↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法銃士の少年は美少女アイドルとともに竜の歌の夢を見る  作者: 三ツ矢 鼎
第一部 魔法学園編
22/88

蛟の生態

 個人練習がひと月を過ぎるころ、外部講師による講義が開かれることになった。ユニットを組んでいる色付きは自由参加、あとの者は聴講するよう指示された。


「『蛟の生態、その危険性』だって。なんかめんどくさそうだな」

「都大教授か。外でも最高学府で研究したりしてたのか」


双子が口々に掲示板に張られたチラシを見て評した。


「そういえば、僕、蛟って見たことないな」


朔也がぽつりと口に出すと双子が驚いた顔をして朔也の方を振り返った。


「ええ!? 自分がこれから戦う相手も知らずにずっと訓練してたのか?」

「朔也は戦闘動画見たことないって言ってたしな……座学も後半に入らないと蛟に関してやらないし、写真は載ってないもんな」


 双子は揃って軽い溜息をついた。


「いいか、朔也。最初はビビるかもしれないけど、気持ちを強く持てよ」

「俺たちの魔法は蛟に有効なんだから、勇気を持て」


 双子の激励に対して、朔也は弱々しくわかったと答えるしかなかった。


 講義堂には五十人ほどの学生で埋め尽くされた。朔也たちが来た頃には講堂は発色した先輩魔法使いが既に席についていた。四人も後方の真ん中か辺りに何とか並んで座った。

 間もなく講堂に一人の長髪でぼさぼさ髪の無精髭の男が出てきた。講堂はプロジェクターのために電気が消され、薄暗い中で白衣を着た男だけが光を浴びている。


「今日話をする沼津だ。では、早速講義に入らせてもらう。初歩的なことだが、蛟は以下のような特徴を持っている」


 見た目の歳よりもしわがれた声で挨拶した。横のスクリーンに蛟の特徴が列挙される。


「蛟の体長はおよそ三メートルから十メートル。四足歩行で皮膜に覆われた翼を持ち、時として飛行する。首が長く、飛蝗に両手足にはかぎ爪を持ち、口には鋭い牙が存在する。全身は鋼鉄に勝る強固な鱗に覆われており、基本的に人造兵器では損害を与えることができない」


(基本的に?)


 朔也が疑問に思った瞬間、前の方で手が挙がっているのが見えた。


「何か質問が?」

「蛟には魔法以外に損傷を与えられることができないと学んできました。基本的にとは例外があるということですか?」


 セリフを読むような滑らかさで男子学生が質問をした。


「ああ。その事か。お前たちも人工玉を使ったことがあるだろう。魔力を供給した例の玉を砲丸として発射する兵器が試験的に作られている。既に聖石銃や飛行器具など魔力を原動力とする機械は存在している。西大陸から導入された技術を用いた魔法機械学は日夜進歩を続けている……では講義を続ける」


 沼津は手の中のスイッチを押してスライドを切り替えた。ヒッとそこかしこで悲鳴が上がった。朔也も思わず、口を押えた。


「蛟は水を好み、多くの場合において水がある場所で発見される。そして、人間を襲い、血を吸う」


 スクリーンの中には蛟が女性の首をもぎ、そこから血を啜っていた。世にも醜い怪物によるグロテスクな映像によって女子学生が過呼吸に陥っていた。そこに雨森が来て、女子学生を連れ出した。雨森に抱きかかえられるように出ていくとき、仄かな明かりによって見えたのは樺倉の姿だった。


「残酷だと思うか? しかし、これが現実だ。蛟は明確な意思を持って人間を襲う。老若男女問わず、飢えたようにひたすら死ぬまで血を飲み続ける。そして奴らを殺すために、お前たちがいる」


 更に画面を変えた。次は白いブレザーを着た六人の学生が蛟に向かって銃を向けていた。


「お前たち聖銃士も六色に振り分けられるように、蛟も六色いる。各色攻撃は可能だが、最終的に致命傷を与えられるのは対になる色の魔法だけだ。蛟を殺すにはその額にある核を壊さなければならない。赤の蛟には青の魔法、その逆、緑の蛟には黄の魔法、その逆、白の蛟には黒の魔法、その逆。魔法の原理かなんかは専門の研究者に聞いてくれ」


 羽根を付け、銃を構えた六人の聖銃士が蛟を少しずつ追い詰めていく。ゴーグルに阻まれ、その表情も顔も定かではない。魔法という弾丸をその身に受け続け、とうとう蛟が動かなくなった。そこに赤のリボンをつけた女子学生が蛟を踏みつけてその額に銃を向けた。ぱりんという軽い音を立てて、蛟の核が割れた。


「蛟はこの国であれば出現する。逆に言うと西大陸で現れたという事例は今までにない。何故、蛟が発生するのかそれもまだ謎だ。雨の日や川、湧き水などの淡水である自然水が豊富な水辺での発生が多いため、この国の水質と関係している。東大陸の自然水に含まれる竜鉱と呼ばれているこのミネラル分は西大陸の水には存在しない。霊珠もこの竜鉱で出来ている。この成分が最も濃度が高い液体、それが人間の血液だ。そのため、人間を積極的に襲うと考えられる……これは蛟の発生した様子を記録した防犯カメラだ」


 それは屋内プールのレジャーランドの様子だった。ウォータースライダーや流れるプールに浮き輪で漂う子供たち。平和な光景だった。


「これが有名な『冴島の悲劇』だ」


 どこにでもある日常の中で、人々は思い思いに泳いでいた。変化は突然だった。丁度プールの中心から大きな爬虫類のような姿をした蛟が現れた。無音状態だったが、画面から悲鳴が聞こえてくるようだった。蛟は無造作に近くを泳いでいた男性を切り裂き、その血を啜った。零れた血でプールが赤く染まる。生まれたばかりの蛟は手当たり次第にどんどん利用者たちを殺していく。飲み終えた空き缶をその辺に投げ捨てるかのような気軽さで命が一つずつ消えていく。赤い紅いプールの中で蛟はどんどん巨大になっていく。


「この事件で三十人以上の死傷者が出た。生存者からの証言からすると最初は虫のような生き物が漂っているように見えたらしい。気味が悪くてプールから出たところで、気が付くと巨大化した蛟が現れたと言っていた……このことからわかるように虫のサイズで蛟は発生し、水を吸収することで急速に成長する。人間の血を飲めば飲むほど強靭な体を構築していく。この時は三つのユニットが投入されて、魔法使い側にも死者が出た。討伐された蛟のサイズは十メートルに達し、現場となったレジャーランド一帯は壊滅状態になった」


 ぷかぷかと子供たちが死んだ魚のようにプールに浮かんでいる。朔也は漠然としていた嫌悪感、恐れ、憤りがやっと実感となっていくのを感じた。


(残酷で、無残だ……許せない)


「本来ならお前たちみたいな子供に課すには重たい使命なのだろうが、そんな道徳くそくらえだ。国が何でお前たちをここまで手厚く遇しているかわかるだろう? お前たちしかいないんだ。こんな形で失われていい命などないんだ。理解しろ、そして戦え」


お読みいただきありがとうございます。


次回「進歩と発色」をどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。