結束
鈴宮の緊急防衛作戦は朔也が出来る限り広く防御壁を張り堤防を支え、その朔也を守るように土屋が防御魔法を展開する。残りの四人は二人に魔力供給を行うというものだった。
「本部の増援と常駐ユニットにも連絡入れたから三十分、六人でなんとか耐えなさい。離脱の判断はこっちがする。必ず従いなさい」
川が少し蛇行している箇所がもう今にも決壊しそうになっていた。
「みんなごめん、僕の勝手に付き合わして」
「本当にアホだなぁ朔也」
「そうだな、何にもわかってない」
えっと朔也はニヤリと笑う双子を見た。
「もうユニットを組んだからには一藤托生。我々は仲間だ」
「仲間とか超ハズいけど、そーいうこと」
五十嵐が朗らかに笑い、土屋が髪の毛をいじりながらそう答えた。
「みんなを助けたいって気持ちはみんな一緒ですよ、真山君」
みつきが簡潔にでもどこか優しく答える。
「集中しなさい、真山。アンタがメインなんだから。五十嵐、上空に少し飛んで映像を寄越して」
五十嵐が上昇していく。
「もうあと数分が限界ね。用意はいい?」
「大丈夫です」
「OKだよー、司令」
「よし……崩れた! 防御壁展開!」
朔也は五メートルほどの防御壁を張った。水圧はかなりの重さがあり、一瞬くらりと体勢が崩れる。
「大丈夫ですか、真山君?」
みつきが駆け寄ろうとするのを朔也は左手で制した。
「平気……だよ。思ったよりほんの少し重かっただけ」
朔也は振り向いて精一杯の強がりを込めて微笑んだ。
「天地謙、譲、五十嵐、鶴来、四人とも全力で二人に魔力供給をしなさい。増援が来るまであと二十分。死ぬ気で止めなさい!」
雨はもう小雨になってきたが、朔也の額は脂汗でじっとり濡れていくのを感じていた。蛟の攻撃も強大だが断続的で息をつく瞬間が必ずある。しかし、当然ながら水流にはそれはない。
(ほんとに馬鹿だなぁ、僕って)
目の前で決壊するとなったら、もう他のことが見えなくなってた。三連戦の後、疲労困憊の仲間まで巻き込んで危険にさらしている。銃を構えている腕だって重たくなってきた。なんでこんなことしてしまったんだろうと朔也は後悔していた。水圧が高まり、広範囲の防御壁を展開するのが難しくなってきた。しかし、雨でぬれた制服越しの背中に温もりを感じた。
(ああ、そうか。僕は一人じゃないんだ)
尽きようとしていた体力と魔力がゆっくりと身体に染み渡ってくる。身体の芯に火がともったように熱くなる。
「重機が間もなく到着するわ、真山。でも、防御壁の両端が徐々に削れてきている。もう少し拡大しないと決壊するわ」
(これ以上、拡大するのか。苦しいけど……)
「やります、僕たち守護者ですから」
背後で五人が忍び笑いをする気配がする。ふんといつもの鈴宮の声が聞こえてきた。
「馬鹿は死ななきゃ治んないわね。全員、残り十分! 死力を尽くせッ」
朔也は聖石銃の出力を上げる。受け止める面が大きくなったことで、更に水圧がかかる。
「朔也、踏ん張れッ!」
「お前、多分一生のうちで一番輝いてるぞ!」
双子が背後で激励する。五十嵐も土屋を応援する。
「土屋君、君も今、光っているぞ! 立ち位置的には目立ってないが、我々の命は君に預けた!」
「だから、あんたはいつも一言多い!」
後ろで防御壁を張る土屋が怒鳴る。朔也は今しかないと思い、勇気を出してみつきにずっと言いたかったことを頼んでみることにした。
「ねぇ、鶴来さん」
「何でしょうか? 真山君」
「御子神学園に戻ったら、一緒にカラオケに行ってくれない?」
みつきが小さくため息を吐いた。
「仕方のない人ですね。いいでしょう。フルメドレーで三時間のオンステージをプレゼントします」
「それじゃあ、頑張らなきゃだね」
朔也の口元に自然と微笑みが浮かぶ。長い長い十分間が少しずつ流れていく。だがその前に、六人に限界はやってくる。もうあと数分持つかわからない。目が霞んでくる。そう思った瞬間、上空から声が降って来た。
「お待たせ! 真山ぁ」
「漆原さんですか?」
おうよと漆原が力強く答え、背後に人の気配が増える。
「全く、先輩ユニットに残業を課すなんて新人のくせにいい度胸してるよ、ホントに」
「そう言ってるけど、このユニットがヤバいって聞いて一番動揺してたの漆原だから」
「だから、先輩! ばらさないでください! ほら、真山、手を貸してやるよ」
漆原が朔也に向けて一発で大量の魔力を供給してくる。
「ありがとうございます、漆原さん」
「あいよ。後衛の五人も先輩に場所譲りな」
場に安堵した空気が流れる。その直後、重機も到着した。
「全員、聞こえてる? 重機が到着したわ。作業を開始するから、応急措置が終わるまで現状維持!」
「真山、代わってやれなくて悪いけど、あんたならできる。気張りな……それにもうすぐ我らがプリンセスの登場だ」
「あら、お呼びでして?」
空からまたしても聞き覚えのある声が降りてくる。フリルのついた黒い傘をまるで落下傘のようにして墨村とそのユニットメンバーが着地した。
「状況は随時聞いてましたけど、本当に無茶ばかりする人ですね、真山さん。三連戦のあと駄々をこねて堤防を守るなんて」
「はぁ? 真山、お前が駄々こねてこんなことしてるのかい?」
墨村と漆原が呆れたような声を上げる。
「あ、いえ、まぁ……はい。その通りです」
朔也は渋々認めた。
「解っていると思いますが、今更真山さんの立ち位置をわたくしたちが交代するわけにはいきません。集中して。防御壁の形を直線ではなく柔らかく受け流す様に」
朔也はイメージをする。川の流れに沿うように防御壁を構成する。
「上出来です。あとは耐えるだけです。一番負荷がかかる部分はわたくしがフォローします」
二人は並んで川に向かって防御壁を張った。背中から吸収される魔力量も増えて、多くの手に後ろから支えられているようだった。聖石銃から出ていく力は膨大で、それは自分から発せられていることが信じられないような感覚だった。やがて、どれくらいの時間が経ったか、ゆっくりとだが確かに水の勢いが穏やかになって来た。
「応急措置が大方終わったわ。ゆっくりと防御壁を解いていきなさい」
鈴宮の声に従って朔也と墨村は徐々に防御壁を小さくしていった。川にはいくつものブロックが投入され、まだ水量は多かったがそれでもなんとか持ちこたえそうだった。
「終わった……」
朔也は膝から崩れ落ちた。そこにすかさず双子が脇から抱え込んだ。
「おいおい、主役がこんなところで寝てもらっちゃ困るぜ」
「お疲れさん、最高に決まってたぜ、朔也」
朦朧とした意識の中、双子に引きずられながら、ワゴン車に乗り込んだ。
「この馬鹿者ッ! 何のために今日までの訓練があったと思ってるの! 増援があと少し遅れてたら万が一ってこともあったのよ! コラ、寝るんじゃない!」
朔也はがくがくと鈴宮に揺さぶられた。
「まあまあ、鈴宮司令。氾濫を食い止められたんですから、とりあえず今はそっとしておきましょう」
「それじゃあ、アタシの気が済まないッ」
春田と鈴宮のやり取りを遠くで聞きながら朔也は完全に意識を失った。
お読みいただきありがとうございます。
次回「小さな変化」をどうぞよろしくお願いいたします。




