飛躍する少年
「しっかし、朔也の魔力量って本当に多いんだな」
ある日、コロッケを食べながらケンがしみじみと言った。
「本当に。普通、あんなに魔力使ってたら毎回朝霧教官の世話になってるぜ」
肉うどんを啜りながらジョーも同意した。
「こないだは速度出し過ぎてフェンスに当たって、朝霧教官の世話になったけど」
二人は思い出してどっと笑った。
「あれな。高速道路でも切符切られるくらいのスピードだったぜ」
「止まれなくてぶつかったんだよな」
そのまま地面に落ちて、骨にひびが入ったので朝霧教官に治癒魔法をかけてもらったのだ。
「話は変わるけどさ、そろそろ治癒魔法と防御魔法をやるらしいぞ」
「マジか。全員でか?」
「いや、色付きも含めて射撃、変色、飛行でそれなりの成績を修めてる学生が対象らしい」
「僕も履修できるのかな?」
双子が不安そうな朔也を笑い飛ばした。
「何言ってるんだよ、今や長谷部を抜いて朔也がトップなんだぞ」
「出れないわけないじゃないか」
「いや、力がまだ上手く調整できないから、飛行訓練もストレートは良いけど複雑なコースだと遅れちゃって」
「ああ、あれは運動神経とか動体視力とかの問題だな」
「ケンとジョーがあのジグザグのコース速いのはどうして?」
ネギトロ丼の味噌汁を啜りながら朔也は尋ねた。
「サッカーやってたせいかな。ジグザグドリブルの要領に似てる」
「わかる。朔也もそのうち慣れるって。それかトレーニングルームを利用してみたらどうだ?」
「えっ、筋トレは効果ないって言ってたじゃないか」
「体幹トレーニングやバランス感覚なら今からでも遅くないって。今日はフットサル無いし、一緒に付き合ってやるよ」
その夜から双子による体幹トレーニングが始まった。ストレッチから始まり、バランスボールやスラックライン、トランポリンなど様々な器具を使って体幹とバランス感覚を養った。双子は元来運動神経が良かったので、どの器具を用いてもまるで重力などないかのように振舞った。何より全ての訓練を本当に楽しそうにやるので、朔也も体力面に目をつぶれば楽しくトレーニングできた。効果はゆっくりだが、確かにあったようだった。無意識に手足でとっていたバランスを身体の重心を意識することで随分安定してきた。コーナリングの時の遠心力にも耐えられるようになった。
「最近の真山君は以前とは違いますね」
地上に降りてきた時、声をかけてきたのはみつきだった。長い白金の髪をお団子にまとめて、いつもより活発な印象を与えている。
「み、鶴来さん。僕なんて大したことないよ……」
「それは謙遜というより卑屈に感じます。では」
冷淡なみつきの物言いにもかかわらず、朔也はぼぉっとしたまま、その後ろ姿に手を振った。
「見ちゃった。真山君、みつきちゃんのこと好きなの?」
ひょっこりと樺倉が背後から現れた。
「いや、そんな、好きとかじゃなくて、ただ、憧れてて……」
「みつきちゃん、可愛いもんね。大丈夫、内緒にしておくから」
そう言って笑うと樺倉の白い八重歯がチラリと見えた。
「それより、樺倉の調子はどう?」
「うん、前よりは上手く飛べるようになってきた。では、もう一回頑張って飛んできます」
無邪気な微笑みを残して、助走をつけて樺倉は空に飛び立った。その言葉通り、前よりも随分安定した飛行が出来ているようだった。青空に白い制服を着た学生たちが自由に空を飛んでいる。朔也も軽く駆けて空へと舞いあがった。
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