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第39話 糸を直す

根へ行ったのは、翌日だった。


 祖母は枝につかまり、リタが結んだ所へしゃがんだ。引かずに眺めてから、擦れている所へ当て布を挟んだ。


「ここを歩いたんだね」


「二歩。向こうで籠を受け取って、戻った」


 根の陰に、硬い地面の色があった。


 正面から見ると細い。少し腰をかがめると、道が根の裏へ回っているのが分かった。あの日、歩いて残した道だった。


「行ける?」


「今日はここの擦れた所を直そう」


 祖母は立ち上がる時、リタの肩を借りた。


     *


 新しい布を織り始めた。


 最初の一列は引きすぎた。端がくびれ、ほどいてやり直すことになった。


 リタは途中で椅子を離れ、戻ると、どこまで織ったのか分からなくなっていた。


 祖母は続きを代わりにやってくれなかった。


「ここ?」


「もう一つ手前」


 短い布ができるまでに、何日もかかった。


 根へ持っていき、古い糸に添えた。リタが歩いた短い道を、足元からたどる。端の傷んだ所へ新しい赤が重なると、硬い地面の匂いが近くなった。


 向こうで人の声がした。


「リタ?」


 遥だった。


 リタは顔を上げた。根の向こうに、靴が見えた。灰色の地面を踏んだ日本の靴だった。


「着いたよ」


 言ったが、返事はなかった。


 紬がしゃがみ、白い紙を差し出した。


『着いた?』


 リタは笑ってしまった。


 紙を受け取り、膝の上で返事を書いた。


     *


『ついた。四つ、たべた』


 遥は路地の壁へ背を預けた。


 横には鍋の絵があった。祖母らしい人の顔が、その隣に小さく描かれている。


「鍋、大きいね」


 紬が指した。


 遥は頷いてから、笑った。


 根の向こうでリタが何か言っている。今日は声が通りにくかった。紙をもう一枚出すと、向こうの手が受け取った。


 遥は右手を下ろしたまま、膝に肘を載せていた。


     *


 会える日ばかりではなかった。


 根の所へ行っても誰もいない日には、リタは帰って布を織った。約束を取り違えたこともあった。森の夕方と、日本の夕方はいつも同じではなかった。


 手紙には道と関係のない話が増えた。


 リタは布を二段ほどき直した。遥は課題をやり直した。紬は学校へ行った日のことを、短く書いた。


 祖母が読んでいいかと聞くと、リタは一枚だけ隠した。リタの描いた自転車が何に見えるか、三人で言い合った紙だった。


 布が肩へ掛かる幅になる頃、森に新しいリンゴが実った。


     *


 リタは根の陰をくぐり、日本の土の端へ靴を置いた。


 向こうから遥が手を出した。


 取れば、そのまま路地に立てる。


 リタは少しだけ握り、また森へ戻った。今日は祖母が待っていた。道を直す道具も、根のそばに広げたままだった。


「次は家まで行きたい」


 声が届いた。


 遥は頷いた。


「お茶、あるよ」


 リタは離した手を膝で拭いた。汗をかいていた。


 祖母の所へ戻ると、まだ片づけが終わっていなかった。


 リタは道具を籠へ入れた。次にこの籠を持つ時には、リンゴを入れるつもりだった。

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