↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/88

嵐到来

 あっという間に二週間が経ち、黒玖の都での生活にも慣れてきた。夜、風呂から上がり、四人はTVをなんとなく見ていると天気ニュースが入った。


「大陸の南洋で大型の嵐が発生しました。嵐は黒玖の都を直撃する見込みです」

「マジか。嵐とか初めて経験するな」

「一番接近するのは明後日だな」


 ケンとジョーが天気図を見てのんきに揚げ菓子を食べていた。


「いや、この経路だと本当に嵐になるかもしれないぞ。蛟が発生する可能性が高まるということだ」


 五十嵐が難しい顔をして画面を見つめた。朔也は不安がよぎった。再びあの怪物と対峙しなければならない事態になるかもしれないと思うと背筋が寒くなる。


(どうか、何事も起きませんように)


 朔也は遠く水平線を見ながらそう願った。


 鈴宮も自室でニュースを見ていた。横でコーヒーを淹れている春田に話しかける。


「文字通り嵐が来そうね」

「司令が言うと本当になるんですから、嫌な予言するのは止めてください」

「そっちこそ、二人の時は司令って呼ばないって決めたのに、変わらないじゃない」

「公私混同はよくありませんよ。あくまで俺の仕事は司令の補佐役ですから……何か根拠があるんですか?」


 ふんと軽く形のいい鼻を鳴らし、鈴宮は端末を操作した。


「黒玖は海沿いの都だから蛟の発生件数は比較的少ないんだけれど、ここ一か月は特に少ないわ。乾期だったしね……そこに大型の嵐が来る。嫌な予感ほど当たるのよね、アタシ」

「あの子たちも戦闘に出る可能性があると?」

「そうならないことを祈るしかないわね……正直、まだ実戦に出すのには早すぎるから」


 鈴宮はコーヒーを淹れる春田を後ろから抱きしめる。


「自分が戦場に立つときはこんなに不安にならなかった……あの子たちを戦場に送り出すのは怖い」


 腰に回された鈴宮の手に春田は手を重ねる。


「そんな時こそ司令には毅然としていてもらわなくては……凛姉さんなら大丈夫。必ず、あの子たちを守ってやれる」

「うん……絶対に誰一人失わせない」


 そう呟く鈴宮の瞳には静かな炎が灯っていた。


 嵐は予定の進路から外れることなく、大陸に上陸する模様だった。黒玖の都の北部では既に大雨の警報が出ていた。蛟が発生したとの通報を受けて、漆原のユニットが急行していた。


「いい? アンタたちは知らないだろうけど、モンスーンは暴風雨を伴う自然現象よ。嵐が来るわ」


 カツカツと音を立てて室内を歩き回りながら鈴宮がユニットにミーティングを行った。その足音をかき消すほどに強い風が窓に吹き付け軋んでいる。


「そのため、北部の大雨のため、蛟が発生した。だけど、間もなく大型の台風が上陸するわ。もしも、現時点で蛟が発生した場合、アンタたちに出動命令が下る。台風が通過するまで臨戦態勢を解除しないこといいわね」


 六人はそれぞれの調子ではいと返事をした。


「臨戦態勢だというのはわかったけど、飯は弁当でトンボ背負いながらって厳重すぎないか?」

「これ、紐が妙に細くて肩に食い込んで重たいんだよな」


 双子が鈴宮のいない隙に支給された弁当を食べながらぶつくさ文句を言う。


「黒玖支部は訓練場が狭いから飛行訓練と連携訓練が出来ていないのが心配だ」

「あーね。基本水中訓練が多かったしね」

「土屋君の言う通り、海に近くて水源が豊富な黒玖独自の訓練で非常に為にはなったが実戦となると話は別だからね」


 僅かに緊張した五十嵐に対して土屋はのんびりしたものだった。


「まぁ、出るときは出るし、出ないときは出ないじゃん? そもそも最初って誰にだってあるもんだし、そんなに固くなっても仕方なくない?」

「カレンはなかなか肝が据わっていますね」


 みつきが土屋の言葉に感心した様に頷いた。


「いや、ウチ、バカだからさー。先のことはよくわかんないっていうか。考えても無駄なことは考えないようにしてんの」

「それは土屋君の美点だと思うぞ」

「ありがと、ラッシー。でもムカつくのはなんでだろう?」

「心からの言葉だぞ」

「だからだよ! もういいから黙ってて!」


 一時、蛟への恐怖が薄れた室内に全員の左手の端末が警告音を発した。


『警告 周辺の地域に蛟が発生しました。担当地区のユニットは速やかに現場に急行して下さい』


 朔也が立ち上がると腰からぶら下げたゴーグルから鈴宮の声が聞こえた。


「全員、エントランスホールに集合! 三十秒で来なさい」


 階段で六人が大急ぎでエントランスホールに降りると、西大陸のブランドロゴの付いた防水ジャケットに身を包んだ鈴宮が仁王立ちしていた。


「遅い! 叱る時間も勿体無いからざっくりブリーフィングに行くわよ。蛟が発生したわ。ここから約三十キロにある珠江で黄、青の二匹の蛟が確認されたわ。リーダーは五十嵐! アンタに任せるわ。ゴーグルを見て先導しなさい」

「了解しました、司令!」

「この天候じゃヘリからの指示は無理だから陸路で向かうわ。つまり、アタシと春田がいない状態で戦闘を開始することになる。アンタたちのゴーグルを通してモニタリングしながら指示を出すけど、現場の判断に委ねる。民間人の安全が最優先。そして仲間と自分の身は自分で守りなさい! 神に祈るくらいなら自分を信じなさい。行けッ!」


六人は五十嵐を先頭に嵐の空に飛び立った。


お読みいただきありがとうございます。


次回「混戦」をどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。