カミングアウト
「気のせいじゃないか。朔也ってよくいる顔しているし」
「そうだよ、沢山人に会う仕事してたんだったら、似た人もいたんじゃないかな」
「えっ」
ケンの失言にみつきがパスタを丸めていた手を止めた。
「何故私がアイドルしていたことをご存知なのですか? 真山君、もしかしてライブにいらしたことがあります?」
ケンが天を仰ぎ、ジョーがその肩を殴った。
「……うん。何回かライブに行かせてもらった」
これまでかと朔也は観念して答えた。みつきは驚いた顔をして、ふっと笑った。そして眼鏡をはずし、三つ編みを解いた。柔らかな白金色の髪はさらさらと流れ落ち、大きな瞳が露わになり、ステージに立っていたみつきの姿へと変わる。その変わりように双子も口をぽかんと開ける。
「そうでしたか。はぁ、まさか知っている人がいるとは想定外でした。この件はお恥ずかしいので内密にお願いします」
「いや、実はちょっと別人かなと疑ってたんだけど、本物だったんだ」
「眼鏡と髪型変えるだけでめちゃくちゃ変わるな」
双子が口々に評す。樺倉はその様子を笑って見守っていた。白いみつきの頬がわずかに紅が差している。
「その節は応援して頂き、ありがとうございました。これからはクラスメイトとしてよろしくお願いします」
その雰囲気に流されたのか、テーブルを囲む三人は拍手を送った。
「いや、なんだかめでたいね」
「雨降って地固まるっていうか」
双子が笑って場を立て直した。
「みつきちゃん、アイドルだったんだ。道理で。都会の子は可愛いなと思ってたけど、特別だったんだね」
樺倉の言葉にみつきはとんでもないという顔で手を振った。
「特別だなんてそんなことはありません。メジャーデビューもしていない地下アイドルですよ」
「今度、曲聞かせてくれる?」
「こっそりとなら。これでもアイドルとして、ファンの前では無理をしていましたので、幻滅しましたか?」
みつきはそっと朔也の顔を覗き込んだ。みつきの視線に朔也は動揺する。
「いや、全く、幻滅なんてとんでもない! それでホワイトフェザーはあの後どうなったの?」
朔也がずっと知りたかったことを尋ねた。
「私は卒業って形で活動は続けていると聞きます。メンバーにも聖銃士になったことをお伝えできていないのですが」
「ああ、俺たちも学校の友達とかに言ってない。これから同級会とかあったとしても行けないし、そこは辛いよな」
「そうだな。サッカー部も大会前に抜けてきちゃったし。あっちの世界に未練はあるよな」
しんみりとした空気がテーブルに流れる。その中で樺倉がアイスティーをストローでかき混ぜながらぽつんと言った。
「でもあたしやりたいこととか無かったし、得意なこともなかったけど、ここにいればいつか誰かを助けることができるって思えたら……嬉しかった」
「僕もそう」
朔也も小さく同意した。得意なことも友達もいなかった朔也にとっていつの間にか聖銃士になったことは大きな意味を持っていた。
「そうだな。俺たちは聖銃士なんだ。この飯代以上には借りを返してやろうぜ」
「この大陸に出る蛟を全部俺たちが駆逐してやろうぜ」
五人は各々のコップを合わせて乾杯をした。
「まぁ、これからもさ、たまに良かったらこうやって飯食おうぜ」
「そうだね、今日は楽しかった」
皿を片しながら、ジョーの言葉に樺倉が嬉しそうに賛同した。
五人は歓談しながら食堂を出ると外はもう日が落ちて真っ暗だった。
「もうずいぶん遅い時間ですね」
みつきが左手の携帯端末に目をやり、時間を確認した。
「でも、今日は新月だから星月夜で、空が綺麗」
樺倉の声で五人は揃って空を見上げた。
「真由ちゃん、星好きなの?」
うんと樺倉が頷いた。
「うち、田舎の方にあるから小さい頃から天体観測してたんだ……魔法風邪に罹ったのもこんな月の無い夜だったな」
朔也も不意に思い出した。
(確か、ライブからの帰り道に月が微かにしか見えなかった……)
星が煌めく夜空を見上げながら朔也はふと疑問に思った。
(月って……確か遠野が言ってたことと関係あるのか?)
朔也は空を見て考え込んだ。その横顔をみつきはじっと見つめていた。物思いに沈む朔也には双子と樺倉の話し声は聞こえていないようだった。夜風が渡り廊下を吹き抜けた。
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