第34話 十人
地上には、まだ少し青い空が残っていた。
リタは昇降機から出て、立ち止まった。車の音がする。人が横を通り、急ぐように駅へ下りていった。
自転車修理店の椅子には、まことがいた。
佐伯さんの袖を握り、空き缶を膝に置いている。飯田さんは救急の人に足を見てもらっていた。
次の昇降機で上がった三人が合流し、紬もその隣へ立った。
リタは数えようとして、やめた。
叔母がもう、数えてくれていた。
*
住所を言える人たちは、電話を借りた。
リタも住んでいた所を聞かれた。森と、川と、祖母の家の話をする。相手は途中で口を挟まず、最後まで聞いてくれた。
叔母が横から、自分の家の住所を伝えた。
紬の名前が呼ばれると、遥は椅子から立ちかけた。叔母に右腕を支えられ、また座った。
「心配かけた」
紬が言った。叔母は返事をする前に抱きしめた。
ポケットの紙が少し出ていた。紬がそれを押さえると、叔母は腕の位置を変え、そのまま離さなかった。
*
「黒いキーケースも、なくしてね」
飯田さんが話していた。
遥が顔を上げる。
「白い糸で、縫ってありますか」
飯田さんはこちらを見た。
「最後の一目だけ、長くて」
「見たのかい」
「拾って、警察に預けました」
飯田さんは空のポケットを押さえた。
自分の家の鍵で古い戸を開けようとした時、取っ手の赤い端へケースが引っかかったという。道が曲がり、手から落ちた。それから見つからなかった。
「娘が縫ってくれたんだよ。曲がってるなんて言ってさ」
叔母が写真を出し、話を引き継いだ。
飯田さんは画面へ顔を寄せた。帰る家の電話番号はすぐ言えたのに、その縫い目を見てからは、しばらく黙っていた。
*
病院の待つ場所は明るかった。
リタは手を見てもらった。遥と紬も別々に呼ばれ、また同じ椅子へ戻った。
袋には、地下で拾えた切れ糸と、最後の赤い角がある。鋏の入れ物だけは戻ってこなかったので、刃を紙で包んでもらった。
遥が隣へ座る。
「もう、かぶれないね」
「おばあさんに、見せたかった」
「なくなった所も?」
「うん」
リタは頭へ伸ばしかけた手を下ろした。
紬が紙を広げた。九つの丸が全部囲まれていた。余白へもう一つ足す。
「これがリタ」
丸は少し歪んでいた。
リタは指で押さえ、何も言わなかった。
叔母が食べ物を持ってきた。紬が袋を開け、遥へ一つ、リタへ一つ渡した。
紙の擦れる音がした。
リタは途中で食べる手を止めたが、下の床は見なかった。
窓に、赤いずきんのない女の子が映っている。顔を動かすと、同じように動いた。
その横に三人が座っていた。




