#16 迷子
嬢がまた俺の部屋に来てくれた。
彼女は相変わらず綺麗で、セクシーで、
最後に会ったあの日のままだった。
軽く会話を交わしたあと、彼女は言ったんだ。
〈嬢〉
「……最近シテるの?」
〈俺〉
「……風俗で何回か……」
〈嬢〉
「……ねえ、まだワタシとシタい?」
〈俺〉
「正直に言っていいか?」
〈嬢〉
「……うん」
〈俺〉
「めちゃくちゃシタい、たまんねえ」
〈嬢〉
「だったら早く来てえ」
俺と彼女は互いに脱がし合いながら
キスを続けた。もう会えないと思ってた彼女の
唇、胸、吐息を楽しみながら
俺はまた彼女との時間に溺れていった。
〈俺〉
「お前ここ好きだもんな?」
〈嬢〉
「ん、うん…もっとシテえ」
ベッドのシーツを握りしめながら体をくねらす
彼女は最高に綺麗だった。
俺は彼女を、壊してしまいそうな程愛したんだ。
終わった後俺は、何で彼女が会いに来たのか、
今までどうしてたとか、聞きたい事が多くて
何から話そうかって考えた。
先に話を切り出したのは彼女だった。
〈嬢〉
「……ねえ、なんで私が会いに来たかわかる?」
〈俺〉
「……何か話したい事があるんじゃない?」
〈嬢〉
「……やっぱりアナタの事が忘れられないの。
アナタとずっと一緒に居たい。
アナタの前なら本当の自分でいられるの。
それに、ベッドでも最高。
ねえ、結婚してくれたら今の仕事も辞めて
ちゃんと昼職探すから、結婚考えて欲しいの」
〈俺〉
「…結婚は、考えてない。前に言った通りだよ」
〈嬢〉
「……アナタしかいないの」
〈俺〉
「お前なら他にもっといい奴見つかるだろ?」
〈嬢〉
「無理よ。今出会いなんて全然ないんだから」
〈俺〉
「マチアプやったらいいだろ?」
〈嬢〉
「マチアプ全部潰れたわよ」
〈俺〉
「あ…じゃあ結婚相談所とか…は?」
〈嬢〉
「結婚相談所も全部潰れたわよ!」
俺は思った。俺が全部潰してたんだってね。
どういう訳か俺がマチアプやら色々潰した事で
彼女が俺にまた会いに来てくれる道筋が
出来たみたいだった。
そしてその後の彼女の言葉には
本当にビックリしたよ。
〈嬢〉
「てかさ、アナタが潰したようなもんでしょ?」
〈俺〉
「…………え?」
〈嬢〉
「アナタも#俺Tooに参加してたんでしょ?」
〈俺〉
「……お前にはその事話してないぞ。
なんでわかったんだ?」
俺は何で彼女が#俺Tooの事を知ってるか
わからなかった。
〈嬢〉
「ハア?わかんない?
アナタ言ってたよね?女の体が好きなだけ、
女のケツ追いかけまわすのが嫌になった、
セクハラの線引きが曖昧なままで
放置してる国が悪い、文句ばっかり。
そんなアナタが#俺Tooに
参加しないわけないじゃない!
……ねえアナタ言ってたでしょ?
SNSにハマってて忙しかったって。
アナタ、ワタシにはいつだって
本当の事言ってくれるでしょ?
だから気になってSNS見てみたの。
それで#俺Tooを見つけたの。
ねえアナタ覚えてる?前合った夜に
ワタシに行った事」
〈俺〉
「……何の事だ?」
〈嬢〉
「この国は女の為には動くけど、
男の為には全く動かないって言ってたの」
〈俺〉
「……ああ、そう言ってたな」
〈嬢〉
「#俺Tooのコミュティがマチアプとか
潰したのは過去の投稿見ればわかったわ。
でも実際国は動いてなかったでしょ?
だからワタシが#彼Too作って
女達の声を集めたのよ。感謝してよ?」
俺は目が点になってた。
そして答え合わせをしたんだ。
〈俺〉
「お前が……Honesty?」
〈嬢〉
「そう、ワタシ、アナタの前では
正直(Honesty)になれるからね」
〈俺〉
「……何でそんな事を?」
〈嬢〉
「ん?#俺Tooの声、ていうか
アナタの声を国に届ける為よ。
この国は女の為には動くけど、
男の為には全く動かないんでしょ?
だから#彼Tooで女達の声を集めて、
SNSを騒がして国を振り向かせたの。
最初から#俺Tooに賛同する女も
チラホラ見かけたから
上手く行くと思ったわ」
〈俺〉
「……俺の声って?」
〈嬢〉
「……アナタ言ってたもんね?
プロポーズする事も今の時代じゃ
男にとってはリスクなんだって。
セクハラの線引きが曖昧なままで
放置してる国が悪いって。
ねえ、夕方ニュースでやってたの
知ってる?」
俺は彼女の話に圧倒されたまま、
夕方のニュースの事を思い出した。
〈俺〉
「……プロポーズとか告白は
セクハラにならないようにする
みたいな事やってた……」
〈嬢〉
「ほらね、もう大丈夫だよ?
プロポーズしてもセクハラにならないよ?」
〈俺〉
「お前……俺の為にそこまでしたのか?」
〈嬢〉
「ねえ、ワタシ、頑張ったよ?
アナタにプロポーズされたくて、
国も動かしたよ?だから、お願い。
女はね、やっぱりプロポーズは、
男から言って欲しいのよ。
……お願い……」
俺は断る理由を失っていた。
それと、俺の為にここまでしてくれた彼女を
二度と手放したくない。そう思えた。
俺の答えは決まったんだ。
〈俺〉
「……俺達……結婚しよう」
〈嬢〉
「……ええ、喜んで……」
俺は彼女を抱きしめ、キスをした。
唇に、頬に、髪に、何度も。
俺と彼女は抱き合いながら愛を誓った。
〈俺〉
「……今まで、ひどい事ばかり言って、
冷たくして、ゴメン」
〈嬢〉
「……いいのよ。本当の事を言ってくれる
アナタが好きなんだから」
〈俺〉
「……なら本当の事を言うよ。
君をずっと大切にしたい。だから、
これからもずっと俺の傍にいてくれ」
〈嬢〉
「……もちろんよ。ずっと傍にいるわ」
俺と彼女は見つめ合い、また
強く抱きしめあった。
彼女はずっと俺の背中を撫でてくれたんだ。
〈嬢〉
「……ねえ、アナタ、
ずっとつらかったんでしょ?
苦しかったんでしょ?」
〈俺〉
「・・・・・」
〈嬢〉
「俺、ていうか、俺達?
俺達、ずっと、苦しいんだよ、つらいんだよって
みんなに気付いて欲しかったんじゃない?
#俺Tooって、そういう事じゃないの?」
俺、ていうか、俺達。
彼女がそう言ってくれた時、
初めて#俺Tooが報われた気がしたんだ。
〈俺〉
「……う、うん…ずっと苦しかったんだ。
つらかったんだよ」
〈嬢〉
「そうなのね。もういいのよ。
ワタシ、じゃなくて、ワタシ達が
みんなに気付かせてあげたから」
〈俺〉
「うう…ありがとう…本当に……」
〈嬢〉
「うん。いいのよ」
〈俺〉
「うう、お、俺、女に思い荷物持ってって、
頼まれても…嫌だって言ってたんだ」
〈嬢〉
「……そうなの」
〈俺〉
「ううう、お、女に向かって、
ATMになりたくないなんて、
酷い事、い、言っちゃったんだ~」
〈嬢〉
「うん、わかったわ」
〈俺〉
「うう、ま、マチアプも、結婚相談所も
潰したの、お、俺なんだ~」
〈嬢〉
「そうなのね。もういいのよ」
〈俺〉
「あ、あ、あとちょっとで、
街に火をつけてやれなんて、ひ、酷い事、
と、投稿しちゃう、とこだったんだよ~」
〈嬢〉
「そうだったのね。もう大丈夫よ」
〈俺〉
「ううう~ゴ、ゴメン、本当にゴメン」
〈嬢〉
「ふふ、アナタってホントに、正直な人ね」
〈俺〉
「うう、うあ~~~~~~」
俺は彼女に抱かれながら
子供みたいに泣いた。
まるでずっと迷子だった子供が
母親に自分を見つけてもらったような、
そんな感じだったって言えば伝わるかな。
ワタシ、じゃなくて、ワタシ達
彼女はそう言ってた。
モテない負け組男の傷なめ合い集団から始まり
マチアプを潰し結婚相談所を潰し
不買・不参加運動を広めてテロ集団のように
なり始めてた#俺Tooを
静め、治め、慰めてくれたのは、
結局は女性達だったんだ。
つづきも読んでくれたらうれしいな




