クロユリ部隊
トンボを装備し、飛行訓練場に着くとそこには既に須夜崎が立っていた。
「やぁ、皆遅かったね」
「昼行灯に言われたかねぇよ」
「そう言われると肩身が狭いな」
くすくすと須夜崎が笑った。
「それで、長。誰をつれていくんですか?」
幽谷は消え入りそうな声で尋ねた。
「そうだね・……墨村と長谷部そして」
須夜崎は朔也をじっと見つめた。
「真山。以上の僕を含めた四名で向かう」
待てよと面影が声を荒げた。
「ゴスロリ姫さんはともかく、残りの二人は何なんだよ! 真山なんて昨日銃が授与されたばっかりだぞ。いきなり修羅場に新人連れてくなんてやり過ぎだろ」
幽谷も面影の言葉に頷いている。
「大丈夫。僕と墨村がついているし」
「だけどよぉ……」
まだ言い募ろうとする面影に須夜崎はにっこりと笑った。
「僕が決めたことに何か不満がある? 他ならぬ僕の決定に」
面影と幽谷は黙って俯いた。
「それじゃあ、出発するよ。ここで揉めて援軍が遅れて、全滅にでもなったら目も当てられないからね。校外を飛行するのは初めてだろうけど、感覚は訓練と同じだ。墨村、先導して。殿は僕が務める」
「はい、かしこまりました」
ヴィーンと羽根が振動し、墨村の身体が浮き上がる。
「長谷部さんはわたくしの左側後方に、真山さんは右側後方に続いて下さい。出来る限りわたくしの後ろを飛行してください。空気抵抗を受けてスピードが落ちます」
朔也は右の人差し指に力を入れ、トリガーを引いた。長谷部に続いて空へと舞いあがった。
「目標地点はゴーグルに表示されますが、わたくしを見失わないようにしてくださいね」
ゴーグルから墨村の声が聞こえてくる。ナビゲーションに通信機能までついていたとは朔也は知らなかった。
(それよりも……まさか、こんなに早く再び蛟と対決するなんて)
朔也は掌にじっとりと汗をかいているのを感じた。隣を飛んでいる長谷部の方を窺うが、ゴーグルに阻まれてその表情は読み取れない。しかし、その口は固く結ばれている。四人は陣形を組みながら、電塔よりも高く飛翔し、上空を滑空していく。街の風景がどんどん流れていく。肌に触れる空気は冷たく、頬を風が撫でていく。
「目的地付近です。報告では川辺で戦闘しているはずなので注意してください」
墨村が注意喚起をすると、右前方で爆発音が響いていた。池の周りは五メートルほどの電気柵が仕掛けられている。その防御柵は一部破壊され、そこから白い姿の蛟が川から這い上がってきていた。
「四メートル級は超えていますね……長、指示を」
「墨村はここで僕と待機。長谷部、真山、攻撃に参加。以上」
「以上って……正気ですか?」
「もちろん」
須夜崎は微笑みのまま表情を崩さない。
「ほら、二人とも早く行かないとユニットが苦戦しているよ。参戦しておいで」
それは子供に公園で仲間に入れて遊んでもらってこいと送り出す親の様な口調だった。
「それとも、自信無い?」
「それは……」
当然ですと朔也が答えようとした時、長谷部が遮った。
「いいえ、やらせてください。行くぞ、真山」
長谷部は言うが早いか真っ逆さまに下降していった。朔也も一瞬の躊躇の後、それを追いかける。
「いいか、真山。お前はまだ新しい聖石銃の扱いに慣れてない。俺がアタッカーをやる。防御魔法であれば十分可能なはずだ。十時の方向から攻める。俺が合図したら防御魔法を展開してくれ」
「わかった」
長谷部と朔也は蛟の進行方向を塞ぐように降り立った。
「防御魔法展開!」
「了解!」
長谷部の声に合わせて朔也は黒い壁を展開させる。透けて見える蛟が口腔を開く。
「長谷部君、来るよ! 隠れて」
「っち……!」
射撃体勢を取ろうとした長谷部は防御壁の中に退避する。防御壁に強力な遠距離砲が直撃し、周辺が光に包まれる。
(発色して魔力が強くなったうえに、新しい聖石銃なら攻撃にも耐えられる!)
光が消え失せた瞬間すぐさま長谷部は射撃を開始する。弾が蛟に当たる度、蛟が苦悶の鳴き声を上げる。
「ちょっと、長谷部に真山。クロユリに増援頼んだのに何であんたたち二人が来てんの?!」
「漆原さん! 長の命令でして……」
ゴーグルから漆原の通信が入る。
「それであの怠け者一体何してるの?!」
「上空で待機しています」
「なぁに!? とりあえず、あんたたち二人は前に出過ぎ。少し下がれ!」
朔也は射撃を続ける長谷部に声をかけた。
「長谷部君、少し後退しよう……」
しかし、長谷部は蛟を鬼のような形相で睨みつけ、漆原の言葉も朔也の声も届いていないようだった。次の瞬間、蛟がその飛蝗のような折り曲がった脚で高く跳躍した。地面すれすれを飛行していた朔也たちを軽く飛び越え、最高到達点に達したところで無防備な長谷部に向かってビームを発射した。咄嗟に朔也は長谷部を突き飛ばし、防御壁を空にめがけて張った。それは降り注ぐ光の雨を黒い傘で二人が耐えているようだった。
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次回「長谷部の過去」をどうぞよろしくお願いいたします。




