授与式
そこに六人の学生と雨森が立っていた。
「真山、鶴来、迷わず来れたみたいだね」
「これから何があるのですか?」
みつきの声が広い講堂の中で響いた。
「銃の授与式だよ。ここにいるのは各色の長だ。銃の授与式の時にはこうして見守ってもらう慣習になっている」
朔也がぐるりと行動を見渡した。六人はそれぞれブレザーにフード付きのローブを着ていてうす暗いホールの中では顔は良く見えない。それぞれが目の前の霊珠よりも一回り大きい珠の前に手をかざしている。
「「「「「「太古の昔、六匹の竜がこの地に棲んでいた。竜たちは彼方から遣わされし聖女の前に地に伏した。竜の血は不毛の大地を潤し、竜の肉は緑の苗床となった。肥沃となりしこの地に聖女が成した王国より五百余年。蛟なる化物が現る。我ら聖銃士、聖女の加護を得てこの地を護らん」」」」」」
それはこの国に伝わる伝説だった。強大な六匹の竜が治めていたこの地を聖女がたった一人で竜と戦い、勝ち取った。そして今、聖女によって建国されたといわれる二千年に及ぶ王国が瓦解して五百年。この国土には、今も王国と竜の遺跡が眠っている。講堂の中に、六人の唱和する声が反響し木霊した。
赤いローブを目深に着た男子学生がまず声を上げた。赤い珠に光が灯る。
「炎を崇めよ。炎によって全ての邪気を焼き払う」
続いて青いローブを着た女学生が静かに紡ぐ。青い珠に光が灯る。
「水を尚べよ。水によって全ての罪を清めて濯ぐ」
時計回りに黄色のローブの男子学生が朗々と語る。黄色の球に光が灯る。
「地を敬えよ。地によって全ての物を土に帰す」
緑のローブを着た女子学生がそれに続く。緑の球に光が灯る
「風を称えよ。風によって全ての塵芥が空に舞う」
更に白いローブの女子学生がよく通る声で唱える。白い珠に光が灯る。
「光を尊べよ。光によって全ての悪を浄化する」
最後に黒いローブの学生が囁くように詠唱した。黒い珠が闇に染まる。
「闇を畏れよ。闇によって全ての命を抱いて眠る」
暫時の沈黙がホールに降りる。
「さあ、テーブルの上にある銃を手にしなさい。それは聖石銃『玉響』だ。そして、穴の開いているところに霊珠を入れるんだ」
テーブルの上にある銃は黒光りした拳銃に似た割合小さなものだった。弾倉を込める部分にぽっかりと穴が開いている。朔也とみつきはそれぞれベルトを着け、銃を手に取った。材質は金属のようだが妙に軽い。それから霊珠をはめ込んだ。
すると、反応は劇的だった。手の中で銃が震え、手の中で一瞬強く発光し熱を帯びた。驚きのあまり、咄嗟に手放そうとしたが、不思議なことに銃と身体が一体化しているかのうように銃は手の中に収まっていた。
一連の現象が静まると雨森と六人の長たちがぱらぱらと拍手をした。
「おめでとう。これで正式に君たちは、この御子神学園へと入学したということになる。学園長に代わって祝辞を述べさせてもらうよ。修練に励み、蛟を打倒する、強き戦士に成長してくれることを切に願う……授与式は以上だ。玻璃の聖銃士たちのクラスに案内するからついておいで」
雨森は二人を連れて講堂を出ていった。朔也は背中に痛いほどの視線を受けているのを感じた。六人の長たちは無言で朔也とみつきを見つめていた。
「緊張したかい?」
道中、雨森が二人に尋ねた。
「銃を持った時に不思議な感覚がしました。まるで自分の身体が延長されたかのような。なんとも形容しがたい感覚です」
みつきがガンベルトに収まっている銃をしげしげと眺めた。
「俺の時もそうだったよ。霊珠が収まった時、銃に血が巡っていくような、銃が生き物になったような……こればっかりは体験してみないとわからないね」
「あの……この学園にも学園長はいるんですか?」
「いるよ。基本的な指針は理事会で決められているけれど、最終決定権は学園長にある。故に学園長は存在している……と言われている」
雨森の言葉が急に歯切れが悪くなる。
「なんでそんな曖昧なんですか?」
「誰も見たことがないからだな」
「会ったことどころか、見たこともないんですか?」
そうだと雨森が頷いた。
「理事総会では時折神の宣託のように言葉だけが響いてくるという噂は聞いたことがある。だが、誰もその姿を見たことがない……真山、この学園にはこんな理不尽な不思議は山ほどある。こんな些細なことまで気にしてたら身が持たないぞ」
そう言って雨森は朔也の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「あの六人って長っておっしゃるのですか? あの方たちはなぜ授与式にいたのですか?」
今度はみつきが雨森に質問した。
「初めて銃を与えられるとき、暴発することがある。六人は講堂に結界を張る役目を果たしていたんだ。魔力の強すぎる者が銃を持つと暴走することがあるからな。そのために玻璃の聖銃士に支給される銃は制御機能に特化した小型なものになっているんだ」
「それじゃあ、銃は発色すると変わるのですか?」
みつきの問いにああと雨森が答える。
「発色と同時に戦闘能力と特性に合った銃に変えることになる……それじゃあ、ここが玻璃の聖銃士の座学のクラスだ」
東棟の一階の部屋の戸をガラリと雨森は無造作に開けた。
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