表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディスエイトの神剣 読み切り版  作者: 和島大和
第二章 【新たな仲間と過去】
22/50

第二十一節「フェルティナ」

 誰も居ないとある一室。

所狭しと乱雑に散らばる研究用具。

壁や天井に張り巡らされたパイプは数々の培養槽へと続いている。

 その一つに、燃え盛るような赤髪をした少女が培養液に浸かっていた。

少女はピクリとも動かない。

その少女の前に、黒い外套を身に纏い、フードで目元まで隠している男が立っている。


 「未だ動かず、か。

  あれからどれほどの時が過ぎたことだろう。

  幾年も重ね、ようやくここまで成長してくれた。

  そろそろ…そろそろ声を聞かせてくれてもよいのではないのか?」


 男が培養槽を見つめながら、そう呟く。

しかし、培養槽の少女は反応を示さない。

まるで水につけた人形のようだ。


 「ふふっ…殿下、そう急かさずとも、彼女は時が来れば目覚めますよ。

  そのようにして毎日話しかけなくとも…。」


 外套を身に纏う男の背後には、面のようなもので頭を隠している女が居た。

温和な声音で、培養槽の少女に話し掛ける男を、諭すかのように話し掛ける。

 狡猾に何かを企む悪女のように…

 すべてを包み込み、慈愛に満ちた聖母のように…

 温和な声音の中にそうした色が浮き彫りになっている。


 「分かっておる。

  見ろ…この子が、我等の新しい子だ。

  お前のガキよりも優秀な子だ。」


 「えぇ…フフフ…それにしても…今頃あの子、親である私が死んだなんて思いこんでいるのでしょうね。

  私はこうして生きているというのに…。」


 「あぁ…そしてアイツは、自分がお前から愛されているなどと思い込んでおった。

  …いずれは相見えるだろう。

  その時はこの子と共に、存在そのものを抹消する。」


 「それは…いいですね。

  フフッ…早く絶望しきったあの子の顔…見たいものです。」


 「あぁ…だが、もう少しの辛抱だ。

  もう少しでこの子も目覚める。」


 二つの影は不気味に笑い声を上げ、何かを企んでいるかのように呟く。

この二つの影にだけ既知とした人物。

この二つの影だけが会話をした人物。

この場に於いて誰を示しているのかは、彼らにしか知らない。

 しかし、その会話に呼応するかのように、ピクリと眉が動いた。

それまで殆ど動かなかった少女が、確かな動きを見せた。


 「ッ!!? フッ…フフフフッ…フハハハハ!! 見たか!? 今…今動いたぞ!!」


 「えぇ…見ましたよ。

  そんなに騒がなくても、逃げたりなんてしませんのに…。」


 「仕方なかろう! どれだけの時を待ったと思っておるのだ。

  これもお前のお陰だな。」


 「勿体なきお言葉…殿下のお力となり得ることこそ、私の全てです。」


 楽しげに語る男と、それを楽しげに聞く女。

不気味な雰囲気を醸し出しながら、二人は共に喜んでいた。

 しかし、その喜びは子を為した喜びではない。

自分たちの損得で喜んでいるに過ぎないのである。

 自分たちの目的のためならばヒトをも生み出す思想。

この世の混沌とも言える存在が、ここに確かに存在した。

二つの影が持つ野望は、二人にしか分からない。


 「申し上げます。

  殿下、被検体666の居所が分かりました。

  アーダの樹海に床を張る蛮族共の集落です」


 殿下と呼ばれる男の直臣を名乗るヴォルデ・シュレンベルガー。

ヴォルデは男の背後まで来て跪いては頭を下げ、報告していた。

見上げた忠誠心である。


 「ご苦労だな。

  どの様にして場所を特定した?」


 ヴォルデの声に男も真剣な様子で背中越しに声を掛ける。

先ほどまでの嬉々とした雰囲気は、最早掻き消されていた。

男の冷徹な受け答えから、ヴォルデを絶対的に信じていることが伺える。


 「はっ! それが、樹海の中にある開けた場所から、微かではありますが…神剣の理力を観測しました。

  解析の結果、『光の柱』と同等のエネルギー量を放っていました。

  しかし、樹海の自然エネルギー・エアロイズの力の制御によって理力のエネルギーが拡散され、柱には至らなかったと思われます。」


 「なるほど…つまり、神剣を使いこなしたか、若しくは神剣に使われたかのどちらかという事か…。」


 「察しの通りでございます。」


 「ふむ…よし、大義であった! もう下がってよいぞ。」


 「ははっ!! 勿体なきお言葉!! それでは、これにて失礼します!」


 一通りの会話の後、ヴェルデはそそくさと研究室から出て行った。

再び二人だけになる。

男の口元が不敵に歪む。


 「奴はもうすぐで後悔することとなる。

  自分が存在した事…全てが無意味であるという事をな。

  それを理解した時、面白いことになりそうだな。」


 「そうですね。

  それに、この子の目覚めは近い。

  私は貴方の間で出来たこの子だけを我が子として愛しております。」


 「そうか…それは頼もしい限りだな。

  まぁ、『愛する』べき存在かどうかは疑問だな。

  こいつは我等の子であることに変わりないが、所詮は兵器に過ぎん。

  愛情を注いで無駄ではないが、無意味ではあるぞ。」


 「ふふっ、それでも構いませんわ。

  元よりそのつもりでありますし、初めて愛情を込めることの出来る子でもありますから…嬉しいのです。

  私の自己満足だと思って受け流してくださいませ。」


 「あまり情を注がない事だな。

  だが、名を与えねば何かと不便であることは確かだ。

  名前はそうだな…『フェルティナ』と名づけるとしよう。」


 「フェルティナ…よい名前ですね。」


 「このフェルティナが…我らの牙となる。」


 二人の表情は分からないが、不敵な笑みを浮かべていることは伺える。

『フェルティナ』と呼ばれた少女もまた、微かな反応を見せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ