夢から覚めて
長い夢を見ていたような気がした。聖銃士になって蛟と対決するという突飛な夢だった。朔也が瞼を開けるとそこは見覚えのない病室だった。
「朔也、気が付いた?」
世津子の声が傍で聞こえた。
「母さん、僕、一体……?」
「ショッピングモールで蛟と戦って、発色して魔力不足で倒れたんだ。その後、治癒魔法をかけてもらって、今は近くの病院にいる」
朔也の意識も徐々に回復し、朧気に記憶が戻ってきた。
「あの女の子……花ちゃんは?」
「朔也が助けた女の子は無事よ。怪我も無いって。さっきご両親と一緒にご挨拶に来てくれたけどお帰りになったわ」
そうと朔也は呟き、目をつぶった。
(夢じゃなかったのか……)
「朔也、本当に勇敢だったぞ。まさか二階から飛び降りて、玻璃の聖銃士なのに蛟と渡り合うなんて度肝を抜かれたよ」
「全く、聖銃士だからって無茶しすぎよ」
拓郎と世津子は泣き笑いの顔をして口々にそう述べた。そこでトントンと部屋がノックされた。
「坂上です。意識戻りましたか? 真山君、大丈夫?」
「まだちょっとぼおっとしますけど、なんとか」
「それじゃあ、やっぱり学園に戻ってもう一度治癒魔法をかけてもらった方がいいね。すみませんが、これで学園に送っていきます。本日は私の采配のせいでご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありません」
「なに、坂上さんのせいじゃありません。それに結果としてはめでたく発色したわけですし、女の子の命も救われたんですから」
「間一髪だったけれどねぇ」
拓郎の言葉に世津子が苦笑いを浮かべる。
「ごめんな、真山君。このまま一泊させて休ませてあげたいところだけど、今の君には魔力供給が必要なんだ。歩ける?」
「大丈夫です……僕の霊珠ってどこに?」
「ここよ。ポケットに入ってたの。はい、これ」
世津子が朔也に霊珠を手渡した。
「綺麗な黒ね。深いのに艶やかで鮮やかだわ」
「まさか、黒になるとはな。次はユニットを組むのが楽しみだな。頑張れよ、朔也」
改めて見る自分の霊珠はつい先ほどまで透明だったとは思えない、暗い月のない夜の色に染まっていた。
荷物をまとめ、病院の玄関に坂上が車を回していた。拓郎と世津子も見送りに出てきた。
「それでは、失礼します。真山君、行くよ」
「はい。父さん、母さん、また連絡する」
坂上が車を発進させた後も二人はずっと見送っていた。それから少し経つとまた朔也は眠気が襲ってきた。うとうとしている朔也をバックミラー越しに見て坂上が声をかける。
「眠いなら寝ちゃっていいよ、真山君」
「坂上さん、すみません。まだ眠くて……」
そう返事を言い切らないうちに朔也は再び眠りに落ちていった。
朔也が次に目覚めた時には御子神学園に着いていた。坂上の声で起こされた朔也はそのまま救護室に直行し、そこで連絡を受けた朝霧から治癒魔法をかけられることになった。
「玻璃の聖銃士が長時間蛟の攻撃を受け続けた上、発色して無駄に魔力を放出したら倒れるのは当然です。真山君、あなたがいくらすごい魔力量の持ち主でも、そんなことしてたら命がいくらあっても足りませんよ」
小さな朝霧教官が朔也の枕元で腰に手を当て朔也を叱咤した。すみませんと朔也はベッドで小さくなって謝った。
「しかも聖石銃を破壊したんですって?一体どれだけの魔力を使ったんですか?」
「いつもと同じようにしたつもりだったんですけど……」
「玻璃の聖銃士の聖石銃は模擬銃で発色した強い魔力には耐性がないんです。その分取り扱いやすく設計してあるんですけど……今晩は救護室で寝てしっかり休んでください。それではお大事に」
朔也は再び睡魔が襲ってきた。
(どうだ、力を得た気分は?)
「僕はあの子を助けたかっただけだ」
(今はそれで良い。いつも我はそばにいる。お前が望むなら力を貸そう。そして、いずれは我に――)
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