チャプター50:「拮抗」
「!、シニア、各前進スポットが崩されていますっ!」
古代の遺跡の元、ToB防御陣地の本陣。
正面向こうの各前進スポットが、VAC AFの押し上げ襲撃によって崩れ始めた様子を見止め。観測の兵がオルスレーに伝える声を張り上げる。
「想定以上に敵は脅威か……ッ!」
その様子はオルスレーにも見えており、それにオルスレーは苦い声色を零す。
ToB側の想定では、現在の配置でいくらかの時間は持ち堪えられるだろうと見ていた。
しかしその想定を越えて、VAC AFは早いペースに勢いで、各陣地・スポットを崩して押し迫っていた。
「ヴァイス(副)・キャプテン・ロウッ!」
「皆までおっしゃるな!」
次にオルスレーは、近くで戦っていた一人のPA装備の兵に声を掛ける。
そのロウと呼ばれたPA兵は、オルスレーが何を示したいかを承知している返答を返す。
「数名ッ、PA装備の兵は俺と前に出るぞ!仲間の後退を援護する、続け!」
「「「は!」」」
そしてロウは、他に周囲で戦闘を行っていた数名のPA兵に呼びかけ。数名のPA装備のキャプテンにウォーリアがすかさずそれに呼応。
そのPA兵たちは、防御陣地本陣を前方正面へと飛び出し。前進スポットから逃げ引く仲間を援護すべく、そして敵を迎え撃つべく、走り向かって行った。
ロウ率いる数名のPA兵は、前方へと走り出て展開。
「下がって再構築しろォっ!」
前進スポットなどから這って逃げ、後退して来たToB兵たちに張り上げ指示しながら。
己たちはその仲間の後退を援護するべく、入れ替わり正面へと出て。一秒を惜しんで片手間に銃火器を撃ち放ち始める。
「――ゥォォアアアッ!」
そのロウたちの前にまず姿を現し来たのは、一名のAFの装甲工作員。
その工作員はアドレナリン効果による興奮状態にあるのか、装備の大振りの金槌を振り上げ、PA装備のロウに向かって突進して来た。
「ッ!ヌぅッ!」
「ガェァッ!?」
その装甲工作員の襲撃行動にあっては、はっきり言って無謀な行いであった。
ロウの懐まで駆け込んだ装甲工作員は、しかしその振るい上げた金槌を、敵に叩きつけるよりも前に。
ロウの振るったPAアーム装備の腕による、殴打打撃を諸に受け。濁った声と、肉の拉げる嫌な音を立てて側方へと吹っ飛ばされて退けられた。
「ゥォァアアッッ!」
「ウォォォッ!」
だが周囲ではさらに、勢いのままに二人、三人とAF隊員が襲来。
また金槌を振り上げ、あるいは銃剣突撃にて。繰り出て来て展開していたPA兵たちへと肉薄を敢行する。
「!」
「ッぉ!小賢しい!」
AFの通常装備では、そのまま突っ込むだけでは、PAに対して一対一ではまず歯が立たない。
「ガェッ!?」
「ア゛ッ!」
突進を敢行したAF隊員等は、しかし次に次にとToBのPA兵の一隊に。捌くように退け蹴散らされて行く。
「ヤロォァァ――がェッ!?」
「ウォァァアッ――ガァッ!?」
だが、それでもAF側の各隊各員は突進を止めない。
むしろ、味方が容易くPA兵に退けられる姿を見て。怒り、頭に血が上る者が多発。
三人、四人、五人、六人、もっと。
ToBのPA兵たちに、AF隊員等は怒りと勢いに任せて突進を敢行。先に突っ込んだ味方隊員が、容易く拉げ吹っ飛ばされようとも、それを止めない。
「くっ、執拗だぞ!怯まないっ!?」
「ッー……!数だけの品の無いヤツらめッ!臆するな、全て退けろ!」
AF側の異様なまでの突進の波状攻撃に、ToBのPA兵たちは微かな狼狽や悪態を張り上げながらも。
その腕を振るい殴り、あるいは各装備火器を撃ち放ち。前方正面始め各方から迫り襲うAF隊員を退け続ける。
「――ォォァッ!」
「っ!」
その最中、また一名のAF装甲工作員がロウの懐へと肉薄。
ロウはそれを忌々しく思いながら、ここまでと同じように腕を振るって、拉げ撃ち飛ばそうとした。
――バシッッ。
だが。
鈍くも確かな、「受け止められる」ような音に感覚が、ロウに伝わったのは直後。
「ッぅ!?」
見ればなんと、ロウのPAアーム装備のその腕はしかし。装甲工作員のその「人間離れ」した、あまりに太い腕に「受け止め」られていた。
「ッォァッ!」
踏ん張り、まるで腕相撲の様相で、PA装備のロウの腕を掴み抑え、拮抗する姿を見せる装甲工作員。
その装甲工作員こそ突入前の今先程に、薬品による部分的ミュータント措置を自身に施していた隊員。
そのミュータント化させた彼の腕が、PAのその驚異的な腕力に、しかし拮抗することを可能としたのだ。
「小癪……な……っ!」
PA装備の腕とミュータント化した腕で掴み抑え合い、取っ組み合いの押し合いになる両者。
「ヴァイス・キャプテン・ロウ……っ!」
そんな所へロウに、背後に周囲からも苦し気な声が響き届く。
見ればロウ以外にも二、三名のPA兵が。また部分的ミュータント化を施し現れたAF隊員等に襲撃され、揉み合いに陥り動きを封じられていた。
「皆!?この!」
「皆から離れろ!!」
その仲間の危機に気付いたのは、少し離れた個所に位置取り戦っていた、また別の二、三名のPA兵たち。
彼等は装備火器を撃ちばらまく戦闘行動を一旦止め、ロウたちの助けに走り入ろうとした。
しかし、
「!」
直後。彼らの耳に響き届いたのは何か、空気を鈍く切るような掠れた音。
「っ!――」
仲間の応援に向かおうとしたPA兵の彼らは、しかしその音に引かれ振り向き。そして次にはその「正体」を見る。
しかし、それと同時に彼等は――爆炎と、暴力的な破壊に襲われ包まれ。
そのPAを纏う強靭な体を、爆ぜ散らかした。
「――命中」
少し離れた位置。
そこに配置していたのは、対戦車携行火器を扱うAFの対戦車班の一班。
その彼等が扱い、撃ち放った対戦車携行火器が、その弾頭が。
向こうのPA兵たちを爆炎と破壊の暴力で包み、弾き千切り、散らかしたのだ。
「次弾、ヨシ」
「了解、だが待機。あとは主力と工作班が「押し潰す」」
装填手の次弾装填完了の知らせに、しかし班指揮官は了解と併せて待機を命じる。
そして今に班指揮官が紡ぎ示した光景が、向こうに見えた。
「がァ……!?」
ロウたち、肉薄から抑え込まれ、揉みあいに陥ったPA兵たちからも。間もなく悲鳴が上がり始めた。
一人のPA兵がAF装甲工作員に抑え込まれていた所へ、別のAF隊員が現れ接近。そしてその隊員はPAの脚部間接の弱い部分を、サービスバトルライフルにて直近距離で撃ち抜き。それによってそのPA兵は崩れ膝を突く。
そしてPA兵は次にはその体を、揉みあっていた装甲工作員に、その部分的にミュータント化した腕に、乱雑に捕まえられて抑えられる。
「アァッ!!」
「っぁ……ゲぁッ!?」
そして抑えられたPA兵の、現れ晒されたアーマーヘルメットの首横の隙間に。サービスバトルライフル装備の隊員は、思いっきり装着する銃剣を刺し突き込み。
刺突にてそのPA兵を殺傷から無力化、沈黙させて見せた。
「がぁっ!?」
「クソォ……!――あが!?」
その様子は、他のPA兵も同じ。
AF隊員に数名がかりで群がられ、抑え込まれ。肉薄状態から晒すこととなったPAの脆弱な部分を狙われ。
一人、二人と無力化されて沈んでいく。
「ッ……このぉ!――がァっ!?」
そんな仲間が次々に崩れる気配に、断末魔を聞くロウ。そして彼にもその時は直後に訪れた。
藻掻き、しかしビクともしない装甲工作兵の腕を、まずは何としてでも退けようと。ロウがサブウェポンのレーザーピストルに手を伸ばそうとした瞬間。
しかしロウの脚に鈍い衝撃が襲い。彼はガクっと、膝を折って着いた。
「――ッ」
現れ、彼の脚を踏み抜き現れたのは「本家ミュータント」。一名のスーパーヒューマン隊員。
その健脚がPA装備のロウの脚を、しかし容易く踏み抜いたのだ。
「やれ、撃ち込めッ」
「了ッ」
さらにそのSH隊員に続いて現れたのは、汎用機関銃射手
射手は、崩れたロウのPAアーマーのヘルメットの隙間に、その銃口を突き込み捻じ込み。
発砲。
荒く乱雑に撃ち込まれた多数発の銃撃が、PAの「中身」を蜂の巣にし。
ロウを、仕留めて沈めた。
「排除!」
「進めェ!」
仲間の後退を援護するべく前進して来た、ロウたちPAの一隊は。しかしその代償としては排除され沈むに至り。。
進行上に現れた脅威を排除したAF各隊は。その場を掛け抜け進み、いよいよ本陣へと踏み込もうとした。
場はまた、ジョンソンの元へ。
「崩したか」
向こう前方に、各隊の尽力からPAの一隊が退けられた様子を見ながら。
ジョンソンは自身もまた、向こうへ大口径リボルバーを時折撃ち放ちながら。陣頭指揮のため、正面各隊に続きズンズンと歩み進んでいる。
「対戦車班、さらに指定位置へ。工作小隊、被害あるも前進継続中。1中、第3小隊前面に展開ッ」
そのジョンソンのお守りを兼ねる通信員が、ジョンソンの前を行き露払いをしながら。
同時進行で、通信にて届けられる各隊から状況を伝え知らせてくる。
「装甲車班も到着。2中、第1小隊展開」
続け、通信員のさらなる状況動向を知らせる言葉。
「もうひと踏ん張りかねェッ」
それに反応するように声を寄越したのは、またジョンソンの近くにて、やはり「お守り」を務めるコース。
彼は得物の20mm機関砲を唸らせばら撒きながら。変わらぬ皮肉気な声を零している。
他。
戦いの音に混じり、各員の報告やその他の言葉に声が、先程からジョンソンの周りではいくつも飛び交っていた。
「続けろ、このまま押し潰すッ」
そんな修羅場の如き状況の最中で、しかしジョンソンは毅然そして淡々とした態度姿を崩さず。
また大口径リボルバーを撃ち放ちながら、指示命令の声を張り上げ伝えた。
また再び、後方仮設駐屯地の野戦指揮所。
「――チェックメイトが近いか」
ラエは変わらぬ真剣な様相で、静かに零しながら。
作戦卓の地図上の駒を、その太い指先で。ToB本陣の位置へと動かし進めた。




