混戦~上編~
「行ってしまいましたか……」
春田がワゴン車を玄関に横づけしながら、小さくなっていく六人の影を見送った。
「『行ってしまいましたか』じゃないわよ! アタシたちも行くわよ! 機材の用意はできてるわよね?」
「準備出来てます。乗ってください、鈴宮司令」
鈴宮は後ろの席に乗り込んだ。そこはまるで中継車のようにモニターがいくつも並び、鈴宮は手慣れた手つきでインカムとマイクを装着した。
「こちら、鈴宮。全員聞こえる?」
「聞こえるけど、司令。雨と風がヤバいんだけど!」
「真っ直ぐ飛ぶとマジ煽られてぶっ飛びそう」
「文句言うんじゃない! 雨風がひどいからって雲の上飛ぶんじゃないわよ。高山病起こしかねないんだから。五十嵐、進路が若干北に寄っているわ。東に向かいなさい」
鈴宮は手元の携帯端末を操作し、GPSを利用したマップで六つの光点を追う。
(初戦がこの嵐の中、複数の蛟との対戦……支部常駐のユニットは出向中で増援は見込めない。本部からの支援もトンボで飛ばしてきても四時間はかかる)
鈴宮は奥歯を噛み締める。
「良い状況とは言えないですね、鈴宮司令」
「認めたくないけど、その通りよ。予感的中ってわけね。さて春田、最速で頼むわよ」
「了解、鈴宮司令!」
春田が手元のスイッチを押すと屋根の上にランプが現れた。
『緊急車両が走ります。道を空けてください』
春田がアナウンスすると鈴宮がマイクを奪い取って一喝した。
『前方の車両、全員停車しなさい! 公務執行妨害で、後で痛い目見せてやるんだからね!』
ワゴンは嵐の道を水飛沫を挙げながら疾走していく。
「なんか騒いでるな、あっち」
「また司令が無茶ぶりしてんだろ」
豪雨の中、双子がため息交じりに通信する。
「あと十分ほどで目的地に到着する。上空から状況を把握した後、民間人の有無、保護あるいは避難を優先させる。黄の個体または青の個体どちらがより危険か見極め、排除する……一体ずつだ。いいかい?」
五十嵐がゴーグルのナビゲーションシステムを利用しながら、五人に指示を出す。
「おうよ、大将。一発どでかいの喰らわせてやろうぜ」
「俺たちがとうとうヒーローになる日がやってきたぜ」
「ラッシー、気合入ってるぅ」
「わかりました、援護は任せてください」
「りょ、了解」
各々がそれぞれの言葉で意気込みを現した。やがて川が見えてきた。珠江は扶桑から流れる最も大きな河川である。遠くに蛟が二匹確認することができた。
「鈴宮司令、蛟を視認しました。周辺の民間人は避難が終わっているようです。現在、負傷者は確認されていません」
五十嵐がゴーグルをズームさせながら状況を鈴宮に報告した。
「よし、それじゃあ蛟の討伐を。黄の個体からまず倒しなさい。ペアになって散開。全員良いわね?」
「「「「「「了解」」」」」」
六人が同時に返事をした。五十嵐と土屋が前衛を飛行し、その後方を朔也とみつき、ケンとジョーが続く。
黄の蛟はその巨体を重たげに川辺に横たえていた。サイズは三メートルを超している。鋭い爪で護岸整備された岸辺を昇ってくる。
「五十嵐、とにかく額の核を狙っていきなさい。土屋はフォローを。天地赤がアタッカー、天地青、ブロッカー。鶴来アタッカー、真山ブロッカーで援護! ブロッカーも攻撃が来なければどんどん撃っていきなさい。互いの射線に入るんじゃないわよ!」
「げっ。リアル蛟マジグロいんですけど。今からあれと戦うん?」
「フォローは頼んだよ、土屋君」
「五十嵐たちはフロントだからな」
「後ろから当てないように気を付けるよ」
「頑張ってください、カレン、五十嵐君」
「む、無理はしないで」
三組六人はそれぞれ攻撃態勢に入った。射程圏内に蛟を捉えるとエイミングを開始する。
(視界が悪い……けど、ゴーグルのお陰でなんとか見える。横にいるみつきと周りのみんなは初めての対戦だ。緊張が伝わってくる)
「鶴来さん」
「真山君、どうしかしましたか?」
「少しでも危険だと思ったら僕のそばに来て」
みつきは少し驚いたような顔をしてから頷いた。
「ファイアー!」
鈴宮の号令と共に攻撃が開始された。それぞれの攻撃が錯綜する。色とりどりの光線が黄の蛟に降り注ぐ。それでも眼下の蛟は構わず這い上がってくる。
「流石に黄の蛟は固いわね……五十嵐と土屋はそのまま、天地ペアと鶴来真山ペアは鱗の少ない腹部と目に撃ち込みなさい。体力を削っていくわよ」
双子が視線を交わし、果敢に蛟の下に潜り込み攻撃を加えていく。蛟がバランスを崩し、長く曲がった前足がぐらりと揺れる。ケンとジョーの上にその巨体が覆いかぶさろうとした。
「ケンとジョー! 逃げて!」
朔也は下降しながら蛟のその横っ腹に最大出力で一撃を食らわせた。蛟はその衝撃で大きく右に倒れこんだ。
「あっぶねぇ、押し潰されるところだった」
「助かった、朔也」
双子がそれぞれに朔也に礼を言った。
「無事でよかった。鶴来さんは大丈夫?」
「こちらは問題ありません。強烈な一撃です、真山君」
みつきも降りてきて倒れている蛟を眺めた。
「天地赤青! 無謀な攻撃を仕掛けるんじゃない! 五十嵐、今がチャンスよ。仕留めなさい」
「はい、鈴宮しれ」
いと言い切らない瞬間に五十嵐に青の光線が襲い掛かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回「混戦~中編~」をどうぞよろしくお願いいたします。




