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魔法銃士の少年は美少女アイドルとともに竜の歌の夢を見る  作者: 三ツ矢 鼎
第一部 魔法学園編
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黒真珠の長

狼貪虎視とは野心が旺盛なことのたとえ。 または、無道で欲が深いこと。 「狼貪」は狼のように欲が深いこと。 「虎視」は虎が獲物を狙うように見ること。

 渡り廊下を歩く九郎座の後ろを朔也は大人しく続いた。


「烏羽寮の連中はとかく癖が強い。何しろ寮訓が『狼貪虎視(ろうどんこし)』だからな。野心を持て……まぁ、お前さんには向かなそうだがな。上手くやれよ」

「あ、はい……あの、九郎座先生、声大丈夫ですか?」

「酒焼けだ」


 不愛想に九郎座が答えると花弁が黒く染まったユリの彫像を示した。


「そら、真山。霊珠をそこにかざせ」


 朔也が霊珠を当てると重々しい扉から錠が開く音がした。


「二階が女子寮なのは天虹寮と変わらん。入口に談話室が設けられている。まぁ、これから個室になるんで交流スペースってわけだな……それでここがお前さんの部屋だ」


 奥から二つ目の部屋を開けた。部屋は採光の良い南向きの間取りで、八畳ほどの広さにクローゼットが設えてあり、トイレとシャワー室が完備されていた。


「掃除はきちんとしろよ。部屋に新しい制服置いておいたから着替えておけ。引っ越しの後に講堂に来るように」


 言うとさっさと九郎座は出ていった。朔也はベッドに置かれた紙袋からブレザーを取り出した。白いブレザーに黒のライン、ワイシャツに黒のネクタイを締める。洗面所でネクタイの曲がりを直す。


(コンタクトに変えたのもあって、なんだか違和感があるな……)


 用意ができると朔也は扶桑の花が咲く講堂へとやってきた。朔也は初めての銃の授与式を思い出し、小さく深呼吸した。


(あの時はみつきと一緒だったんだよな)


 そう思うとふっと笑みがこぼれた。一人で蛟と対決した今、何を怖がることがあるのか。朔也は講堂のドアを開けた。そこには九郎座と黒いローブを着た学生がいた。


「来たな。そこに聖石銃を並べてある。どれにするか選ぶと良い」


(そう言われても……)


 朔也は火器に詳しいわけでもなく、途方に暮れてしまった。その時黒いローブを被った学生が呟いた。


「左から二番目……」


 朔也は咄嗟に振り返った。


「そのハンドガンにすると良い……君に向いているだろう」


 その声は幼く澄んでいた。朔也は指示された銃を手に取った。銀色で口径の大きな銃だった。


「銃が決まったなら、霊珠を嵌めて装弾しろ」


 九郎座に促されて、朔也は霊珠を新たな銃へとはめ込んだ。銃はまるで命を得たかのように熱を帯び、振動した。銃に張り巡らされた導線の隅々まで力が及び、強く脈うっている。模擬銃の時よりも強い変化に動揺した朔也は一瞬また暴走するのではないかと不安がよぎった。

 そこに黒いローブの学生が朔也の銃にそっと手を触れた。すると銃は穏やかに鎮静化し、銃は朔也の手の中に収まった。


「流石だな、須夜崎……それにしても、昨日あんな大立ち回りしといてその魔力量はなんだ、真山」

「す、すみません」

「いや、責めてるわけじゃねぇんだが……おし、これで俺の役目はおしまいだな。あとは須夜崎頼むぞ」


 こくりと須夜崎と呼ばれた学生が頷いた。須夜崎は九郎座が講堂から出るのを待って被っていたフードを取った。


「僕が黒真珠の長である須夜崎だ」


 フードの下の顔は朔也よりも若く、声変わりの終えていない中学生ほどの幼さの残る顔立ちだった。髪は肩口で真っ直ぐ切りそろえられ、黒のチェックのスカートを履いている。


「真山朔也です……あの、今まで墨村教官に指示を出していたのはあなたですか?」

「そう、僕が墨村に命じて行ってきたことだ。君の魔力の質は黒の魔法に近いものを感じていたから」

「そういうことって玻璃の聖銃士の頃から分かるものなんですか?」


 いやと須夜崎は首を軽く傾げて、机に腰掛けた。


「僕の勘はよく当たるんだ……今在籍している聖銃士の中で最も古参だからね」


 須夜崎はにっこりと朔也に微笑みかけた。


「君はこの学園の成り立ちを知っているか?」

「いえ、聞いたこともありません」

「この学園はね、太古の昔、王国を興した聖女の恋物語から始まるんだ。聖女は一人の若者と出会った。金の髪を持つ若者と恋に落ちた聖女は、やがて子をもうけた。その若者は、聖女が死ぬとひっそりと姿を消した。それから聖女の子孫たちが、王国を治めてきたけれど、王国は五百年前に革命によって瓦解した。それと共に東大陸の各地に、蛟と呼ばれる怪物が現れるようになった。どんな兵器でも倒せない蛟の存在に、大陸は混乱した。そんなある日、若者は再び姿を現した。そして、若者は霊珠を持つ子供たちを生み出した。六色の霊珠を持つ子供たちは剣によって――当時は銃が発達していなかったからね――蛟を退治した。その最初に発色した六人の子供たちが御子神学園の創設者たちであり、長たちの前身なんだ。これが長たちに長らく受け継がれている御子神学園の歴史だ」

「……そんなに大切な話をどうして僕に?」


 須夜崎は静かに机から降りた。


「さぁ、どうしてかな? 僕は自分の直感を信じている。だから話すべきだと思ったら、そうしている。まぁ、長と言っても年寄りという他には特に皆と変わらないからね。寮生の監督とか僕、苦手だし。自由にすると良いよ。通過儀礼はこれでお終り。それじゃあ、また、真山君」

「あ、待ってください。須夜崎さんは男子ですか、女子ですか?」


 それを聞くと須夜崎は小さく噴き出してニヤリと笑った。


「それ、直接聞くかな? どっちでも構わないだろう。ここでは性別なんて関係ないんだから」


 須夜崎はひらりとローブを翻して、講堂から出ていった。朔也は広い講堂の中に一人取り残された。


お読みいただきありがとうございます。


次回「カレー歓迎会」をどうぞよろしくお願いいたします。

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