治癒魔法訓練開始
一週間が経ち、いよいよ新たな魔法の訓練が始まった。まず治癒魔法では朝霧が教官として結界室にやってきた。初対面の者はその小さな姿を見て驚いていた。
「こんにちは、皆さん。教官の朝霧です。今日から皆さんに治癒魔法を教えていきたいと思いますのでよろしく」
日本人形のように幼いながら整った顔には何の感情も浮かんでいない。
「先に注意しておく点は、治癒魔法と防御魔法は今までと違って器物ではなく人間相手に発砲することが前提になります。その点を重々心得ていてください。まかり間違って攻撃魔法を使ったとき、一体どうなるか。ご想像にお任せします」
朝霧はそこで一拍置いて自分の言葉が効果をもたらしたか確認してから続けた。
「治癒魔法、それは人の命を助け、自らの命を救う魔法です。しかし、万能ではありません。四肢や内臓を欠損した場合、それを復活させることはできません。死亡した人間を蘇生することもできません。通常の人体に使っても聖銃士に使うほど強力な効果は得られません。これは聖銃士の身体が強靭なことと魔法への親和性が重要になってきます。最も親和性の高い魔法が玻璃、真珠、青玉、黄玉、緑玉、赤玉、黒真珠になります。それでは先輩聖銃士の方々にご登場いただきましょう。最初はペアになって訓練を行ってもらいます」
ぞろぞろと発色した聖銃士たちが結界室に入室した。
「真山君」
いつの間にか朔也の横に墨村がいた。
「墨村教官! 教官がペアになってくれるんですか?」
「ええ、真山君の場合少々特殊ですので。わたくし、吸収と防御魔法が得意分野でして、朝霧教官たってのご指名で馳せ参じた次第です」
墨村はにこりと微笑んだ。
「それより、朝霧教官による実演と解説が始まりますよ」
朔也は慌てて視線を前方に戻した。
「まず治したい個所をしっかり把握します。ある程度の医学の勉強が必要になりますが、骨折、極度の火傷、靭帯断裂など見極めます。それから供給したいレベルの魔力量を調整して、放ちます」
朝霧のリボルバーがぱんっと軽い音を立てて、対象になった学生、広田が白い光に包まれる。
「今は漠然と『魔力を供給する』という目的で放ちました。気分はどうですか?」
「なんだか身体が温かくて、疲れが癒されました……」
広田が不思議そうに朝霧を見つめている。
「このように、治癒魔法の基本は魔力供給にあります。ユニットを組んだ時、魔力が尽きそうな仲間へ魔力を付与することによって回復させることができます……では、まずは最小の魔力を相手に供給してください」
朝霧の指示により、それぞれのペアとともに部屋の各所に散っていく。
「さあ、始めましょうか。遠慮は要りません。撃って来て下さい」
墨村がショットガンを構える。朔也も銃を構えるが引き金を引く勇気が出ない。
(人に向けて撃つなんて……)
「真山君だったら躊躇するでしょうね。でもそれはわたくしへの不信、軽視に当たります。いくら魔力量が多量だからと言ってわたくしが発色もしていない貴方に後れを取ると思いますか? 何より、貴方の努力を間近で見てきたわたくしが貴方の能力を信じていないとでも? 理解できたなら撃ちなさい」
朔也は一つ呼吸を置いて再び銃を構えた。ゆっくりと力を練っていく。針のイメージで銃に力を流す。息を吸い、朔也は発砲した。その魔弾は墨村の前の黒い壁の前に儚く消えた。
「出力をよくここまで落とせるようになりました。しかし、今のは通常の光弾です。いいですか、仲間に力を与えるのですよ。花に水を注ぐように、柔らかく、ゆっくりとしたイメージを持つことです」
「墨村教官、今の黒い壁が防御魔法ですか?」
そうですと墨村がトリガーを無造作に引いた。
「間もなく教わるでしょうが、変色訓練と同じように長時間トリガーを引き続け、魔力による盾を形成します。さて、訓練を続けましょう」
それから、朔也は数十回繰り返したが、全て盾に弾かれて終わった。その時、後方で朝霧の声がした。
「樺倉さん、魔力供給に関しては完璧です。次は治癒魔法に移ります。魔力を患部に集中させて、放出させてください」
樺倉はすぅっと息を吸うと、朝霧の示した一点に虹色の輝きが吸い込まれていった。
「良いでしょう。現時点ではこれ以上の訓練は無理ですので帰ってもらって構いません」
「え、もう少し練習したいんですけど……」
「それならご自由に」
朔也が見ていたことに気付いた樺倉が小さく手を振った。その表情はほんの少し得意げだった。
「真山君、訓練中ですよ」
すみませんと謝って、再び意識を集中させた。それから一時間何十発撃っても、魔力供給の形にならなかった。
「ありがとうございました……」
「治癒魔法、魔力供給は器物への供給の応用ですよ。真山君、今のままではわたくしレベル以上の相手以外では引き金を引くこともできない状態です。そろそろ覚悟なさい、人の命を扱うということを」
墨村はそう言うとヒールの音を立てて部屋を去っていった。
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次回「喧嘩と仲裁」をどうぞよろしくお願いいたします。




