秋の特異日
訓練でさんざん飛ばされた後、夕食の献立表を見ると来週の土曜日は空欄になっていた。疑問に思って朔也が見ているとそこに双子が忍び寄っていた。
「そういえば、もうすぐ秋の特異日だな」
「そうだな、春からやっと半年経ったのか」
双子が嬉しそうな声を上げた。背後の急な歓声に驚いた朔也は振り返った。
「びっくりした……特異日って?」
「うむ。蛟が自然水から発生するのは朔也も知っているよな?」
うんと朔也がケンの方を見て頷いた。次にジョーが手を広げて解説した。
「つまりだ、春と秋のこの時期、長年の観測によると滅多に雨が降らない、晴れの特異日に当たるんだ。つまり蛟の発生件数はぐっと低くなる。そこで学園から外出許可が出るんだ」
「え、外出許可って、外に出られるってこと?」
そうだと双子は揃ってハイタッチをした。
「でも、学園中の聖銃士が外に出ちゃったら誰が蛟と戦うの?」
「何言ってんだよ、朔也。優秀な先輩ユニットが残ってくれるさ。これは無色組とユニット組んでない奴らに与えられた特別な休日なんだ」
「まぁ、もちろんコーディネーターの奴らが監視しているけどな。事前に予定の承認が必要になるし、家族以外の面会も無理だ」
「二人は前の特異日の時はどう過ごしたの?」
それを聞くと二人は顔を合わせて難しい顔をした。
「最初の春の特異日、俺たちはまだここに来たばっかりの時だったんだ」
「実家に戻るのも早過ぎたし、かといって友達にも会えないし、そこで片っ端から行きたいところを要望に出してみた」
「遊園地、巨大ショッピングモールで買い物、北の都青揄でホエールウォッチング、西の黄琥で食べ歩きエトセトラ、エトセトラ……」
「まぁ却下されたのもあったが、結果サッカー観戦に行ってきた。案内されたのがVIP席であれにはビビったな」
「ソファの座り心地とかすごかったな」
「今回はどうするの?」
「どうするかなぁ。俺はハングライダーとかやってみたいな」
「毎日、トンボで空飛んでるのに、今更空とか楽しくもないだろう。逆にスキューバダイビングとかどうだ? 蛟が出にくいんだし」
「それ、面白いかもな」
笑いあう双子の声を聞きながら、朔也はどうしようか考えていた。
(ホワイトフェザーのライブを見に行っても意味無いしな)
その夜、朔也の携帯端末に電話が入った。
「こんばんは、真山君。坂上だけど覚えている?」
「お久しぶりです、坂上さん」
「学園生活にも慣れた? 成績見たけど、優秀みたいだね。いや、コーディネーターとしては鼻が高いよ」
いや、僕なんて大したことはと朔也は口の中でぼそぼそと言った。幼少の頃から他人から褒められるという経験が少ないので、どう対応したらいいのかわからなくなる。
「今日、連絡したのは分かってると思うけど秋の特異日、どうしたいかっていう要望を聞こうと思ってね。真山君、何かしたいことある?」
「……あぁ、えっと、特には無くって。出来たら両親と会えたら良いなとは思うんですけど」
「ああ、そうなんだ。いや、無理難題を言ってくる聖銃士も多いから、ちょっと拍子抜けした」
カチッとした音がしてふぅと長い吐息が坂上から聞こえる。どうやら坂上も喫煙者であったらしい。
「了解。ただ実家だと誰に会うか分からないから、知り合いと接触する可能性の低い隣の区で会ってもらうことになるけどいいかな?」
はいと朔也は短に答えた。
「OK。それじゃあ、来週土曜日の時間と予定が決まったらメールするから。それじゃあおやすみ」
坂上が電話を切ると野沢が喫煙室に入ってきた。
「どうも、野沢課長。お疲れ様です」
「坂上くんもね。でも珍しいわね、残業はしない主義じゃなかった?」
「いや、秋の特異日が来るじゃないですか。ガキどもの無茶ぶりに振り回されてる新人や同僚の尻ぬぐいに追われてこの時間に」
「本当にこの時期コーディネーターは忙しくて仕方ないわね。それで担当の真山君はどうだって?」
野沢が電子タバコの電源を付けて一息吸った。
「いや、とりあえず両親に会いたいっていうだけなんで楽なもんですよ、他の奴らに比べたら」
「そうね。でも、あなたのことだからちゃんとデータ把握しているだろうけど、彼は貴重な存在よ。万が一が無いようにね」
わかってますよと坂上は灰皿で短くなったタバコの火を消した。
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次回「束の間の休日」をどうぞよろしくお願いいたします。




