀬川はまるでガンマンのように銃をくるくると手の中で回して、ベルトにしまった。
「さぁて、あたしは帰ろう。どっかの優等生が絡んできてめんどうだし。またね、真山くん」
そういうと瀬川は訓練中にもかかわらず、一人引き上げていった。
「はー、確かに噂に違わぬ射撃の精度だな」
「面影さんから見てもそう思いますか?」
「そりゃ、有効射程が短いあの形状の聖石銃でこの結果だもんな。いきなり、ユニットに抜擢されたのは伊達じゃないってことか。お前とは違う意味で『天才』だな」
「いや、瀬川さんに比べたら僕なんて……」
「無駄な謙遜はするな。黒の聖銃士は基本自由主義だが、お前の同期は癖が強いな。須夜崎が放置してるからこうなるんだが……」
「長ですか?」
「あいつのやってることも、考えていることも知らん。得体が知れない。ただ、オレたちの知らない何かがあることはわかる」
「面影さんでも知らないこと?」
「ああ、今年は特に何かがおかしい。お前のあと新入生が入らなくなったのも、急な定期検診も、須夜崎の不在が多くなったのも……全部オレのカンだけどな」
そう言うと面影は訓練を再開した。朔也も射撃をしながらも、なんとなく薄気味悪いものを感じていた。この名前の分からない不安を胸の中に無理やり押し込んで、朔也は引き金に力を込めた。黒い光弾は的の中心を正確に射抜いた。
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次回「新たなる指令」をどうぞよろしくお願いいたします。




