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走り去る女子高校生。だか俺からは逃げられない。
「【マーキング】、25番。」
よし。【マーキング】成功。井家田さんだったと思うが念のため。
「【ロックオン】、25番。」
「【ステータス】。」
『井家田みどり
HP 58/271
MP 351/351
SP 52/243
状態異常:−
スキル:四聖獣召喚』
やっぱり井家田さんか。【マーキング】したからもう慌てなくてもいいな。
「キャー!!」
やっぱり慌てなきゃ駄目みたい。
声のした方に駆け寄ると、井家田さんがゴブリン2匹に襲われていた。
「【マーキング】、30番。」
「【ロックオン】、30番。」
「【自滅スキル発動】。」
よし。1匹倒れた。
駆け寄りながらもう1匹に跳び蹴りを当てて吹き飛ばす。
【自滅】させた方のゴブリンから棍棒を奪い、頭を殴って止めを刺しておく。
吹き飛ばした方のゴブリンが立ち上がって襲い掛かってきた。棍棒に棍棒を合わせて防ぎ、前蹴りでもう一度吹き飛ばす。
怯んだ所に棍棒で殴りかかる。
「オラッ!オラッ!オラッ!」
掛け声とともに棍棒で連打したら、ゴブリンが倒れてしまった。死んだかな。
HPは無くなったみたいだったから、頭を殴って止めを刺しておこう。【自滅】スキル無しでも倒せたな。
さて、
「井家田さん。大丈夫?」
「大丈夫じゃない!もう嫌!帰りたい!」
それはそうだよね。
声は掛けずに戦闘前に放り投げた荷物を拾いに行く。直ぐに食べられる物は持ってないけど、水は持ってきている。とりあえずそれを与えてみよう。
「はいこれ。飲んでいいよ。」
井家田さんは俺が差し出したペットボトルを奪い取ると、ごくごくと飲んだ。余程喉が渇いていたのだろう。
飲み終えると話ができるようになったようだ。
「落ち着いた?」
「ありがとう。水ってこんなに美味しいんだね。」
「そうだね。渇きには水が最高だよね。今は持ってないけど、拠点には食べ物もあるよ。」
「本当!?お願い!食べさせて!何も食べてないの!」
「歩けそう?そこそこ距離があるんだ。」
「正直、もう歩きたくない。でもご飯のためなら歩く。」
「それじゃあ案内するよ。歩きながら状況を説明するね。」
「うん。」
井家田さんが立ち上がったのを確認してから拠点に向かって歩き出す。井家田さんはちゃんとついて来ているようだ。そう言えばおんぶすれば転移で帰れるんだよなぁ。まあいいか。歩きながら情報収集だ。
「俺たちは洞窟を見つけて、そこを拠点にしているんだ。メンバーは、俺、佐藤さん、真中さん、飯田さん、甘野さん、橋基君、戸田君。」
「戸田君!?」
「ああ、気付いてはいたんだね。そう、戸田君が一人で探索中に井家田さんが襲われているのを見つけたんだってね。でも湾藤たちに捕まっちゃったみたい。俺が帰りが遅い戸田君を探しに出て、捕まっている戸田君を見つけてね。戸田君を助けたんだけど、そこで井家田さんのことを聞いたんだ。戸田君はHPがゼロになってたから拠点まで送り届けて、その後に井家田さんを探しに来たんだ。」
「戸田君、無事だったんだ。何度も蹴られてたから殺されちゃったと思ってた。」
「さっき俺を見て逃げたよね?どうして?」
「男子に襲われた後だよ。怖かったんだよ。」
「それはそうか。湾藤たちに襲われた経緯は話せる?」
「モンスターが怖いからずっと隠れてたんだけど、近くを通りかかったから声を掛けたの。食べ物が無いか聞いたんだけど、お互い持ってなくて。このままじゃ死んじゃうって泣いたら煩いって怒りだして襲い掛かってきたの。「どうせ死ぬならお前でもいいや」って、酷いんだよ!」
「なるほどね。」
最初は湾藤たちも友好的だったんだな。
だがお互いに餓死の恐れがある差し迫った状況だった。そんな中で何らかの井家田さんの言動が気に障ったのだろう。最終的に暴力に出た湾藤たちが悪いのだが、その経緯においては井家田さんにも落ち度があった可能性がある。うーん。湾藤たちを見捨てて井家田さんだけ助けるのは何だかモヤモヤするなぁ。
「拠点に戻ったら取りあえず食べられる物をあげるけど、その後はどうする?」
「え?その後ってどういうこと?」
「井家田さんも何か生きる術を考えておかないと駄目だよ。今、拠点に案内するのは戸田君の温情によるものだけど、温情を与えられるのは余裕がある時だけだからね。こんな状況だから俺達にも大した余裕は無いんだ。厳しいことを言わせてもらうと、先を見越して行動しないなら切り捨てるよ。」
「何よそれ!湾藤みたいに体で払えと言うの!?」
怒り出しちゃったよ。俺は間違ったこと言ってないぞ。親切心から忠告しただけなのに。
「体で払えってのが、労働を意味しているならその通り。湾藤みたいって言うのは違うよ。そういうのは要らない。言っている意味は分かるかな?」
「何をしたらいいって言うの!?」
今度は泣きそうな顔をしているよ。情緒不安定だなぁ。
「何かできることはある?今後の展望は?」
「そんなの分かんないよぅ。うわぁーん。」
本格的に泣き出してしまった。面倒だな。