発色
蛟も異変に気付き飛び退く。
「お兄ちゃん、何にも見えないよ。何が起きてるの?」
それは数秒のことで闇が掻き消えると朔也の霊珠が漆黒に染まっていた。
「これが発色か……」
発色したショックで思わず、朔也は膝をつく。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「……・大丈夫だよ」
息も絶え絶えに朔也は女の子に微笑みかけた。本当は長時間の魔法の使用に加え、発色による大量の魔力放出のために魔力と体力がほとんど尽きかけていた。蛟が再び威嚇するように鳴き声を上げた。そしてその凶暴な口蓋を開く。朔也は防御魔法を発動させようと引き金を引いた。イメージを固めて力を放出すると、聖石銃が熱くなり、生きているかのように手の中で暴れまわった。朔也は思わず銃を取り落とすと銃は爆発しばらばらに飛び散った。そこには地面には散乱した銃の部品と黒く輝く霊珠だけが残った。
「お兄ちゃん……」
女の子が朔也に縋りつく。
「……ごめん」
ここまでかと朔也は膝を折れる。せめてこの女の子だけは守りたかったと抱きしめる。朔也が蛟に背を向けて女の子をかばい、襲い来る衝撃を待った。
「諦めるのは早いですよ、真山さん」
パリンというガラスの割れる音共に聞き覚えのある声が降ってきた。ドーム状になった吹き抜けから六人の人影が舞い降りる。背中に妖精のような羽根を付けて白いブレザーを着た聖銃士たちが蛟に向かって銃を放つ。驚く朔也たちの横に一人の聖銃士が降り立つ。
「墨村教官?」
ゴーグルで顔が隠れているがその印象的なツインテールが揺れている。
「よく耐えました。後はわたくしたちにお任せ下さい」
そういうとショットガンで蛟に一撃をくれた。さらにその傍に白いネクタイの聖銃士が防御魔法を発動する。
「野々村さん、このまま蛟に接近します。援護を頼みます」
「了解、姫さん!」
「野々村さん、いつも申していますが、『姫さん』はお止め下さい」
二人は蛟に向かって突撃していった。それに代わるように緑のリボンをした少女と黄色のネクタイの少年が降下し、防御魔法を朔也たちの前に張った。
「怪我はないね? 君は聖銃士?」
朔也が一つ頷くと、緑の聖銃士がばらばらになった聖石銃の残骸を見た。
「状況は分かった。霊珠を持って、その子と一緒に避難して。私たちが守るから」
朔也は霊珠を拾い上げると、気力を振り絞って女の子を抱えて出口に走り出した。
「前だけ見て、走って」
緑の聖銃士の言葉を背に朔也は破裂しそうな心臓と空っぽになりそうな肺を酷使しながらショッピングモールを走り抜けた。出口には警察官が禁止線を張り、心配そうな表情をした見物人で溢れている。
「真山さんだね。私は守護庁の者だ。その女の子はこちらで身柄を保護しよう。この先は結界が張られているので君は出ることができない。戦闘が終わるまで待機してくれ」
四十絡みの男性が呼吸の荒い朔也から女の子を抱き留めた。朔也はその場に崩れ落ちた。
「救護班、真山さんの容体の確認を」
朔也は意識が遠のく中で、女の子の声を聞いた。
「お兄ちゃん、ありがとう。花、絶対お兄ちゃんのこと忘れないから」
(そうか、花ちゃんっていうのか……)
朔也は意識が途切れる寸前、そう思いながら目を閉じた。
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