↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/39

第36話 いってきます

土は残っていた。


 リタは最後の赤い角を掌へ広げた。


 祖母が織った布だった。端を抜くと、細い糸になる。指の溝が痛み、持つ所を替えた。


 最後の織り目がほどけた。


 もう、布はなかった。


 壁際の蓋に小さな穴がある。リタはそこへ端を通し、叔母に輪を支えてもらった。結び終えてから土へ足を出す。


 柔らかかった。


 日本の靴では、石の角が少し鈍く伝わる。木の根の脇の窪みは、見なくても足が向いた。


 歩いた二歩へ糸を置いた。


 根の枝分かれに結ぶと、残りはほとんどなかった。


 顔を上げれば、遥たちが見えた。


     *


 リタは土の端へ戻り、籠を受け取った。


 遥の左手が底を支えていた。リタが持ち手を握ると、ゆっくり離れた。


「おばあさんに、よろしくね」


 叔母が荷物を載せてくれた。


「話す。みんなの名前も」


 紬は白い包みの布を袋へ戻した。


「これも」


 リタは口を閉じた。


 結んだ赤は地面にある。頭にも、肩にも、もうなかった。


「糸が残ってたら、直せるかもしれない。おばあさんに聞く」


「こっちも、時々見に来る」


 遥が答えた。


 紬がその隣へ立った。


「来たら、今度は私が案内する」


「こっちを?」


「うん。行きたい店がある」


 リタは少し笑った。


「じゃあ、お願いします」


 丁寧すぎた。紬も笑った。


     *


 森へ向き直ると、籠の重さが腕へ戻った。


 土を踏み、根を越える。


 振り返った時、遥の手はまだこちらへ向いていた。リタが見ていると、ゆっくり下りた。


「いってらっしゃい」


 声が来た。


「いってきます」


 籠を傾けないように手を振った。


 木の間へ入ると、灰色の壁が細くなった。根に結んだ糸は切れていなかったが、人の顔はもう見えなかった。


 枝が髪へ触れた。


 リタは葉を払い、坂へ顔を向けた。


 祖母の家の煙突が見えた。


 煙は、まだ出ていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。