鈴宮式訓練
「起床よ、アンタたち! さぁ、訓練に行くわよッ」
早朝いきなり引き戸が開けられ、鈴宮が乱入してきた。
「鈴宮司令ですよね、今……何時ですか?」
朔也が、目をこすりながら尋ねた。
「朝の四時半ね」
「何で、こんな、早くやるんすかぁ?」
欠伸交じりにケンが聞くと、
「蛟はいつ出現するか分からないのよッ。常に出陣する心構えが無くてどうするの?!」
「あの、ご高説もっともだと思いますが、土足はいかがかと……」
五十嵐の指摘に鈴宮は足元のヒールを見てその場で脱いでポイっと廊下に放り投げた。
「さぁランニングに行くわよ! 五分で下に集合しなさい!」
言いたいことだけ言うと鈴宮は嵐のように過ぎ去っていった。
五分後、寝ぼけ眼の六人はジャージを着て、夜明けの海岸に立っていた。
「あの身体能力のデータは研究所で採ってありますよね? なんで今更持久走を?」
「お黙りッ! 古い根性論を振りかざすためじゃなくって、アンタたちは聖銃士になってからの能力の限界値を体感的に把握しきれてない。今日は体力、魔力、気力、全て使い切るまで訓練を受けてもらうわ。ひたすらこの海岸を走りなさい。プライベートビーチだから、誰も見てないわ。春田、タイムの準備出来てるわね?」
「はい、時計の設置も完了しています」
「よしッ! それじゃあ、ウォーミングアップして十分後集合!」
それから約三時間ひたすら六人は走り続けさせられた。二時間半過ぎた頃から朔也は意識が朦朧とし始めた。日が昇り美しい朝焼けも既に目に入らない。
(みつきより先には倒れられない……)
そんなささやかな意地だけに縋りつきながら、朔也は走り続けていた。三時間になる手前で、みつきと土屋の足が止まった。
「土屋ぁ、鶴来ぃ、ゆっくりでいいから止まらず歩きなさい!」
砂だらけになった二人はよろよろと立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。朔也も三時間を少し過ぎた時、よろめくように足を止めた。その背中を双子が叩いていく。
「よく走った、朔也」
「ナイスガッツ」
息を切らせながら朔也を追い越していく。
「お疲れ、真山くん。はい、ドリンク」
春田が朔也を支えるように、ビニールシートに運んだ。女子二人も少し疲れた顔をして、タオルを頭にかけて日差しを避けていた。そんな中鈴宮は悠々とビーチパラソルの下、ビニールチェアに座り携帯端末をいじっていた。
「真山、アンタはやっぱりデータ通り体力面では平均値ね。今更鍛えても仕方ないけど、魔力量が多いことに過信してるといつか痛い目を見るわよ」
サングラスを少しだけ上げて、色素の薄い茶色の瞳で朔也を見据えた。結局、五十嵐は三時間半、双子は三時間四十分走った。
「よし、いったん支部に戻って朝食。終わったら射撃訓練するから。シャワーと制服に着替えることは許可する。あと治癒魔法は禁止よ」
鈴宮は一人だけ足取りも軽やかに、支部に戻っていった。後には、疲労困憊の六人とビーチパラソルなどの片付けをさせられる春田が残された。
六人は何とか食堂で朝食を詰め込み、シャワーを手早く浴びて制服に着替えて射撃場へとやってきた。御子神学園と違い、室内型になっていた。
「遅いッ。何、ちんたらやってるのよ! さっさと並んで、射撃体勢に入りなさい。一センチ口径一秒に、一発ずつを魔力が切れるまで続けなさい。標的の中心から三十センチ五発連続で外れたら、あとでペナルティーをつけるからそのつもりで。九時になったら開始するわ」
六人はゴーグルを付けて一列に並んだ。
「開始!」
ゴーグルからアラームの様な電子音が、一秒ずつ流れてくる。それに合わせて、射撃を続ける。無機質に、射撃を続けるほどに時間の間隔が遠くなる。朔也は百まで数えて、数えるのが億劫になって止めてしまった。ただ、百発ごとに標的が自動的に代わることだけが変化だった。無限に続くかと思われた時間は、鈴宮司令の声で終わった。
「終了よ、真山」
気が付くと、横には誰もいなかった。みんなぐったりとして、壁にもたれて座り込んでいた。
「五時間休憩なしは大したものね。でも、まだ余力がある。そうよね?」
「あ、いや、僕は……」
「アタシも三重リミッターだったんですもの。そのくらいわかるわ。今から一時間、防御魔法を維持しなさい。サイズは三メートル四方。開始!」
朔也が食事にありつけたのは、結局さらに一時間後だった。流石の朔也もへろへろで、食堂で黒玖名物の麺を頼んだ。柔らかなそうめんに少し甘い汁が絡み、疲れた体に染み渡った。ほうほうの体で部屋に戻ると、双子と五十嵐が畳に寝転び、ぐったりとしていた。
「おかえり、朔也。遅かったな」
「うん、あの後二時間防御魔法をさせられて……」
「マジかよ……鬼か、あの司令」
「五時間射撃の後休みなしで二時間とかありえない」
ケンとジョーが、うんざりしたような声で呟いた。
「それだけ真山くんはすごいということか……感服する」
いつもはキリッとした五十嵐も今は壁にうつかり、今にも崩れ落ちそうだった。
「それで、あの鬼司令はこの後何かあるって言ってたか?」
「いや、今日はこれで終わりらしい。しっかり休めって言ってたよ」
そうかと室内に安堵の空気が満ちる。
「それじゃあ、夜になるまで。ちょっと寝るか・・・・・・」
ケンの声にああと誰が答えたかもわからない。朔也はそこで意識を失った。
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次回「水中訓練」をどうぞよろしくお願いいたします。




