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鼓舞

「なッ! 司令、一体どういうことだよ!?」

「……ここから一キロ先で蛟が発見されたわ。色は黒。常駐ユニットもまだ戻ってこない。援軍もこの悪天候でまだ増援は見込めない。アンタたちが戦うしかない」


 その言葉に六人は固まる。


(みんな疲労してる。その上にもう一体の討伐は正直苦しい……だけど、それでも)


「みんな、立ち上がろう。私たちはここで蛟を倒してこそ本物の守護者(ヒーロー)になるんだよ! 戦おう、皆のために」


 最初に立ち上がり、声を上げたのはみつきだった。いつものクールで丁寧な口調から、アイドルの頃のそれに戻っていた。白い制服は泥にまみれ、顔にも泥が飛んでいる。それでもみつきの目には光が宿り、笑顔は晴れやかだった。それはかつてステージの上で踊っていたみつきそのものだった。スポットライトを浴びていなくても、華やかな衣装を着ていなくても、みつきは輝いていた。


(ああ、そうだ。僕はずっとこの笑顔に憧れていたんだ……)


 朔也は胸に熱い思いが込み上げてきた。


「やろう、僕たちが蛟を倒そう」


 朔也が考えるよりも早く言葉が出てきた。


「俺たちしかいないっていうならやるしかないか」

「正直、だるいけど仕方ないな」

「鶴来君の言う通りだ。みんなを守れるのは我々しかいない」

「よっしゃ、テンション爆上げでいっこかー!」


 ぬかるみの中、五人はよろよろと立ち上がった。みつきが手を差し出す。それに重ねるように土屋、五十嵐、ケン、ジョー、最後に朔也が手を伸ばした。


「獅子王ユニット行くぞぉ!」

 

 五十嵐が気合を入れる。

 おうと掛け声は雨の音をかき消した。六人は再び荒天の空へと飛翔した。


「良いユニットになりましたね」

「ふん、この程度の状況で泣き言言ってるなんてまだガキよ」


 成り行きを静観していた春田の言葉に鈴宮は厳しく返す。それからマイクの電源を入れる。


「全員傾聴。目的地は川沿いに北へ一キロ。周辺住民の避難は終わっている。けれど氾濫危険水位を越えそうよ。出来る限り迅速に排除しなさい」


 了解の旨を鈴宮に伝える。六人は暴風雨の中を滑空していく。速度を上げれば上げるほど水飛沫が顔にかかって息が出来なくなる。


(春田さんに教えてもらった水泳みたいだ……)


 息も継げないほどの雨の中、目的地に到着すると黒の蛟は既に上陸していた。


「鈴宮司令、目標を捕捉しました。既に川岸に上がっています」


 五十嵐が状況を説明する。


「モニターで見えたわ。フロントに鶴来、真山。他のペアはそれぞれ援護を。気合入れていきなさい。気を抜いたらやられるわ。こっちもあと十分ほどで着くから短期決戦で決着をつけるわよ」


 鈴宮の通信を終えるとみつきと朔也は顔を合わせた。


「鶴来さん、行ける?」

「大丈夫です。まだ余力はあります」

「わかった。絶対無理はしないで……君は僕が絶対守るから」


 雨の音に紛れて朔也は小さくそう呟いた。高感度マイクはきっちりその声を拾い、みつきは一瞬朔也を見つめ、大きな目を(しばたた)かせた。


「……行きます!」


 朔也は防御魔法を展開させ、その横からみつきは機関銃を突き出した。パラパラと連続して光の銃弾が黒の蛟に降り注ぐ。黒の蛟は昔見た怪獣映画によく似ていて、他の色の蛟よりも更にグロテスクに感じられた。黒の蛟が口腔を開ける。


「鶴来さん、下がって!」


 朔也が左手でみつきの腰を抱いて引き寄せる。抱き留める形になり、驚くみつきを横目に防御魔法を大きく展開する。蛟の攻撃は朔也の防御壁に吸収され、消失した。


「ご、ごめん。鶴来さん、咄嗟のことで」

「あ、いえ。助けていただき感謝です」


 照れて赤くなる朔也にみつきが冷静に答える。それに割り込むように鈴宮の指令が飛ぶ。


「何、青春ごっこやってんの! 援護の二ペア、真山がきっちり攻撃を受け止めるから安心して全弾撃ち込みなさい」

「了解です、司令」


 そう答えるケンとジョーの声が若干笑いを含んでいた。朔也の頬にかっと血が上り、その熱い頬を雨が濡らしていく。


「あの位の攻撃なら十分耐えられそうだった。もう少し接近できる?」

「平気です。攻めましょう」


 二人が近づこうとした瞬間、黒の蛟が跳躍した。


「危ない、全員退避!」


 五十嵐が硬い声で指示を出す。


「鶴来さん、着地した時がチャンスだ。みんな残りの魔力も体力も限界に近い。頭部に乗り移って一撃で仕留めよう」

「……わかりました。真山君にタイミング合わせます」


 川岸にいた蛟は跳躍して河原に着地した。


「一気に降下する! 鶴来さん着いてきて」

「真山君を信じます!」


 二人は自然落下しながら蛟の鼻先に着地した。


「今だ! 撃てッ」


 みつきは銃剣(じゅうけん)の付いたアサルトライフルを蛟の額に突き立て向かってぶっ放した。

お読みいただきありがとうございます。


次回「決壊」をどうぞよろしくお願いいたします。

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