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チャプター59:「相違」

「――ところで。少佐」


 メリスアとラエが、作戦についての調整の言葉を交わし終えた。しかしその直後だ。

 メリスアは卓上に降ろしていた視線を起こし。卓の反対から同じく作戦計画を静観していたジョンソンに声を掛けた。


「先の退却時の動きは聞いている――功をそうしたとはいえ、その際にリソースを裂き過ぎたのではなくて?ましてや貴方自身まで正面に残り続けたのは、必要性に疑問が残るわね」


 そして静かな、しかし冷酷にも感じる声色で。メリスアが述べたのはそんな事項。

 それは先の退却の際に、取り残された小隊を回収するために、ジョンソンが陣頭指揮を執った一連の行動を突くものだ。


「二個小隊を、隊員等を見捨てるべきだったと?大した合理主義だ」


 しかし、それにジョンソンが叩きつけるようにまた返したのはそんな言葉。

 徹底して合理性を重視し、それならば冷血な判断も辞さないメリスアの姿勢気質をまた皮肉るもの。


「変わらずの、甘い理想主義ね」

「ハリボテのリアリストになるくらいなら上等だ」


 それにまた冷たく嫌味を返すメリスアだが、ジョンソンもまたそれに刺して殴る如きで叩き返す。


「やめなさいッ!」


 しかし直後。そんな両者の応酬を叱り止めるように、ラエが怒声を張り上げた。


「ぅぁっ」

「っ」

「おぁっ」

「ひぇっ」


 それにビクっと驚いたのは、状況を見守っていたリーシェ、ルーネ、シュステン、クインの四人。


「……」

「――」


 方や、メリスアとジョンソンはと言えば。言葉の応酬こそ止めたが、互いをまっすぐの視線で刺すように見合ったまま。


 実際問題の所。

 リスク他の合理性を考えれば、そして「戦う者」の立場として徹底するならば、メリスアの考え方となるが。


 単純な人道の観念だけでなく。少数とはいえ味方を見捨てる行為は、それが隊全体の指揮に影響して引き摺る危険性もあるため、ジョンソンの行動もただの理想主義と切り捨てられるものでもない。


 正解は、おそらく無い。

 それが故に、それ以上を止めるべく張り上げられたラエの言葉であった。


「少佐、君の大隊の再編状況は?」

「すでに調整計画は整っています。今は順次各員に移動を指示、再点呼で確認が取れれば完了です」


 そしてラエは、話題を切り替えるようにジョンソンに尋ね。ジョンソンはその尋ねられた事項について答える。

 ジョンソンが指揮所を訪れたのは、その件を伝えるためだけであったのだが。そこへ今の邂逅が起こり、一色触発の空気となってしまったのであった。


「よし、なら君はもう休め」

「はッ」


 そしてその確認報告が取れると。次には火種、頭痛の種である両者を引き放すべく。

 ラエは当人の休息回復の面も鑑み、ジョンソンにそんな指示を向ける。


 それにジョンソンは、まだ微かに険しい顔のまま端的に答える。


「皆さんも、休んでください。ジョンソン、皆さんを一緒にお送りしてくれ」

「いいでしょう」


 ついでというようにラエはジョンソンに、リーシェたちの送迎を命じ。

 それにジョンソンはまた端的に答えると、身を翻して出入り口をくぐり。指揮所を後にする。


「あ、まって……っ」

「おいおい」

「ジョンソン殿っ……お二方、お先に失礼します」


 そして、送迎を指示されながらも、特にリーシェたちを案内するでもなく先に退出してしまったジョンソンを。

 リーシェたちは困惑しつつ、慌てて追いかけていくハメなった。



 日が落ち切り。暗くなり星が一つ二つ瞬き始めた空の元。広い駐屯地内をジョンソン等を乗せた軽量四駆車輛が走っている。

 送迎のためにリーシェたち四人を乗せ、ハンドルはジョンソン自身が操っていた。


「あの女将軍、とてつもない気迫だったな」

「コエー女だったよ……」

「見た目は良かったけど」


 その四駆車輛の後席荷台に、詰め込まれるように乗っている異世界勢の四人。

 内の翼人女のルーネや、魔法使い美少年のクインは。先の一触即発の空気を思い返し、顔を青くしてそんな言葉を零している。

 吸血鬼美少年のシュステンに関しては、そんな軽口を零したが。


「そのあの人に、ジョンソンあんなに突っかかっていくんだもん……」


 そしてリーシェは後席荷台から運転席に顔を向け。その当事者の片方であるジョンソンに、少しの呆れを作ってそんな声を向けた。


「ただのイキり奢っているだけの女だ、遠慮は無用だ」

「ジョンソン……キミも思いのほか、見ていてヒヤヒヤする人だね……」


 しかしジョンソンはハンドルにアクセルを操りながらも、変わらぬ姿勢でそんな言葉を述べ。

 それを受けたリーシェは、また困り顔でそんな呆れ交じりの声を向ける。


「それより、皆に救われたな」


 そんな皆を気遣ってか、それとも別段他意はないものか。次にはジョンソンはそんな言葉を、淡々とした色で皆に向ける。

 先の戦闘中に、不測の事態に陥った所をリーシェたちに力添えされた事に、礼を述べるものだ。


「え?あぁ……ううん、それは別にいいよ。むしろ今までは助けられてばかりだったし」


 また思わぬものであったそれに。リーシェは微かにキョトンとしながらも、そんな返事を返す。


「驚愕の姿に力だった。改めて、君たちが不思議で強力な力を宿すのだと実感したよ」


 そんなリーシェに、しかしジョンソンは変わらぬ言葉に色で。そんな皆を表現して評する言葉をむける。


「謙遜を。あなた方こそ、強大な力を携える方々だというのに……」

「ビックリはお互い様だよなー」

「未だにアンタらの得体が知れないっつーのっ」


 しかしそれにルーネ、クイン、シュステンたち。VACに向けて同じくの驚きを抱いている皆はそれぞれ。

 困り呆れ、だが同時に揶揄うような色で。それぞれジョンソンに「お返し」の言葉を返す。


 走る四駆車輛の上で、そんなように言葉を交わしながらも。

 間もなく皆は、それぞれの一時の寝床とする仮設宿舎に着き。

 そこで今夜は解散とし、それぞれの休息睡眠の時間に入ることとした。


 日が昇り、決着の朝を迎えるその時間に備えて――

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