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チャプター60:「不休」

 視点は一方の古代の遺跡。ToBの防御陣地へ。


「……」


 指揮下の各部隊の状況を掌握すべく、オルスレーは遺跡施設内を回っている。


 遺跡内部のあちこちでは、戦いで疲れた体を少しでも休めながらも。

 しかし同時に銃器火器の点検整備など、再準備のための動きに追われるToB兵たちの姿がある。


 また、PAを纏い扱うウォーリアやキャプテンクラスは、休息の暇すらを惜しんで己のPAの整備に当たり。

 同じくPA、またはボットなどの機械兵器の整備を担当するメカニックたちも。また休息の時間を削って作業に当たっている。


「ッー……」


 皆、疲れ傷ついた体に鞭を打ってそれぞれの役目に徹している。

 部下たちにそんな形を強いなければいけない状況に、オルスレーは顔を苦くして思わずの声を漏らす。


「ウォーリア・フェン、ウォーリア・ハイマンの部隊の生き残りは、損傷の少ない各部隊の補填に……シニア?」


 オルスレーは、再編成の指揮主導を執るキャプテンと一緒に周り。そのキャプテンから各状況説明を受けていたところだ。

 そのキャプテンは、しかし今にオルスレーが見せた苦い色を見止め、案ずる声を掛ける。


「あぁ……すまない。我々の戦力規模はどの程度まで変動した?」


 それにオルスレーは謝罪で返し、そして合わせて尋ねる言葉をキャプテンに返す。


「単純な人数では6割程にまで減じました。しかしPAを扱えるキャプテン、ウォーリアが特に優先して狙われたため、実戦力は今や戦闘前の半数以下です」

「そうか……」


 そしてキャプテンから紡ぎ伝えられた状況の回答を聞き、オルスレーはまた苦い顔で声を零す。


「シニア……我々にここまでの被害をもたらしたのは……」

「あぁ、間違いなくコマンドーだろう。脅威たる強力な存在、そして何より数――VACは我々を倒すに足る戦力を用意して投入して来ている……」


 そんなオルスレーにキャプテンは伺う声を向け、今度はオルスレーがそれに解答。

 交わされたそれは、己たちToBを打ち倒すべく、VAC側が強力で強大な戦力を向けてぶつけて来たことを嫌でも察してのもの。


「……っ!」


 それに微かな悲観を覚えてしまい、オルスレーが視線を少し落としたのも束の間。

 次には遺跡施設内に、鈍い警報音が鳴り響いた。



「――ッー」


 古代の遺跡の外部外周。ToBの構築した防衛陣地へと可能な限り近づいた地点。

 そこを世闇に紛れ、多数の人影が歩み進めて陣地へと接近していた。

 それは、アクイア少尉率いる威力斥候の一個小隊。皆、姿勢を低く保ちながら、忍び足のそれで慎重に足を進めている。


「――」


 その最中で、アクイアは一旦足を止めて停止。周りにも一度停止の号令をハンドサインで伝え、掠れるように鳴っていた足音が一度止む。

 それを聞き感じ、そしてアクイアはやや肌寒い周囲の気温をまた感じながら。一度周囲に視線を走らせる。


 ――ピィィィィィィッ!


 そして次には、アクイアは咥えたホイッスルを吹き鳴らし。劈くような笛音が響き上がる。


 ――ォォオオオオオッッ!!


 その合図にて、周囲に展開していた小隊各員が。声を張り上げながらの突撃行動を開始した。



「っ!、敵だァっ!」


 ToBの防御陣地側。

 配置して待機状態にあったToBの兵士たちは、襲撃に気づいてすぐさま飛び起きて火器に取り付き。

 各個人火器が、そして据え配置された機関銃類が唸り始めた。


「何度目だよ!」

「照明弾!」


 悪態を挙げながらも、兵たちは銃火を射ちばら撒き。またその最中に担当の兵が照明弾を上げ、次には夜空に射ち上がった光源が夜闇を眩く照らす。


 襲撃攻撃側のVAC AF小隊を眩い光が照らし。所在の明らかとなったAFの方へ、ToB側の火力火線が向けられ掠め始める。


「ッ゛っ!」


 しかしそんなToB側の火力展開を阻害するように。直後には一つの機関銃陣地の、そこを囲い護る土嚢造りが弾けるように破れ崩れた。


「敵、スナイパーっ!」

「交戦しろ(コンタクト)ッ!狙撃手、カウンター行動をッ!」


 敵からの狙撃行動であることは、嫌でもすぐに察しがついた。

 近くの兵が知らせの声を張り上げ。場の指揮主導を執っていたヴァイス・キャプテンのPA兵が、すぐさま応戦狙撃行動を命じる。


「右手からだ!」

「配置に!」


 命令に応じ、該当するToB狙撃手たちは防御陣地の内を駆け進んで、応戦狙撃位置に着く。


「っー……――!」


 そして一人のToB狙撃手が、向こう側方の崖上に敵狙撃手の姿を見止め。それを狙い、突き出し構えた狙撃銃の引き金を引いた。



「ッ゛」


 ToB防御陣地より側方向こうの崖の上。

 そこに配置していたAF狙撃班の狙撃員の近くを、寄越された応戦射撃が掠め。それにAFの狙撃員は姿勢を崩され顔を顰めた。


「応戦狙撃ありッ!」

「それでいい。斥候小隊がちょっかいを終えるまで、引き付けるッ」


 しかし狙撃班各員は所定通りと、そう言葉を交わし。

 さらなる狙撃阻害行動を継続、眼下の向こうへと狙撃射撃を叩き込み続ける。



 また一方、正面より突撃行動を行う斥候小隊は。

 しかし無理を押しての攻撃行動までは行わず。各遮蔽個所にて身を潜めて敵の銃火を凌ぎながら、適当な射撃応戦をするのみにその行動を止めていた。


「銃座は全て健在、一か所でも潰したいところだが――少尉、我々だけで潰すのは難しそうです」

「ならいい、配置状況の変化の有無は確認できた。後は、叩き起こした奴さん等が寝ぼけ眼のうちにズラかる」


 その遮蔽の内の一か所で、そんな会話を交わすはアクイアと小隊の先任曹。


 威力斥候小隊の此度の目的は、敵の火器配置の変化の有無の確認。可能ならそのいずれかの無力化などが「副次的」に含まれたが。

 その一番の目的は、ToB防御陣地に突発の襲撃を仕掛け。その休息の時間を奪い、緊張状態にさせ続けることにあった。


 ここまでにAF側は、数度に渡り小規模な突撃襲撃を仕掛け。そんなようにToB側に負担を強いていた。


「了。ここまでだ、後退するッ!」


 その主目的は果たせた。

 アクイアのここまでとする言葉を聞き、先任曹は周囲の各員に張り上げ促す。

 ここで無理をして犠牲を出す必要は無い。

 指示に呼応して小隊の各員は遮蔽を解き、急ぎしかし慎重に後退を始める。


「……――」


 そして指揮下の各員の後退を最後まで待った後に。

 アクイアも向こう陣地を刺す眼で見つつも、後退の動きで世闇の中へと消えていった。



「……引いてった!」

「各所、状況報告!」


 敵が後退して言ったのを見止め、ToBの防御陣地内で各兵は声を張り上げ交わす。


「1番銃座、残弾が少ない……っ」

「3番、こっちもだ……もうケースに半分も残ってないっ」


 それぞれが交わすは、のっぴきならなくなり始めたToB側の状況を露わにする言葉。


「クソ……VACめ……!」


 そしてその最中で、誰かがそんな恨めしそうな言葉を発した。



「シニア、襲撃です!」


 視点はまた古代の遺跡の内部へ。

 先に警報を聞いたオルスレーたちの元へ、オルスレーの従兵であるリケッツが慌て掛けつけその旨を伝える。


「規模は?」

「小隊規模!それと若干の狙撃攻撃です!」

「四度目だな……」


 急き慌てる様子のリケッツに、しかし対するオルスレーは冷静な様子で尋ね。

 また返されたリケッツの回答に、オルスレーは静かにそれだけを零す。


「警報を止めろ、各部隊にも警戒解除を。本攻勢じゃない、こちらを疲弊させるためだけの嫌がらせだ」


 そしてすぐさま、すでに数回目のそれであることから、敵の狙いに嫌でも察しを付け。

 オルスレーはそう指示の言葉を伝える。


「わ、分かりました……」


 オルスレーのそれを見せられ、リケッツも少し落ち着きを取り戻し。指示された事項に当たるべく、駆け去っていく。

 程なく、遺跡施設内で響いていた鈍い警報音は鳴り止んだ。


「……シニア。幾度もの攻撃で、各弾薬も余裕がなくなって来ています」

「分かっている、敵の動向をよく見極めさせろ。本攻勢までは弾薬を極力温存、そして交代で少しでも休むよう努めさせてくれ」


 警報の喧騒が鳴り止んだ後。

 キャプテンの兵はオルスレーに向けて、ToBの抱える現状をまた説明。それにオルスレーは、それに対応するための指示通達事項を伝える。


「は」


 オルスレーのそれを聞き、キャプテンの兵はその指示通達を下達するべく、身を翻して立ち去る。


「……ふぅー……」


 その後、オルスレーは自身も蓄積する少なからずの心身の負担から。

 少し重めのため息を吐いた。

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