一時の別れ
翌日、左手の携帯端末の振動によって朔也は起こされた。すると疲労感はすっきり抜けていた。起き上がろうとすると携帯端末に連絡が入った。
「もしもしぃ、今井ですが。真山君? 体調はいかがですぅ?」
「今井先生? はい、なんとか平気です」
朔也は寝起きの頭をなんとか動かしながら今井ののんびりとした質問に答えた。
「そう? でも、昨日発色して聖石銃まで壊したらしいじゃないですかぁ。こっちに送られてきたバイタルも乱れに乱れてたんですよぉ」
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
朔也は折り目正しく返答した。
「まぁ、元気ならそれでいいよぉ。またそのうち、定期検診でそっちに行くと思うから、よろしくねぇ。じゃあ、良い一日を」
通話を切ると同時に救護室のドアがノックされた。救護の先生が不在だったため、朔也がドアを開けた。すると、そこには不安そうな顔をした双子と榎木が立っていた。
「朔也、発色したんだって?!」
「いや、それより蛟と戦ったんだって?!」
「身体の方は大丈夫なのか?」
「一体何色に発色したんだ?」
「女の子助けるために二階から飛び降りたって本当か?」
「銃壊したって?」
「生の蛟ってどんなだった?」
朔也はケンとジョーによる息つく暇もないほどの怒涛の質問攻勢を受けることになった。
「落ち着け、天地ら」
見かねた榎木が後ろから間に入った。
「もう起きて大丈夫なのか?」
「うん、体調は良いよ。霊珠は黒になった」
朔也は手を開いて霊珠を示した。そこには不思議な光沢をもつ漆黒の霊珠があった。
「ショッピングモールで買い物してたら蛟が現れて、女の子が動けなくなってたから助けようと思ったんだけど。蛟が白に発色して……なんだか分からないけど必死に攻撃に耐えているうちに僕も黒に発色した。でも模擬銃は発色した霊珠に耐えられなくてバラバラになっちゃった。最後は墨村教官たちのユニットが到着して避難して……それくらいしかしてないよ」
双子は揃って頭と手を振った。
「普通、ちょっと買い物に行ってそんな大冒険繰り広げてくる奴なんていねぇよ」
「それに、朔也の戦闘動画、もうネット上にアップされてたぞ。しっかり顔出てた」
「え、嘘だよね?」
朔也はジョーの言葉に思わず霊珠を取り落としそうになった。
「俺たちも驚いたよ。でもかなりでかいショッピングモールだったし、こっそり避難しないで動画取ってたやつがいたらしくて。朔也はネット上じゃちょっとした有名人になってるぞ」
「『たった一人で少女を身を挺して守る少年の勇姿』公共のメディアは規制がかかってるから大丈夫だけど、一部のコアなサイトでは話題になってる」
「顔隠してない、聖銃士ってレアだしな。しばらくくは外出る機会も無いだろうけど、自分の立場を認識しておけよ。もう俺たち別室になるんだから」
「……そっか。もう寮移動しなきゃならないんだ」
「もうすぐ寮監の先生が来ると思うぞ。それじゃあ、俺たちは授業があるからこれで。あっちでも頑張れよ」
「いつか一緒にユニット組もうぜ」
「短い間だったが世話になったな」
三人はそれぞれの言葉を残して、救護室を出ていった。
朔也は昨日の事件をネットで検索した。
「『聖銃士たちの迅速な対応により蛟による死傷者無し……しかし、避難者の一名が急性心不全で病院に運ばれるも死亡』」
その記事の途中で、無精髭を生やした三十代後半くらいの目つきの悪い男が救護室に入ってきた。
「真山だな。俺は黒の聖銃士の住まう寮、烏羽寮の寮監、九郎座だ。体調はもういいんだな?」
ガラガラ声と威圧的な態度に朔也は若干気圧される。
「は、はい。真山朔也です。九郎座先生、よろしくお願いします」
「ふん、こちとらもう現役から退いて二十年だ。何もできやしねぇよ。それでも何かあったら俺のところにこい。話くらいなら聞いてやらんこともない。引っ越しするぞ。まず、部屋に案内するから、荷物移動させてろ。その間に新しい聖石銃用意しておくから、終わったら講堂に来い。分かったな?」
朔也ははいと従順に返事をすると、一瞬奇妙なものを見るかのような目を朔也に向けた後、九郎座は踵を返した。
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