警察病院
お読みいただきありがとうございます。
題名ちょっと改変しました。
次回「蘇生」をどうぞよろしくお願いいたします。
いよいよ、外に出て治癒魔法の訓練をする日がやってきた。魔力供給に関しては墨村から太鼓判を押された朔也だったが、実際に怪我を治せるかは自信が無かった。外に出れると喜ぶ双子は例外として、治癒魔法をいち早く会得した樺倉も、満遍なく成績上位である長谷部やみつきもナイーブになっていた。訓練生たちは私服でバスに乗り込み、都内の病院にやってきた。
「ここは?」
「都内の警察病院です……毎年お世話になっています。皆さんゴーグルを付けてください」
朝霧がそう言ってゴーグルを装着し、バスが裏口に停車した。朝霧を先頭に訓練生たちが降車する。
「こんにちは、朝長院長。今年もお世話になります」
「どうも、朝霧さん。お変わりないようで何よりです……患者はこちらのホールに集まっております」
「そうですか。それでは、皆さん部屋に行きましょう」
ホールには四十人ほどの患者がベッドに横たわっていたり、ベンチに座ったりしている。朝長と呼ばれた医師が訓練生に説明する。
「警察病院は職域病院として設立されましたが、今では一般病院として機能しています。しかし、ここにいるのは警察官または服役中の受刑者だけです。皆さんの機密保持のための措置ですので、ご安心ください」
「そういうことです。さあ、今まで勉強してきたことを発揮する時です。外傷の他に、病気の場合もありますが、要領は一緒です。炎症反応を鎮静化させることができることはもうわかっていますね?では、一人ずつ訓練を開始しましょう」
朝霧は入り口近くのベッドに横たわっている一人目の患者のそばに移動した。
「朝長院長、こちらの患者様の症状は?」
「職務中、逃走しようとした容疑者の車両の前に立ちはだかって、左大腿骨骨折」
朝霧に問われた朝長がカルテを読み上げる。
「わかりました。では鶴来さん、治癒魔法を」
緊張した面持ちのみつきが進み出てきた。アサルトライフルによく似た銃を怪我をした警察官に構える。銃口を向けられた患者側も手をぎゅっと握った。みつき一つ息を大きく吸うと、引き金に力を込めた。白い光が左足に吸い込まれていく。
「痛みはどうですか?」
朝霧が患者の警察官に具合を尋ねた。
「まだ少しありますが、随分良くなりました」
「鶴来さん、少し力が少なすぎましたね。前に授業で言ったように、魔力の受容性が低い一般人に対しては力を多めに付与しなければなりません。もう一度です。完治させてください」
みつきはゴーグル越しに患部を真っすぐと見据えて、引き金を引いた。先程よりも強い光を伴って左足が輝く。
「……温かい。痛みが消えていく」
患者は不思議な顔をして自らの脚を見つめている。
「痛みはありませんね?ではレントゲンを撮って確認してください……次に行きます」
訓練生は次々と患者を治療していった。その症状は様々だった。火傷、裂傷、銃創、靭帯断裂、盲腸など多様性を極めた。最後に、朔也の順番がやってきた。
「真山君、あなたには別に担当してもらいたい患者様がいらっしゃいます。皆さんはここでお待ちください」
朔也は朝霧と朝長に連れられて別室に向かった。
「逆に目立つので移動中はゴーグルを外しましょう」
病院の中には老若男女、様々な人々が行き交うのを見て朔也は新鮮に感じた。こんなありふれた日常からも長く離れていたことを実感した。
「真山君、こっちです」
そう言われて連れてこられたのはICUだった。
「先日、蛟に襲われて出血多量、裂傷、全身骨折の患者様です。真山君、あなたに彼を治癒することができますか?」
朔也は目の前の光景に茫然とした。隣の緊急治療室では医師と看護師が休みなく動き回り治療に当たっている。ガラスの向こうには無数の管に繋がれた男性が横たわっている。
「僕には……」
「やってもみないでできないと言うのですか?」
朔也の耳にはバイタルを告げる電子音が急かす様に響いてくる。動けずにいる朔也の元にスーツを着た刑事が近づいてきて頭を下げた。
「彼は最後まで民間人の避難を誘導していた警察官でした。真山さん、無茶を承知でお願いします。あいつを助けてやってください」
「真山君、止めてもいいのですよ」
朝霧は冷ややかな声をかける。




