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双子の大学生、事件も恋も解決します  作者: 如月 紬


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第八話「湖畔の避暑地」Ⅰ 湖畔の避暑地へ

夏休み編・全5パート、開始です!

 7月下旬。灼熱の太陽が道路に照りつける中、後部座席にエドウィンとマリルーを乗せたライリーが運転する車は、ヴェリディア市から内陸部へ数時間走った処にある湖畔のリゾート地、レイクサイド・クレストを目指していた。そこにあるホテル・リュミエールはヴァルム・コンツェルンが所有するホテルであり、彼らは夏の間、そこでアルバイトをすることになっていた。

「ひゃー、山だ山! 建物ばっかのヴェリディア市と全然違う!」

「ハーバータウンよりずっと涼しいわね。それにしても、まさかヴァルム・コンツェルンのホテルでアルバイトができるなんて。ユリウスさんには感謝しないと」

 マリルーは地図を見ながら、興奮を隠せない様子だった。

「そうだな。ライリーも、車を出してくれてありがとな」

 双子はモーガンにヴェリディア市まで送ってもらい、ライリーの車に乗せてもらっていた。

「いいって! ガソリン代は支給される、って話だし、俺も行くついでだしよ。ところで何て言ったっけ? 俺たちの仕事」

「サマー・パーソナル・サポートスタッフだ」

「SPS! いい響きだぜ! 高給だって聞いたし、夏休みでガッツリ稼いでやる! エド、本当に俺まで雇ってもらってサンキューな! ユリウスさんってすげー人なんだろ?」

「ああ、まあ……」

 エドウィンは曖昧に応えながら、ユリウスに電話したときのことを思い出した。

 ――ライリーのことを話したとき、ユリウスさん、押し黙ってしまったけれど……彼の追加雇用は難しいことだったんだろうか?

 だが結局、長い沈黙の後に『君の頼みなら』と承諾してくれたものの、そのことは今もエドウィンの胸に引っ掛かっていた。

「ええ。ヴァルム・コンツェルンの次期総帥よ。ライリー、失礼のないようにね」

 兄の会話を引き取ってマリルーが釘を刺すと。

「分かってるって!」

 ライリーは答えた。

 そして数時間後。陽が西に傾いた頃、車は深い緑の森を抜け、ターコイズブルーの広大な湖の畔に立つ、城のような石造りの巨大なホテルに到着した。



 ライリーがホテル裏手の駐車場に車を停めると、三人はそれぞれのキャリーケースとリュックを持ってホテルへと向かった。

 ホテルのエントランスで三人を迎えたのは、三十代半ばと思われる黒いスーツに身を包んだ女性だった。彼女は聡明そうで隙がなく、三人に緊張感を与える。

「ようこそ、ホテル・リュミエールへ。私はヴァルム・コンツェルン秘書課所属のタビサ=フラトンです。あなたたちの直属の上司となります」

 そう言ってタビサは三人にIDカードと制服である白のワイシャツと黒のスラックスを渡し、SPSスタッフの役割を簡潔に説明した。

「あなたたちの役割は、夏季限定で富裕層顧客へのきめ細やかなサポートを提供することです。彼らは通常のコンシェルジュでは対応しきれない、よりプライベートで特殊な依頼をしてきます。全てはリゾートのセキュリティ強化と顧客満足度向上のためです。些細なことでも、常に私に報告するように」

 説明し終えるとタビサは特にエドウィンとマリルーを鋭く観察した。ユリウスの推薦ではあるが、なぜキャリアのない学生の彼らを雇うのか、タビサには理解できなかった。



「さて、すぐにユリウス様がいらっしゃるわ」

 インカムで彼らの到着を報告したタビサに言われ、三人は姿勢を正して待つ。程なくして、ダークグレーのスーツ姿のユリウスと、シンプルなネイビーのワンピースを着たクラリッサがやってきた。

「エド、ルー、ライリー君。よく来てくれたね。オーナーのユリウスだ」

 とユリウスは初対面のライリーに右手を差し出したので彼は緊張のためやや引き攣った笑顔でその手を握り返した。

「久しぶりね、エド、ルー。ライリーさんは初めまして。ユリウスの妹、クラリッサよ。クララでいいわ。ようこそ、ホテル・リュミエールへ」

 兄の次にクラリッサもライリーと握手する。

「「お世話になります」」

 エドウィンとマリルーが挨拶を返す中、ライリーは初めて会う“上流階級の人間”のオーラに完全に気圧されていた。

「ライリー君、あまり緊張しなくていい。君には君の役割がある」

 そんな彼の様子に気づき、ユリウスはライリーの肩を軽く叩いた後、

「まずは君たちが滞在する部屋を案内しよう。エドとライリー君は私に、ルーはクララについて行ってくれ」

 と言い、微笑んだ。



 エドウィンとライリーがユリウスに案内されたのは、先ほどホテル裏手に駐車したときに見た二棟の建物のうちの一つだった。

「ここが従業員の男子寮だ。隣の建物は女子寮。バスルーム、ランドリー、スタッフラウンジは共同。食事はホテル地下の従業員用の食堂でまかないが出るので、通用口から出入りするように」

「「わかりました」」

 ――隣の建物が女子寮だというなら何故クララさんとルーは一緒に来なかったんだろう?

 エドウィンは答えながら不思議に思った。

 次にユリウスは二人を部屋へと案内した。部屋の手前に造り付けのクローゼットが2つずつ、中ほどに二段ベッド、奥に棚付きデスクと椅子が両側にあり、奥正面にあるテラス窓のおかげで室内は明るい。

「……ここは4人部屋ですか? 他の二人のルームメイトは……」

 エドウィンが尋ねるが。

「ああ、いや。ここは君たち二人で使ってくれていい。私は夏の間はずっとここに滞在するから、困ったことがあればいつでも頼ってくれ」

「「ありがとうございます」」

 親切な申し出に二人が礼を述べると、ユリウスが続けた。

「ところでエド、後で私と……」

「あっ、そうだ! 何か起きたときのために、注意を払うべき長期滞在の宿泊客と他の従業員の方たちを把握しておきたいんですが、そういった情報を知ることは可能ですか?」

「……構わない。タビサには私から伝えておこう」

 ユリウスが言いかけたことはエドウィンの思いつきに遮られてしまった。

「仕事は明日からだ。朝九時にホテルのエントランスに集合してくれ」

 結局。ユリウスは再び口に出すのを諦め、明日の予定を伝えると行ってしまった。

「四人部屋を二人で使えるなんてラッキーだな! よし、とにかく荷物を片付けちまおうぜ」

 ライリーはユリウスが去ると本来の彼を取り戻したかのようにテキパキと荷物を整理し始めた。



 一方マリルーはと言えば。

「え……と、ここって客室じゃないですか?」

 クラリッサにホテル最上階の部屋に案内されて戸惑っていた。広くて豪華なツインルーム。どう見ても従業員が使うような部屋ではない。だがクラリッサは平然として。

「私とあなたの相部屋よ」

「え? けれど……」

 ――期間従業員がオーナーの妹と一緒の部屋だなんて。

 そんなマリルーの心配を余所に。

「ちょうど話し相手が欲しかったし。私たち、お友達じゃない」

「……」

 ――友達?

 マリルーがどう返したらいいか迷っていた矢先、エドウィンのことが頭に浮かんだ。

「エドとライリーは……」

「ああ……」

 マリルーが二人のことを聞くとクラリッサは見るからに残念そうな顔をした。

「ライリーさんがいなければ、兄様とエドが一緒の部屋になる予定だったのよ。でも三人一緒、ってわけにも、お友達のライリーさんだけ別ってわけにもいかないから、従業員の男子寮の四人部屋を二人で使ってもらうことにしたわ」

「そ、そうなのね……」

 マリルーは兄とユリウスが相部屋にならなくてよかったと、心底思った。

 ――他の従業員に知られたら、どんな噂が立つかわからない。

 そう思う一方で。

 ――あの人は本気だ。この夏にエドとの関係を前進させるつもりね。

 マリルーにはそう思えた。彼女が考えを巡らせているうちに。

「荷物は適当なところに置いてちょうだい」

 とクラリッサに言われて今の自分の状況を思い出す。マリルーは何か言おうとしたが、クラリッサは鼻歌を歌いながらお茶を淹れ始めたので、言う機会を逃してしまったのだった……



 夕方になって。エドウィンはマリルーに。


Edwin:今から食堂に向かうが、一緒に夕食を取らないか?


 とLINEして既読になったのを確認した後、ライリーと連れだってホテル地下にある従業員用の食堂に向かった。

 食堂では疲れた顔の、様々な制服・作業着の人々が言葉少なに質素な食事を口に運んでいた。皆、ローテーションで食事を摂るため、食堂自体はそれほど広くない。

 夕食の載ったトレイを受け取り、二人がテーブルに着いたとき、マリルーが食堂にやってきた。彼らを見つけ、自身もトレイを受け取るとエドウィンの隣に座り、皆で食べ始める。

「共同スペースで他の従業員と話したんだが……俺たちがユリウスさんのコネで採用されたことはタビサさんや限られた人しか知らないようだ。基本的に従業員は二~四人部屋ってことで、俺はライリーがいてくれたおかげで知らない人と相部屋にならずに済んだけど、お前はどんな人と相方になったんだ?」

 エドウィンがここで得た情報を話して話題を振るが、マリルーは刹那の沈黙の後に口を開いた。

「それが……クララさんなの」

「「え?」」

「客室のツインルームよ。話し相手が欲しいから、って」

「「客室!?」」

 エドウィンとライリーが驚き固まる。

「……おい、コネやら相部屋やら、お前らユリウスさんやクララさんとどーいう間柄なんだよ?」

 エドウィンより早くフリーズが解けたライリーが信じられないような顔で尋ねる。マリルーはライリーに問われてどう説明したものか言いあぐねている様子のエドウィンを見て、彼とユリウスのことは話さない方が良いと判断した。

「あ……えーっと。学園祭のとき、迷子になったクララさんを探して見つけたことがあって。ありがたいことにそれをきっかけに私たちを友達だと思ってくれているみたいなの」

「マジで!? すげぇ!」

 ライリーがハイテンションになり、双子は彼の反応にぎこちなく笑った。

 それから三人は食事に戻り、エドウィンはマリルーに、先ほどユリウスから宿泊客やここで働く人たちの情報を得る許可をもらったことを話した。

「それはぜひ知っておくべきね!」

「ライリー、お前は?」

「え? お、俺はいいよ……」

 ライリーにも打診したが彼は辞退したため、双子だけで夕食後、一緒にタビサのもとを訪れることにした。


 *


 翌日。三人はタビサにもらった制服を着て、ユリウスに言われた通り朝九時にホテルのエントランスに集合した。そこにはユリウスとタビサが待っていた。

「リゾートには警察沙汰にしたくない小さなトラブルがつきものだ。君たちの観察力と、事件を未然に防ぐ能力を活かしてもらいたい」

 とユリウス。

「二人一組でホテル内の巡回に行き、残る一人はフロント奥のオフィスで待機。何かあればすぐに私に報告を」

「「「了解しました」」」

 タビサがインカムを渡して指示をすると三人は背筋を伸ばして答え、まずは双子がペアで巡回に行くことにした。



 その日は天気が良いこともあって、宿泊客たちの多くは湖でのカヌーや湖畔から少し離れた山のハイキングコースなどのアクティビティを楽しんでいるらしく、ホテル内にはそれほど客の姿はなかった。

「このまま何も起こらないといいんだけど……」

「そうだな」

 歩きながら、二人がそんなやりとりをしたとき。

「エリザベッタちゃん!」

 キョロキョロしながら騒ぐ高価そうな服を着た小太りの中年女性が二人の前の廊下からやってきた。

「どうかされましたか?」

「――うちのプリンセスが、どこにもいないのよ!」

 エドウィンが慇懃に声を掛けると焦った応えが返った。

「迷子ですか? お子様の特徴は?」

 マリルーが尋ねると。

「エリザベッタちゃんは私の愛犬よ!」

 と女性がむきになって言った。そこで二人はこの女性が高価なジュエリーよりも愛犬のチワワ、エリザベッタを溺愛している世界的デザイナーのカーラ・ベルナルディだとピンときた。

 ――昨夜、タビサさんから宿泊客の情報を聞いていた甲斐があった。

「ベルナルディ様、ですね。落ち着いて、状況を話してください。まず、エリザベッタ様はいつから姿が見えなくなったのですか?」

 エドウィンが尋ねる。カーラは目の前の若い青年が自身の名前を知っていたことに目をぱちくりさせたが、すぐに我に返って。

「部屋の清掃係が入る直前まではいたのよ」

 と答えた。

「それでエリザベッタ様がいなくなってからどのくらい経ちますか?」

 マリルーが冷静に尋ねた。

「およそ一時間半前ね。清掃係が不審な人物は見ていないと言っているわ」

「そう……ですか。それでも何か手がかりがあるかもしれないので、お部屋を見せてもらってもいいですか?」

「え、ええ、いいわ。それなら私について来て」

 エドウィンの言葉にカーラは頷き、踵を返した。エドウィンはカーラの後を追いながらインカムでタビサに報告し、ライリーもホテル周辺の捜索に加わることになった。



 マリルーとエドウィンはプリンセスが最後に目撃されたという、四階にあるカーラの部屋を訪れた。室内は典型的な高級デザイナーの部屋というべきか、洗練されてはいるが、物が溢れて散らかっていた。

「実は……」

 とカーラが躊躇いがちに切り出す。

「清掃係は不審な人物は見ていないけれど、ドアに鍵をかけずに部屋を離れた、と言っていたの」

「つまり、誰でも部屋に入れる状態だったのですね」

 マリルーがカーラに確認する。

「犬が自力で部屋を出た、というのは考えにくいわ。誰かに連れ出されたのかも……」

 エドウィンは室内を見回した後、バルコニーに出て周囲を注意深く見た。隣の部屋との境には高い仕切りがあったが、仕切りが僅かに開いていた。

「ベルナルディ様。隣室との間の仕切りが少し開いていますが、行き来しているのですか?」

「ええ。隣室には息子が滞在しているから、時折行ったり来たりしているわ」

「なるほど」

 エドウィンが頷き、更に注意深く仕切りを観察した。そして……

「ルー、ここを見てくれ」

 エドウィンに呼ばれてマリルーがバルコニーに出ると、兄が指し示す仕切りの足元に濡れた土の跡が点々と残っているのを見つけた。



(Ⅱに続く)




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