混戦~下編~
「マジビビったぁ。あんなに蛟の近くに行くとか。心臓がもたんわ。それにしても臭いし、キモッ」
ドロドロと蛟の皮膚が融け、身体が瓦解していく。その様子を見て土屋が顔をしかめた。みつきも顔を背けている。雨の中でも強く漂う臭気と骨だけ残してどんどんと形を失っていく蛟の姿は、確かに見ていて楽しいものではなかった。
「おーい、そっち終わったんなら助けてほしいんだけど」
「悠長に蛟の融解見てたら、その間に俺たち死んじゃうぜ」
ジョーが防御魔法で青の蛟の攻撃を相殺しながら、ケンが隙を見ては応戦していた。青の蛟はまだ半身を濁流の中においてゆっくりと岸辺に近づいてきている。ケンとジョーの軽口はいつものことだが、明らかに疲労と焦燥感が漂っている。
「了解。そちらに向かう。鶴来君と真山君、行けるか?」
「大丈夫です。五十嵐君も、左肩もう一度治癒魔法をかけてもらってから合流して」
朔也が五十嵐に声をかけると、五十嵐は苦々しい顔で頷いた。それを聞いた土屋が治癒魔法をかける。それを見届けた朔也はみつきの方を見る。
「行こう、鶴来さん。戦いはまだ終わってない」
「わかりました」
朔也とみつきは水上へ飛び立った。雨のせいでいつもは透き通った美しい川は、茶色く濁り切っている。
「ケン、ジョー、大丈夫?!」
「朔也か! もう乾いている所なんてないくらいにずぶ濡れだ」
「辛うじて攻撃は防いで、こっちも損傷はない……けど消耗も激しい」
「わかった。どれくらい効果があるか分からないけど、二人に魔力供給する。受け取って」
朔也はケンとジョーに向かって魔力を放出した。黒い闇がひと時二人を包み込む。
「うぉ?! なんか身体が楽になった。ジョーは?」
「俺もだいぶ復活した。黒の聖銃士の魔力は親和性が低いって聞いてたのに、朔也の魔力はすんなり効いた。ありがとな、朔也!」
ケンとジョーが二人で親指を立てて朔也を振り返った。
「天地謙、譲、回復したみたいね。五十嵐、土屋が合流次第、突撃してもらうわ。今のところ二ペアで出来る限り体力を削りなさい」
「りょーかい、司令!」
「飛行で撹乱しながら蛟に攻撃を加えていくぞ」
ケンとジョーが、まるで蛟をおちょくるように周囲を飛行する。飛行しながらも、蛟に射撃を続けている。蛟がまるで二人の動きに苛立つように、その口を開けた。
「ケンとジョー、攻撃が来る!」
朔也が警告を与えると双子はきっちり射線に入り、ジョーが防御魔法を展開した。蛟の青の光線はジョーの防御魔法によって吸収されていく。
「慌てなさんな、旦那。俺たちだってこのくらいは、なぁ?」
「ああ、朔也のお陰でまだまだいけるぜ」
「天地謙、譲! 何、甘いこと抜かしてるの?! 怪我でもしたら次の訓練は倍メニューだからねッ! 無謀な行動は控えなさい」
鈴宮は耳が痛くなるほどの大声で、双子を怒った。そのあまりの勢いに、朔也はゴーグルを外そうかと思った。二組は慎重に青の蛟と距離を取りながら、攻撃をしていく。川岸に近づこうとすると、四人で牽制をかけた。
「遅くなってすまない。現況から戦線に参加する」
「お待たせー!」
五十嵐と土屋の二人が戦線に復帰する。
「五十嵐君、肩は?」
「土屋君と鶴来君のお陰で戦闘に支障はない。本当にありがとう」
「さて、六人揃ったからには総攻撃をかけるわよ! 天地謙、譲、存分に暴れまわれ! 他の二ペアはその援護。水流が激しいから、落ちたら死ぬと思いなさい」
六人が声を合わせて了解を告げる。双子は蛟の正面に陣取り、攻撃と防御を繰り返す。朔也はみつきと共に援護射撃を開始する。川の中は流れが強く、蛟もゆっくりとしか移動できない。徐々に鱗が剥がれて赤い体液が体の至る所から流れ出す。
「奴は弱っているわ。天地謙、止めを刺しなさい」
双子は弱った蛟の頭の上に着地する。もう蛟は振り落とす力も残っていない。
「くたばれ!」
ケンが近距離射撃で蛟の額を打ち抜いた。核の割れる音は雨の音に紛れて消えていった。六人は河原に座り込んでため息をついた。
「ふぅー。終わった終わった」
「初戦からこれかよ。マジきつい」
「服も髪もびしょびしょの上、泥だらけなんですけど。早くお風呂入りたいー」
「いや、皆無事でよかった」
「皆さん、お疲れさまでした。なんとかなりましたね」
「本当に……」
六人無事で良かったと朔也が告げようとした時、左手の端末が警告音を発した。六人に緊張が走る。
『警告 周辺の地域に蛟が発生しました。担当地区のユニットは速やかに現場に急行して下さい』
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次回「鼓舞」をどうぞよろしくお願いいたします。




