南の都 黒玖
プレートを温めて食事を終わらせた後、気が付くと眠っていたらしい。朔也はジョーの呼び声で目を覚ました
「おい、朔也。黒玖の都、すぐそこに見えるぞ」
乾いたコンタクトを付けた目を、何度か瞬きして、ようやくその全貌が見えてきた。朱色の城門の向こうは、摩天楼になっていた。その向こう側にきらりと光る広大な光景が広がっていた。
「あれって海?」
「そうだろ! 何、朔也って海見たことないのか?」
「扶桑の都から出たことないから……」
東洋と南洋の混ざり合った独特の建築物と海に目を奪われる。
「すっげぇ、あの赤い塔、ライトアップされてる!」
「提灯とかたくさんついてるな」
ケンとジョーは異国の風景に夢中である。それは六人すべてに多かれ少なかれ言えることだった。街に入り、混雑してきたところで春田はすぐ後ろに座る五十嵐に声をかけた。
「五十嵐くん、悪いけど鈴宮司令起こしてきてくれないかな?」
「わかりました」
「あ、司令すごい寝起き悪いから声を掛けたらすぐに退避すること。いいね?」
はいと五十嵐が返事をして、一番奥でブランケットをかけて眠っている鈴宮を軽く揺さぶる。
「鈴宮司令、黒玖の都に着きましたよ」
「……敵か?! 喰らえ、変態!」
寝ぼけた鈴宮はリクライニングにしたまま、その長い脚でハイキックをかましてきた。五十嵐が間一髪ヒールを避ける。ヒールの先端が鼻先にかするのを五十嵐は感じた。
「鈴宮司令、もうすぐ支部に到着予定ですよ」
春田が車内アナウンスで鈴宮司令に話しかける。
「はぁ? やっと着いたっていうの? ……全く時間かかったわね。さて、アンタたちも降りる準備をしなさい」
市街地を抜け、海岸沿いの旅館の前にバスは停車した。
「やっぱり、こっちはあったかいな。しかし、これは……」
「これは……泊まろうと思う旅行客はいないだろうな」
ケンの言葉を引き継いでジョーが全員の心を代弁するように呟いた。鈴宮はそんなことに気も留めず、荷物を春田に持たせてずかずかとエントランスへと入っていった。
「鈴宮司令とユニットの皆さんですね。お待ちしておりました」
初老の男は丁寧に一礼した。エントランスも薄暗く如何にも何かが出そうな雰囲気を醸し出している。
「しばらく、厄介になるわ。案内をお願い」
「かしこまりました。ではこちらへ」
野木に従って八人はぞろぞろと歩き出した。三階にあがると内装がガラリと変わり、艶やかな朱色に染められた壁に竜の模様と行灯の中に揺らめく火がエキゾチックであった。部屋に来ると初老の男がガラリと引き戸を開けた。
「こちらが大部屋になります。黒玖の都にしては珍しく畳の仕様になっています」
案内されたのは十畳ほどの和室だった。清らかなイグサの香りが漂ってくる。
「ほら、男子、さっさとは入りなさい」
「え、個室じゃないんですか?」
「当然でしょ。ユニット組んだばっかりのひよっこたちに個室なんてもったいないわ。女子は隣の二人部屋よ」
鈴宮に文句を垂れようとする双子に春田がそっと耳打ちした。
「ユニット組んでまだ十分コミュニケーションが取れてないから、司令がわざわざ手配したんだ。まずは三週間、様子を見てくれよ」
背の高い春田が腰をかがめて、申し訳なさそうな微笑みを浮かべるのを見て、双子は言葉を飲み込んだ。
「それじゃあ、最上階のベッドルームに案内して頂戴。訓練は明日から。遅れるんじゃないわよ」
そう言い残すと鈴宮はさっさと部屋に引き上げていった。二人もそれに従い、エレベーターに向かった。仕方がないので六人はそれぞれの部屋に入った。
「御子神学園もそうだけど、ほんとに外観と内装の落差がすごいよな」
「ああ、しっかし、和室で雑魚寝とか合宿以来だな」
双子が部屋を見て回る。TVに冷蔵庫と設備はまるで旅館そのものだ。朔也がカーテンを開けると、窓の向こうには海が広がっていた。
「すごい光景だな。丁度日が沈んで空と海が真っ赤に染まってる」
気が付くと横に五十嵐が来ていた。
「五十嵐くんも海を見るのは初めて?」
「うん。文献や映像では見たことはあったが実物は初めてだ。綺麗なものだな」
二人で海を眺めていると双子がその背中に声をかけた。
「おーい、そこで黄昏れてる二人。飯は二階の食堂だってさ。そろそろ行こうぜ」
靴を履いて廊下に出るとジョーが隣の部屋を見た。
「女子も呼んでいくか」
「そうだね。じゃあ呼び鈴を押してみよう」
五十嵐が女子部屋のチャイムを押すと、土屋が出てきた。
「どうしたん、ラッシー?」
「夕食の時間だから呼びに来たんだ。ラッシーは止めてくれ」
「ああ、夕食ね。つるるん、行ける?」
土屋が振り返って、みつきに声をかける。
「問題ありませんよ。行きましょうか」
中からみつきが出てきて、六人は連れたって廊下を歩き始めた。
「女子の部屋はベッドなんだ」
「うん。シャワーとお風呂も付いてたしね」
「良いなぁ。俺たちの部屋は布団だぜ。何か待遇に格差があるな」
ケンとジョーがみつきと部屋の間取りについて話していても、朔也は緊張しながら聞き役に徹していた。
「飯はなんだろうな。黒玖の飯は安くて旨いって聞いてたけど、まさか来ることになるとはな」
「それだよな。ユニット組んですぐ旧王都の扶桑から飛ばされると思わなかったな」
ケンとジョーが言い合ううちに食堂に着いた。
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次回「美味しい時間」をどうぞよろしくお願いいたします。




