蛟との邂逅
水槽に群がっていた人々が我先にと逃げ出す。坂上と拓郎の対応は早かった。
「皆さん、落ち着いて。急いで避難してください」
坂上が声を上げると、拓郎は携帯で緊急通報用番号をプッシュする。
「守護庁の対策本部ですか? 最上区のショッピングモールに蛟が発生しました。ユニットの出動をお願いします」
世津子は朔也に尋ねた。
「朔也、聖石銃は持っている? 持っているなら出しておきなさい」
朔也は急いでショルダーバックから聖石銃を取り出した。
坂上と拓郎が避難指示を出して、従業員たちも来客者を誘導する。
その時朔也が水槽を見ると六歳ほどの女の子が腰を抜かして水槽から抜け出せずにいた。蛟は先程よりも巨大化したようで水槽の水が減っている。蛟がゆっくりと女の子の方へと歩み寄ろうとしていた。
朔也は二階から水槽に向かって飛び降りた。水飛沫が派手に上がり、朔也は膝で衝撃を殺した。そして蛟に向かって十発透明な弾丸を撃ち込んだ。蛟がよろめくように後方に吹き飛ぶ。
「大丈夫? 立てる?」
朔也がその間に女の子に声をかける。女の子は涙目で頭を振り、その足はがくがくと震えていた。攻撃された蛟は怒気を孕んだ目で朔也を見つめている。鋭い牙の生えそろった口を開けた。
(遠距離攻撃してくる……!)
蛟は体内にある器官でエネルギーを溜め、それを口から発射してくる。朔也は咄嗟に女の子の前に立ち、防御魔法を展開させた。明るい閃光が無色の壁にぶつかる。
(これが蛟の攻撃か。重たいが、教官の一発に比べればマシだ!)
「お兄さん、魔法使いなの……?」
「そうだよ。だから君を絶対守るよ。僕から離れないで」
朔也はできる限り優しい声で女の子に答えた。
数分間に及ぶ光線の攻撃はじりじりと重さが増していく。朔也は膝下まであった水がもう踝ほどのところまで水位が下がっていることに気が付いた。透明な壁の向こうで蛟のサイズが既に二メートルほどにまで達していた。その時蛟が奇声を上げた。弦を弾いたような何層にも響く低い鳴き声だった。
「何、これ? 怖い」
「蛟の発色だ……」
教科書に載っていた現象で、映像にも無く朔也も実際に見るのは初めてだった。蛟はぬらぬらとした灰色の体皮を脱ぎ捨て、真っ白な姿に変わった。その眼だけは赤く、朔也たちを見据えていた。朔也も女の子もその姿から目を離せずにいると、蛟は一歩踏み込み、再び口を開いた。朔也は慌てて防御魔法を発動させる。その攻撃は先程よりも何倍も強力で、視界が白い閃光で見えなくなる。朔也の壁に弾かれて、時折ちかちかと火花のような光が明滅する。その力に押されて数センチだが、朔也の足が後退する。
「頑張って、お兄ちゃん」
健気にも女の子が朔也の後ろで応援する。
(僕にもっと力があれば……この蛟を倒す力が欲しい……!)
そう強く願った瞬間、どくんと朔也の心臓が脈打った。
(力が欲しいか?)
そう耳元で誰かが、何かが囁く。目の前では白蛟が朔也たちを捕食しようと光線を送り続けている。
「……欲しい!」
朔也がそう応えた瞬間、辺りが暗闇に包まれた。
お読みいただきありがとうございます。
次回「発色」をどうぞよろしくお願いいたします。
今夜続き上げます。




