美味しい時間
食堂にはもう一組ユニットがいた。その中の一人、緑色の短髪にノースリーブのアグレッシブな制服姿には見覚えがあった。
「漆原さん!」
「あれ、真山じゃん。何だ、研修に来るユニットって真山のところだったの?」
「ええ、まぁ。昨日決まってさっき着いたところです」
漆原と話していると漆原のユニットのメンバーがわらわらと真山を取り囲む。
「へぇ、君があの河川敷の戦いの時の新人の片割れかぁ。あの時は増援ありがとう」
「後から聖石銃授与されたばっかりだって聞いて驚いたよ。怖くなかった?」
「こらこら、皆で寄ってたかって新人をいびらない。まぁ、あたしたちしばらくここの担当だから何かあったらいつでも言いなよ」
ぽんと朔也の肩を叩く。それを見た赤のリボンの女子が揶揄する。
「あー、漆原が先輩面してるぅ。初陣で怖くて泣いた漆原が成長したなぁ」
「ちょっと先輩! 何ばらしてるんですか!」
わぁわぁと騒ぎ始めた漆原のユニットの輪から朔也はそっと抜け出し、残りの五人の元に戻った。
Sユニットの皆は円卓に座って待っていた。
「なんかお取込み中だったから、適当に注文しておいたぞ、朔也」
「ありがとう、ジョー」
ジョーの隣に朔也も腰かけた。
「真山君は既に蛟と戦闘した経験があるのかい?」
朔也の左隣に座る五十嵐が驚いたように尋ねてきた。
「ああ、うん。黒に発色した二日後に長と一緒に増援に行ったんだ」
みつきの視線も感じて朔也はたどたどしく事情を説明した。
「もう既に増援ユニットに配属されて、実戦経験があるなんてすごいな」
いたく感心したらしく五十嵐が目を見開いた。みつきも興味深そうに朔也を見た。
「朔也は玻璃の聖銃士のころにも蛟に遭遇してるんだぜ」
「ケン、お前の手柄じゃないだろう」
ケンが胸を張って自慢するのをジョーが冷静にツッコミを入れた。わいわいと盛り上がっていると料理が届いた。大きな豚の角煮がいくつも乗った丼や麺に点心が運ばれてきた。
「……美味しそうです」
「めっちゃカロリー高そう。ウチ聖銃士になって良かったわ」
女子二人が異国の料理に感嘆を上げている。
「それじゃ頂こうぜ。頂きますー!」
料理の乗せられたテーブルがくるくると回転する。
「そういえば、つっちーと五十嵐って同期なのか?」
ジョーが二人に尋ねた。
「そうそう、ウチのふた月後に入学したのがラッシーだったんよ」
「つっちーの方が先だったんだ」
そうとケンの言葉に土屋が答えて、小籠包を一つつまんだ。
「来た当初はこれの見てくれのお陰で、女子たちがキャーキャー言ってたわけよ。その上、訓練も勉強も成績良かった。だけど、中身が話を聞かない上にめんどくさい学級委員長体質で、あっという間に皆冷めたわ」
「そうだったのか。だけど土屋君は一貫として態度が変わらなかったな」
「や、ウチのタイプじゃなかったし。馬鹿真面目もここまでくるといっそ清々しいものがあるわ」
「そこまで褒められると照れるな」
「だから、褒めてないから」
照れ笑いする五十嵐を横目に土屋が愛玉子を一掬い食べた。
「あぁ。これ美味いわ。つるるんも食べた?」
「本当ですか? では失礼して、一口頂かせていただきます……二人が性格反対なのに仲が良いですね」
「うーん、仲は良いかはともかく、ウチら女子グループからも男子グループからもちょい浮いてたからね」
「土屋君はじっとしていると眠くなる体質だからよく一緒に授業を受けたてたぞ」
「そういうこと言うなって。恥ずいじゃん」
土屋は頬を膨らませて、タピオカを啜った。
「ところで二人はこれが初めてのユニット?」
「そうなるな。僕らが発色する少し前に一つ前のユニット会議があったから」
ジョーの質問に五十嵐がスムーズに答える。
「ま、そんなわけでよろしく頼むわ」
気が付くとテーブルの上の料理は空だった。長旅で疲れているし、食事会はこれでお開きということになった。
男子組はお風呂セットを持って来ていたので同じ階にある浴場に寄った。
「学園と比べると小さいけど、なんか異国情緒溢れる感じで良いな」
ケンが風呂を見渡してそう評した。
「飯も美味いし、どうなることかと思ったけど黒玖も悪くないな」
ジョーも湯船に身を沈めて、満足そうな溜息を洩らした。
「すごい筋肉だね、五十嵐くん」
「そうかな?フェンシングをやってたんだ」
朔也は五十嵐の身体を見て驚いた。細身だと思っていたが、足の筋や腕、腹筋はしっかり筋肉がついている。
「確かに。五十嵐は着やせするタイプなんだな」
「男の着やせなんてロマンがねえよ」
五十嵐が朗らかに笑った。
「天地くんたちも良い身体してるじゃないか。察するにサッカーとかかな?」
「え、なんでわかるの? 五十嵐。怖い」
ケンが身体を隠す様に両手で己の身体を抱きしめる。
「スポーツ観戦が好きで。中継見ているうちに何となくわかってきてね。筋肉の付き方で何の競技やってたか当てるのも楽しくなってきたんだ」
「……変わってるな、五十嵐って」
微妙な空気が漂う中、五十嵐は気にする素振りも無く鼻歌を歌いながら湯船に浸かった。
部屋に戻ると四人は押入れから布団を出して寝支度を始めた。
「天虹寮の時は間仕切りがあったけど、こっちは何にもないんだよな」
「なんか待遇、退化してるよな」
不平を漏らす双子を無視して、五十嵐はさっさと布団を敷くと寝床に入った。
「いいじゃないか、修学旅行に来た気分で。では、僕は寝させてもらうよ。お休み」
言うが早いかすぐに五十嵐は眠ってしまった。
「うーん、こんな事、前にもあったよな」
「な。俺たちもやることないし、寝るか」
双子たちと共に朔也も自分の布団に入った。眠れるか心配したが、眠りはすぐに訪れた。
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次回「鈴宮流訓練」をどうぞよろしくお願いいたします。




