訓練開始
四人は校舎のはずれにある射撃場へとやってきた。刑事モノで見る射撃場というよりはクレー射撃など屋外で行う形式らしい。
「射撃訓練担当の鷹山だ。蛟と戦う上で射撃の精度、威力は重要なものになる。また一般人へ危害が及ぶようでは戦士としては言語道断だ。国民と仲間を守り、蛟のみを駆除する。一歩間違えれば命にかかわる訓練だと肝に銘じておけ」
鷹山と名乗った教師は三十代前半の女性だった。黒いタンクトップ姿で筋肉質な腕が伸び、胸元は大きく隆起している。黒髪を後ろで無造作に縛り、キリリとした目元と赤いルージュが印象的だった。
「新入生、真山と鶴来だったな。手ほどきをしてやる。ほかの者は立ち打ち百発、終わったものは膝打ち百発、伏せ打ち百発」
号令がかかると皆ゴーグルをかけ、銃を構えた。銃声が鳴るかと身構えたが、シュンと風を切る軽い音がしただけで、人型の的に穴が開いていく。
「魔力を動力源にしているから、発破音はしない。的はああ見えて戦車の装甲に用いられている素材でできている。玻璃の聖銃士でもあの程度の装甲は簡単に貫通できる。ゴーグルは硝煙が飛散することはないが、実際の戦闘の時サングラスと暗視ゴーグル、それに顔面の露出を防ぐ目的で使用されるので、現段階から着けて行う……お前たちのものだ」
そう言って新品のゴーグルを手渡された。
「ズームも利く上に、サーモグラフィー機能もある。それでは、射撃訓練に入る……長谷部、こちらに来い」
ゴーグルを付けた長谷部が射撃をやめて、こちらに来た。
「立ち射撃の見本を見せろ。まず、照準を標的に絞る。これをエイミングという。次に威力を意識する……長谷部、貫通しない程度で一度射撃しろ」
長谷部は無言で的を射った。風切り音の後、的の中心にかすかに傷が残るが、穴は開いていない。
「精度と威力は自身の魔力と制御によって決まる。玻璃の聖銃士に求められるのは正確な射撃能力だ。長谷部、同じ個所を今度は貫通させろ」
長谷部は全く同じ動作で射撃を行った。ぱすっという軽い音で的が射抜かれた。ズームして見ると直径一センチ位の穴が開いている。
「よし、いいぞ。長谷部、自分の訓練に戻れ。重要なのは精神の制御だ。最初は正確に標的を射る訓練からだ。霊珠の横にノズルがあるだろう。それを最小にしろ。霊珠から供給される魔力が最低になる。訓練をすればノズルを使用しなくても威力の調整は可能になる」
それから鷹山は射撃姿勢を説明した。基本となる二つの構え、アイソセレススタンスとウィーバースタンスがある。それぞれのメリットとデメリットを通常の拳銃で実践してみせたあと、朔也たちも実際に撃ってみることになった。
「照準もゴーグルがある程度サポートしてくれる。まずは当てる練習だ」
そう言われても銃を握るという事態に緊張して、トリガーにかかる指が震える。その時、横でみつきが初めての射撃で的をかすめた。
「悪くない。鶴来、その調子で続けろ」
はいとみつきが返事をする。
その横で朔也は焦っていた。その脳裏には小学校のころの思い出が去来していた。
エアガンを持った高学年の児童が板に野良犬を縛り付けて的にして遊んでいたのだ。エアガンが音を立てる度、野良犬はキャンと痛々しい鳴き声を上げていた。それを彼らは面白そうに見ていた。小さく弱い朔也はその光景を前にしても無力だった。
そして今、朔也はこうして銃を握っている。
みつきが数発発砲した後も銃を構えたまま動けず、背中と手にじっとりと汗をかいていく。
「真山、いい加減撃て」
鷹山が朔也に声をかける。朔也はその声で更に手に力を込める。そして意を決して的に意識を集中した。
(当てるだけ……当てるだけだ)
朔也の人差し指が引き金を引いた。その瞬間、ドンっという後ろに突き飛ばされるような反動により朔也は吹っ飛んだ。
「大丈夫か、真山?! 怪我をした者はいるか?」
「……大丈夫です」
朔也が身を起こすと人型の的は上半分が無くなっていた。
「ノズルの調整をしなかったのか? ……いや、ノズルは最小になっているな。体調はどうだ? どこかおかしいところはないか?」
「いえ、平気です」
立ち上がろうとする朔也を鷹山が手で制した。
「急な魔力の消費で疲労しているはずだ。朝霧教官の元に運んでもらう」
「鷹山先生、担架持ってきました」
ケンとジョーが担架を持って駆け寄ってきた。
「天地兄弟か。私もついて朝霧教官のところに行く。他の者も本日の訓練は中止だ。寮にて待機しろ」
朔也は担架に乗せられる時、みつきと目が合った。心配そうなみつきに対して、いきなり失態を演じてしまった自分が恥ずかしかった。顔を見られないように腕で隠しながら射撃場を後にした。
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