みつきの発色
防御魔法はスムーズに会得した朔也だったが、治癒魔法はなかなか進歩しなかった。
「真山君は本当に不器用さんですね。あの魔力をここまでの精度で出力を小さくできるまでなったのですから、コントロールはできるでしょうに。銃口を人に向けるのがまだ怖いですか?」
軽くため息をつきながら、墨村は朔也の光弾を事も無げに弾いた。
「……すみません」
コントロールするのがやっとの朔也にとって、仲間に銃を向けるという行為は大きな精神的なハードルがあった。しゅんと項垂れて模擬銃を見つめたその時だった。
朔也のすぐ近くで一際強い白い光が輝いた。結界室にいる全員がその光源に目をやる。光が収まると、そこにはみつきが茫然として立っていた。その目は何も見えていないように虚空を見つめ、ぷつりと糸が切れたように崩れ落ちた。慌てて、朔也が駆け寄りその身を抱き留めた。朝霧も満月の傍にやってくる。そして、みつきの持つ模擬銃に目をやる。
「これは……発色ですね。鶴来満月さんはたった今、真珠の聖銃士になりました。真山君離れて下さい。魔力供給をします」
そう言って朝霧はみつきに白い光の塊を発射した。満月の身体が光に包まれると、満月が目を開けた。
「……私、何が?」
「鶴来満月さん、あなたは白に発色しました。今は休養が必要です。一端救護室に運びますので、休んでいてください」
「……私が発色? すみません、眠くてよくわからな、い……」
みつきは再び目を閉じた。
「誰か、担架を……いいえ、天地君たちは訓練を続けてください。五十嵐君と榎木君、救護室にお願いします」
指名されたのは前回喧嘩を仲裁した緑の聖銃士と榎木だった。
「あの、朝霧教官。私も付き添っていていいですか?」
「樺倉さんですか。いいでしょう。では三人よろしくお願いします」
みつきを連れて四人が出ていくと、朝霧は一つ小さな手をパンと叩いた。
「訓練中です。皆さんは訓練に集中してください。十分後、順に皆さんの様子を見に回りますのでそのつもりで」
朔也は抱き留めたみつきの身体の軽さと熱さを思い返していた。あれが発色なのかと間近で見た現象に驚いていた。
「真山君、訓練を再開しますよ」
墨村の声で朔也は現実に引き戻された。
(みつきは大丈夫なのだろうか……)
銃を墨村に向けながら朔也の頭の中には倒れこむみつきの姿があった。彼女を助けたい、そう思いながらトリガーを引いた。引き金は軽く、ふわりとした光の帯が銃口から現れる。光は墨村が展開していた盾にすっと吸い込まれていった。
「出来ましたね。今の感覚を忘れないようにしてください」
「僕、自分でもどうやってやったか、わからないんですけど」
墨村はくすりと口元に手を添えて笑った。
「仲間の危機に際して、出来るようになるなんて真山君らしいですね。治癒魔法は誰かを救いたいという気持ちを根本に持たなければなりません。さて、今度は防御魔法を使いませんので、それで撃って来て下さい」
防御魔法なしの丸腰の墨村に銃を向けるのに朔也は動揺した。しかし、先程の発砲を思い返した。
(そうだ、守りたい、救いたい……そう思うだけで良いんだ)
朔也は穏やかな気持ちで引き金に力を込めた。ボンっという大きな音を立てて、墨村の身体は虹色に輝いた。
「……ずっと見てきたので、理解しているつもりでしたが、まさかこれほどとは。すごい魔力の供給量です。わたくしのキャパシティーでも若干余るほどですね」
光は墨村の身体にどんどんと吸い込まれていった。残った光のかけらが周りを舞い散る。
「真山君、銃はあくまで蛟を倒す道具ですが、きちんと用いれば違う使い方もできるようになるのです。それが魔法の神髄です。今日は鶴来さんに良い機会を与えてもらいましたね」
その後朝霧からもようやく合格を貰うことができた。
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次回「聖石の神様」をどうぞよろしくお願いいたします。




