小さな変化
朔也が再び意識を取り戻した時、乗っていたのはワゴン車ではなく例のバスだった。
「よっ! やっと起きたな。おーい、皆朔也が起きたぞ!」
「ケン、今って何時?」
「何時っていうか何日だな。あれから二日経ってる」
ジョーが前の席から振り返って答えた。
「あの後、朔也は病院に連れて行かれて治療を受けたんだ。俺たちは支部に戻って、療養と言う名目で爆睡した」
「魔力供給しても朔也ちっとも起きなくてさ、支部じゃ十分な治療が出来ないし、御子神学園では今定期検診しているらしいから急遽扶桑に帰ることになったんだ」
「そうなんだ……」
まだ少しぼんやりしている朔也の元に五十嵐と土屋がやってきた。
「真山君、体調は良いかね? 見事な防御壁だったよ」
「さくたん、半端なかったわぁ。あ、そういえば超爆睡してたから、さっきウチがちゃっちゃっとやってやったよん」
えっと朔也は一体何をされたのかと慌てた。そこに白い手がハンドミラーをそっと差し出してきた。
「おはようございます、朔也君。カレン上手だったので、髪型よくお似合いです」
デニムワンピースを着たみつきはいつもの無表情だがどこか目が笑っている。
「うわっ、髪がすごい短くなってる?! あれ? 今鶴来さん、なんて……」
みつきはそれには答えず、さっさと席に戻っていった。
「良かったな、朔也。一歩前進だな」
「ケン、からかうなよ。ところで鈴宮司令は?」
「いるわよ、ここに! 真山ぁ、アンタには言いたいことが山ほどあるんだから覚悟しなさいよ」
後部座席でふんぞり返った鈴宮が不機嫌そうに怒鳴った。ジョーがうんざりしたような顔をして後部座席を見た。
「俺たちも散々怒られた。幸運を祈る。しかし一体、誰が死にそうな思いをして戦ったんだよな?」
不満を漏らす双子に騒ぎを聞きつけた春田が声をかける。
「まあまあ、鈴宮司令もああ見えて、すごく心配してたんだよ。真山くんも、起きたみたいで安心したよ。はい、お茶。顔色も良いし、体調は大丈夫かな?」
はいと朔也が返事をすると春田が頷いた。
「わかった。移動中も、ゆっくり休んでいってくれ」
朔也は窓の外を見た。海と黒玖の都が遠くなっていく。
(僕はこの戦いで少しは変わったんだろうか……)
窓に映る見慣れない自分と目が合う。その向こう側で美しい南の都は来た時と変わらぬ姿で存在していた。朔也は少しずつ戦闘の中で変わっていくのを感じていた。アイドルだったみつきとバディーであるみつきのことを考える。アイドルだったみつきはいつも笑顔で、バディーとなった今は少し不愛想ででも年相応の少女だった。
(ああ、そうか。僕は君が好きなんだ)
あの行灯の中の炎の揺らめきのように、朔也の心にその思いが閃いた。その火は温かく、明るく、朔也の心に灯った。もう偶像ではない。一人の少女としてみつきに恋をしている。恋とはもっと落ち着かない感情だとずっと思っていた。けれど今の朔也にはすとんと胸に堕ちた。朔也はまたうとうとと意識がおぼつかなくなってきた。
(今はこの温もりを抱きしめながら、眠ろう)
朔也は幸せな思いで目を閉じた。
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次回「今井再来」をどうぞよろしくお願いいたします。




