ゴスロリ教官と個人練習
翌週から雨森が組んだ特別カリキュラムが始まった。
「一人で訓練するのは危険だから教官に付き添ってもらう。墨村教官お願いします」
「かしこまりました。よろしくお願いします、真山君」
墨村はスカートをつまんで片足を下げて、まるで貴族のような西洋風のお辞儀をした。
「よろしくお願いします、墨村教官」
「わたくしも教官ですが、戦士としても戦場に立っています。ですので、射撃も飛行も一通り嗜んでおります。何なりとお聞きください」
この高いヒールでゴスロリ風に改造した制服を着て、蛟と戦っているとは朔也には想像がつかなかった。
「そうだったんですか。お忙しいところお時間割いてもらってすみません」
「構いません。時間外労働にもちゃんとお給金が支給される仕組みになってますから」
墨村は人差し指を軽く口に当てて、コロコロと笑った。
「それに、真山さんにはわたくしも興味がありますから」
墨村の作り物の青い目が朔也の目を覗き込んだ。その眼には生気がなく、空虚な人形の様な色をしていた。
「久方ぶりの三重リミッターの持ち主。長の言う通りであれば、慎重に見極めなければならないのです」
朔也から視線を外すと、にっこりと微笑みながら墨村は言った。
「それでは今日の訓練を開始しましょう」
それから朔也は授業が終わると墨村から個人レッスンを受けることになった。時々、墨村が戦闘に呼び出されるらしく、キャンセルされることもあった。そんな次の日でも墨村はその真っ白な肌に傷一つ無く丁寧に朔也の訓練に付き合ってくれた。
「んー、なかなか進歩しませんね。極度の緊張からくる想像力の欠如が原因だと思うのですが、これだけ練習しても変化がありませんし。イメージすることは大切ですよ、この通り」
墨村はショットガンを片手で持ち、無造作に標的に当てた。すると右胸の位置にハート型の穴が開いていた。
「逆にこれだけ練習しても、魔力切れを起こさないことには感服しますが。真山君は普段から空想したり、シミュレーションしたりすることが苦手ですか?」
「……小学生のころ、上級生が犬に向かってエアガンで撃って遊んでいたんです」
「それはひどい話ですね。それで真山さんはどうしたのですか?」
「馬鹿だった僕は何も考えず、犬の前に立ちました。それから滅茶苦茶に身体中エアガンで撃たれました。その時思ったんです。撃たれるってこんなに怖いんだって」
なるほどと墨村はショットガンを持っていない左手で頬に手を当てて考え込んだ。
「それが射撃への嫌悪感の原因ですか……なかなか厄介ですね。その上で聞きますが、蛟との戦闘が怖いのですか?」
ぎくりと朔也は身を固くした。
「……墨村教官は怖くないんですか?」
「怖くありませんよ、わたくしにはいと気高き聖女様の加護を受けているのですから」
そう真顔でのたまったので、朔也は反応に困っていると、くすりと墨村は笑った。
「冗談です。わたくしもこれでも十年以上戦闘を行ってきました……その中で蛟によって無為に民人と仲間の命が散らされたこともありました。最初の戦闘のことです。わたくしはただ立ち尽くして動けなくなってしまいました。けれど、その時思ったのです、こんなこと許せないと。許してはならないと。真山さんにとってのあの日の犬のように理不尽に蹂躙されていいものではないと思いました」
墨村は胸に銃を抱えた。ゴスロリ姿には似つかない武骨なショットガンをぎゅっと抱きしめた。
「真山さん、覚悟を決めなさい。その甘さがその瞬間が来た時、貴方にとって致命的なものになる前に……今日の訓練はこれで終わりにしましょう」
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次回「蛟の生態」をどうぞよろしくお願いいたします。




