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チャプター61:「攻勢」

 ――翌朝。

 まだ太陽が昇り切る前の、薄暗い夜空に背景が地上の光景を覆う中。


 大きな、巨大な動きが始まっていた。


 広く乾いた地上に響き聞こえるは、数多多数の足音。

 さらには鈍く唸るような数々の音に、鉄が擦れるようなまた数々の音。すなわち、エンジンやキャタピラの音。


 それらは全て、VAC AFの大部隊のものだ。


 微かに吹いて巻く砂煙中から続々と現れたのは。三個大隊に届く数の、大勢のVAC AFの隊員等。

 それを成す詳細は、小火器手、支援火器員、重火器員、装甲工作員、ETS――。

 さらにはコマンドーから、ストロングコマンドーまで様々。


 人種はヒトからユーダイド、スーパーヒューマンまで。


「――今度こそ押し貫くぞッ」

「周りへの警戒を目を疎かにするなよ」


 響き聞こえるはその彼ら脚音に、上げる声の数々。


 さらに、いくつもの鈍く唸るような音が聞こえ始め。そして大勢の隊員等に混じり、あるいは続くように、いくつもの大きなシルエットが現れる。

 それは隊員等を支援するための、いくつもの車輛、装甲車。そして戦車だ。


 その数多が地上に広く大きく散会展開し。

 これより始まる大規模攻勢突撃のため、その開始位置のラインへとへと順次着いて行き。その準備を整えていく姿を見せている。


「――指揮本部へ完了報告」


 間もなくその全ての準備の動きは完了。

 開始ラインに着いた各隊各員の内、そのおおよそ中心に立ち構えて居たジョンソンが。本部班付随の通信員に指示の声を向ける。


「了解です。指揮本部、全ての隊は配置に付いた」


 それを受けた通信員が、後方指揮所へ向けた通信報告を上げ。準備完了の旨が後方指揮所へと上がる。



「――」


 その正面ラインの少し後方、戦場広くを見渡せる崖上の各所には。ストロングコマンドーを筆頭とする狙撃班が配置し構え。

 これより苛烈な戦場となる広域を、配置していく各隊を見下ろし見守っている。



 そしてさらに後方、仮設駐屯地の野戦指揮所。

 その内では、これよりの作戦の全体の指揮を担う、メリスア准将とラエ中佐が。

 作戦卓を前にして、その卓上の地図を。そこに並べられた部隊配置を示す無数の駒を、尖るまでの眼で見下ろしていた。


「作戦はシンプルです、念入りな威力偵察で敵の防御の厚さ掴めた――それを無力化するに足るだけの戦力をぶつけ、突き崩します」


 すでに決定から周知されている作戦概要を、しかし最終確認の意味でメリスアに伝えるラエ。


 言われた通りシンプルな作戦だが。それは用意された多数の戦力があるからこそ成せるもの。

 巨大国家、VAC AFの十八番にして専売特許に近い物であった。


「――各隊、開始地点に配置完了との知らせ」


 そこへ、背後に無線通信卓に着く通信員が、前線主力各隊の配置が完了したことを知らせる通信を受け取り。

 その旨をメリスアのラエに報告する。


「准将」


 それを受けたラエは、次には最終確認のためのそれで、SH特有の低い一声でメリスアに伺う一声を向ける。


「終わりにしましょう――」


 対するメリスアは、それに答える代わりに静かにそんな一言を零しながら。

その手先で、作戦卓上の最初の駒を進めた。




「――ふゥー」


 ToBの側、古代の遺跡の一室。

 夜明けが近づき、近づく戦いの時を前に。緊張で硬くなる体を感じ、それを少しでも緩和すべく息を吐き零すオルスレーの姿がある。


「……ッ!」


 そんなオルスレーは、しかし次にはその行いを遮るかのような、遺跡中に鳴り響き始めた警報音を聞いた。

 襲撃の知らせに他ならないそれ。それに険しい顔色で、顔を上げるオルスレー。


 そして時間、タイミングから。

 それがここまでの小規模な探りの攻撃とは違うものであることを、オルスレーは気配、直感から察し。

 次には脱ぎ置いていたPAヘルメットを掴み取り、立ち上がり駆け向かった。



「シニア!」


 部屋を飛び出して廊下を駆けるオルスレーの元へ、向こうから慌て駆け向かって来たPA兵が合流する。


「状況は!?」

「非常事態……大攻勢ですっ!VACが大挙して迫っています!」


 尋ねたオルスレーに、キャプテンのPA兵は急き張り詰めた声色でそう伝えた。




 ――ゥォァァァアアアアオオオッッッ!!!


 ToBを押し潰すために、三個大隊を主力とするVAC AFによる。それによる総攻撃、総突撃が火蓋を切った。


 ウウォオォォォォォォッッッ!!!

 ワァアァァァアァァァァッッッ!!!


 数多多数のAF各隊、隊員等が周辺地形に広大なまでに散会展開。

 大きく、巨大なまでの攻勢の光景を描き。

 各員が張り上げた声を、響き轟かせている。



「ボット機動!」

「打ち方始めー!」

「撃て、とにかく撃てェ!」


 ToB防御陣地からは、なけなしの火力弾薬も惜しまず。いや惜しむことすらできず、激しい防御火力が唸り始めた。


 正面に配置した四機のファイヤサポートボットの、そのガトリング砲や機関砲が過激に唸りを上げ。

 防御陣地の各機関銃銃座から、各兵の所有火器まで、ToBの火力のほぼ全てが火を吹き上げた。



「――ア゛ッ」


 無数の、豪雨の如きで襲い来たToB側からの数多の防御火力に。攻勢隊形の内のAF隊員等が撃ち抜かれ始めた。

 一人、二人、三人、四人、さらに。

 浚える如きの敵の銃砲火に、隊員等が立て続けに打ち吹っ飛び、崩れ沈む。


 ォォオォォアァアアアッッッ!!!


 しかし、前進攻勢が止まる事は無い


 崩れ沈んだ味方の身体を抜け、飛び越え。

 そして自身の身を銃弾が掠め削ぎ、多少傷つきようとも。


 AF各隊各員はその身が、脚が動く限り押し進む。



 AF側が被害にも構わずに押し進み、最初の遮蔽物が点在する位置まで至った頃。

 ToBの防御陣地側では、丁度オルスレーが駆け出て来て合流した。


「キャプテン・ラフェル、状況をッ」

「大攻勢です!まだ視界が確保できない夜明け前を狙ってきた、今は砂煙も巻いていますッ。それに各弾薬も残りわずか、我々の側に非常に不利です!」


 敵味方のものが混じる数々の戦いの音、銃声が響く中で。

 オルスレーは場の指揮を執っていたキャプテンに報告を求め、ラフェルと呼ばれたそのキャプテンはToB側の現状を捲し立てて返す。

 言ってしまえば、ToBは窮地にあった。



 一方。

 正面より行われるAF主力の大攻勢の光景を側面に見つつ。側方から「迂回」にための動きを取る一隊の姿があった。


 地上を縦隊を組み、地面を鳴らし揺らし、速度を出して突っ切り進んでいくシルエットの数々。


 それはオートバイ及び大型バキーを主とし、また重火器を搭載した少数の四輪駆動車を組み込み構成される、車輛機動隊。

 彼等はその速度機動力をもって、ToB側の火力を掻い潜り通過。遺跡施設、ToB防御陣地の背後側方に回り込む算段だ。


「――散会ッ」


 間もなく、その先頭でオートバイに跨り操るストロングコマンドー――他ならぬサミュエルが指示の声を発し。

 それを受け、機動車輛隊の各員各車はそれぞれの割り振りの元、遺跡の両側に回り込むべく二手に分散して行く。



「側面より敵車輛群!回り込む気です!」


 ToBの陣地側。

 遺跡の高所で監視に当たっていた兵が、知らせの声を降ろして来る。


「ラフェル、部隊を連れて側面の防御へ!」

「はッ。聞いたな、行くぞ!」


 それを受けたオルスレーは、今にやり取りをしていたキャプテン・ラフェルに指示を向け。

 ラフェルすぐにそれに呼応、動きに移った。


 ラフェル率いる一部隊は手早く陣地の側面に移動から配置展開し。重火器から小火器までの各火器を据えて構え。

 近づく敵の迂回部隊を待ち構える。


「視認した、射撃開始!」


 そしてまず真っ先に、ラフェルが向こうの地上に敵のシルエット見止め。

 そのラフェルの合図によって、ToB兵たちは射撃を開始した。



「――ヅッ!」


 散会後、右方よりの接近を試みていたサミュエル率いる車輛機動隊に、敵からの銃火が襲い始めた。

 直後には内のオートバイを操る一名が食われ、その隊員は銃弾を受けて放り出されて落伍。

 さらに、数々の射撃が容赦なく車輛機動隊を襲い掠める。


「怯むなァッ!」


 しかし戦闘を行き、率いるサミュエルは訴える声を発し上げ。隊はその指示の通り、

 怯み臆する様子など見せずに、速度を上げて前進を続ける。



 一方、主戦場より後方の小高い崖の上。

 そこで岩陰に身を隠して配置しているのは、ヒト系とスーパーヒューマンの二名からなる二人一組の、ストロングコマンドーのチーム。


 そのチームは巨大な得物を、航空機関砲改造の30mm狙撃砲を展開して据え構え。

 敵陣に接近を試みる車輛機動隊の動向を見守っている。


《ロス28よりホヴ-バーナー。車輛機動隊が敵陣に接近、しかし砂煙や重迫撃砲の影響でこちらの精密狙撃支援も困難ッ》


 そのストロングコマンドー二名の耳に、通信してそんな知らせの声が届く。

 それは離れた別方高所に配置している狙撃班の、内のエドアンズからの知らせ伝える言葉。


 その通り、今の視界不良の環境はVAC側が狙ったもので、承知の上ではあったが。

 その影響で、味方への狙撃支援の類には影響が発生していた。


「敵のマズルフラッシュが見える、それを目安に狙え。少しでも援護が期待できる」


 しかしそれにストロングコマンドーの片割れ、ヒト系のコマンドーが返したのはそんな促す一声。

 そしてその旨に回答にまず手本を示すように、相方のスーパーヒューマンの隊員が。据え構えて居た30mm機関砲のトリガーを引き、凄まじい砲声を響かせた。



「!――ゴォ゛ぅ!?」


 ToBの防御陣地側面にて、ガトリング砲を構え撃ちばら撒いていた一体のPA兵が――瞬間、そのどてっ腹に大穴を空け、背後へ思いっきり打ち飛んで地面に叩きつけられた。


「クソ!!」

「重狙撃だ!」


 昨日の経験から、その正体を嫌でも察して叫ぶToB兵たち。

 しかしさらに今の一撃に続くように、次には無数の狙撃射撃が襲い来てToB兵たちを掠め始める。

 その正体は、エドアンズら狙撃班からの各個狙撃射撃。

 それに晒され、兵たちは防御陣地の遮蔽へ隠れることを余儀なくされる。


「ズぁっ!?」

「がァっ!?」


 しかしそんな兵たちの動きも虚しく。VAC AFの狙撃はその威力と数に物を言わせて、ToBの頭上を脅かし。

 時に遮蔽防御すらをも貫通して兵たちを傷つけ、屠り沈める。


「ッ……シニア!両側からの敵攻勢苛烈、敵の強力な狙撃の妨害でこちらは応戦困難!ボットを回してください、至急火力支援が必要ですッ!」


 頭も碌に上げられなくなったその状況下で。ラフェルは陣地正面で指揮を執るオルスレーに向けて、そう支援の通信要請を送る。


《無理だ!正面の敵攻勢を抑えるので手一杯、こちらも押し切られる寸前だ!ボットはとてもじゃないが動かせない!》


 しかしそれに返ってきたのは、オルスレーの声での悲鳴にも近い怒号であった。

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