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青なじみ

青なじみ、とは千葉の方言で青たんのことです。あれ、青たんも方言?

「リュエルの癇癪って?」

引きつった笑みから、なんとなく想像はできたが聞いてみた。アルは躊躇うように視線を泳がせて、少し間をおいてから話し始めた。

「……リュエル様はですね、気に入らないと手が出足が出、女性であっても年下であっても容赦がないのです。パーティーの時も殿下に近接なさった女性に腹を立てられたみたいで…それは見事な飛びまわし蹴りをご披露なさって。」

「飛びまわし蹴り!?ドレスでかい?」

「はい」

「道理でドレスがすごいことになっていた訳だ。」

「はは、シルクなのですが。ミス・ミュゼルが嘆かれるでしょうね…あぁ」

リュエル、少しは自重しよう。

「ミス・ミュゼルとは?」

「いつもアンヌ様とリュエル様にドレスを仕立ててくださる女性です。もう六十を過ぎたくらいのご婦人ですが、それはそれは綺麗なんです。背筋がまっすぐでお召し物が乱れているのを見たことがありません。」

トルティが私の上着のボタンを外しながら言い、肌着の上から鳩尾みぞおちのあたりに聴診器を当てた。

「いっ!!ちょっとトルティ、痛いよ。」

「え、申し訳ありません。強く当てたつもりはなかったのですが…少し拝見しますね。失礼いたします。」

肌着をめくると薄っぺらな胸板と、

「痣!?」

鳩尾に見たこともない形をした青たんがあった。不規則に円いものが連なり、腹部の上の方にまで広がっている。それを見たトルティとアルの反応はすごかった。

「また痣ですか」と悲しみに憤りを滲ませるアル。

「何か心当たりは!?」と慌てるトルティ。

心当たりと言えば廊下で急に鳩尾が痛くなったことぐらいだろうか。

トルティにそう言えば、トルティも何か思い出したことがあるようで眉と目がくっつきそうなほど寄せた。

「殿下が痛みを訴えられたとき、ヘサーム王子が近寄って手をこう、払うように動かしましたよね。そうしたら痛みが消えたとおっしゃって…」

「ああ、そうだった。へサーム様にお聞きしたら何かわかるかもしれないね。」

「それがですね…」

今度は疲れた声を出すトルティ。

「リュエル様の標的になっておられまして、私たちが手出しできないのです。殿下以外の指図は受けないと決めておいでのようです。」

ため息を吐くトルティとアル。

思った以上に被害は甚大のようだ。

「僕が行った方が良いかな?」

「殿下はまだ動いてはいけません。無理は大敵ですから。診察を済ませてしまいましょう。」

聴診器を当てたり目を見たり、口や喉を確認したトルティが「おや」と私の額の髪の毛を上げた。

「発疹が出ていますね。薬作っておきます。」

「そこかゆいんだ。乾燥しているのかな。」

「かもしれません。クリームも増やしておきます。」

「手間をかけてごめんね」

「いえいえ、お気になさらず。これが私の生きがいなのですから。」

「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になる。」

恐らく、お母さまよりもたくさんのスキンケアクリームを消費している。

ここはあまり雨の降らない乾燥した土地で、一年を通して私の肌は荒れている。手の甲が一番ひどく、パーティーの時も手袋で隠した程だ。お手洗いに行くとどうしても洗わなければならず、まあ仕方がないが痛いのが困る。クリームを塗るときや濡れた時しみてひりひりする。もちろん、誰にも言わないけれど。

「それでは朝食を運ばせます。」

道具を片付けたトルティが言った。

「お腹空いてない…」

それに対して私は文句を言う。

「殿下、栄養をとりませんと身長が伸びません。」

「ぐっ、わかったよ。頑張る。」

「ご武運を。不肖アレクセイ、お手伝いさせていただきます。」

「本当?」

「アル、だめだぞ」

「毒見だ」

「もう済ませてあるに決まっているだろう」

「念には念をだな」

これがトルティと(主にアル)の日課だ。

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